この記事の目次
1. 就業規則とは
1.1. 就業規則は会社のルールブック
就業規則とは会社のルールブックです。
ルールを作成することで、労働者が何か悪いことをした際に懲戒にしたり、そもそも悪いことをしないよう牽制することができます。
しかも、このルールブックは、会社が主体性を持って定めることのできるルールブックであり、会社が主体性を持って作成できるということは、それだけ会社が有利なルールを作りやすい構造になっているといえます。
1.2. 会社が守らなければならないルールも定める必要がある
ただ、それだとあまりにも会社が有利すぎることから、労働基準法では労働者を守るため、就業規則に「会社が守らなければならないルール」も定めることが義務づけられています。
例えば、始業・終業の時刻、休憩時間、休日などがそれに当たります。(こうした就業規則に必ず記載しないといけない事項のことを「絶対的必要記載事項」といいます。)
ただ、「会社が守らなければならないルール」も定めなければならないとはいえ、それを差し引いたとしても、トラブル防止やトラブル発生時の対処、企業内秩序の維持という観点からいうと、就業規則を作成する意義はとても大きいと言えます。
2. 就業規則にできる3つのこと
就業規則は何かしらのリスクを回避するためにある、といえます。
リスクを回避するために法令を遵守し、労使トラブルというリスク避けるために規則を整えるわけです。
一方で、就業規則といえどもなんでもできるわけではありません。
むしろ「できる」ことは、実は以下の3つしかありません。
- 会社のコンプライアンスを高める
- 労務管理上の万が一のリスクに備える
- 職場のルールを明確化し、会社内の秩序を維持する
よって、この3つの目的を達成するために、就業規則を作成するわけです。
逆に言えば、就業規則がなくても、この3つの目的を達成できるのであれば、就業規則はいらない、ということになりますが、そういった会社は残念ながらほとんどないでしょう。
2.1. 1.会社のコンプライアンスを高める
就業規則は「常時10人以上」の労働者を使用する会社(個人事業含む)に作成義務があります。よって、使用する労働者が「常時10人以上」となった場合、就業規則を作成して監督署に提出しないといけません。
つまり、作成義務のある会社に関しては、作成すること自体が会社のコンプライアンスの第一歩と言えるわけです。
また、就業規則の規定の多くは労働者の労働条件に関することであり、会社の定める労働条件には法律上の規制があることがほとんどです。つまり、就業規則を作成するには法的な知識が必要であり、加えて、その内容は法律上の規制と同等以上とする必要があります。
日本の労働法令は、特に中小企業に厳しいと言われていますが、このハードルを越えられたとき、その会社はコンプライアンスをきちんとしていると胸を張れるわけであり、就業規則の作成は会社のコンプライアンスを高めるのに必要不可欠と言えます。
その他、次々と変わる労働諸法令、社会保険諸法令に対応するのに、労働契約や内規だけでは対応しきれないことも多いのですが、就業規則であれば、就業規則を作成・変更し、それを従業員に周知することで事足ります。
2.2. 2.労務管理上の万が一のリスクに備える
人が増えるとどうしても経営者の目がなかなか届かないところが増えはじめます。特に、労働者の数が10人前後となると、必ず1人くらいは「あれ?」と思う人がいるものです。
労務管理上の万が一のリスクの1つは、そうういう「あれ?」という人たちが会社内で悪いことをした場合です。
悪いことをしたのであれば、懲戒処分にするなりクビにするなりすればいいと思うかもしれませんが、就業規則をきちんと整備していたとしても、労働者を解雇することは簡単なことではありません。ましてや、就業規則のない会社ではいわずもがな。
罪刑法定主義
なぜなら、会社の懲戒は罪刑法定主義に則って行われなければならないからです。
罪刑法定主義とは、ある行為を犯罪行為として処罰するには法律に定めが必要という考え方です。
つまり、就業規則に「懲戒したい行為」に関する定めがないと、会社はその「懲戒したい行為」をした労働者を懲戒できないわけです。
「懲戒したい行為」とは会社によって様々ですが、例えば、横領されたり、情報漏えいがされたり、労働者がネット炎上させたり、あるいは労働者が交通事故を起こしてしまった場合などなど、いくらでも例を挙げることができます。
そして、そうしたことが起こると、順調にいっていたはずの会社の経営は思わぬところから揺らぐこともありえます。
そうしたリスクを回避するためにも就業規則は必要なのです。
2.3. 3.職場のルールを明確化し、会社内の秩序を維持する
就業規則は職場のルールとよく言われますが、そうした職場のルールを定め、違反した人に対して懲戒ができるようにしておくのが就業規則の役割です。
2と重なる部分が多いですが、それ以外の部分として「会社の業務命令権の確保」という役割もあります。
会社の業務命令には、労働契約を結ぶと当然に権利として発生するものも在れば、就業規則に定めないとその効力が発生しないものもあります。
例えば、日々の業務に関する指揮命令に関する権限は、労働契約があれば当然に発生する業務命令権の範囲で行えます。異動や昇格人事なども同様です。
一方で、残業命令や出向命令などは労働契約又は就業規則にその根拠がない限り、当該労働者の同意がないと、会社はそれを行わせることができません。
つまり、就業規則で会社の業務命令権をきちんと確保した上で、会社内の秩序を維持する役割が就業規則にはあるわけです。
3. 就業規則にできないこと
一方で、以下の通り、就業規則にはできないこともあります。
3.1. ① 規則がない中で起きてしまった問題の解決(罪刑法定主義と法の不遡及)
この罪刑法定主義の原則は就業規則にも適用され、会社が労働者を懲戒処分する際、あらかじめ就業規則に懲戒事項を定めていないとそうした懲戒処分を行うことはできません。
また、ある行為を犯罪行為として法律で定めたとしても、法律で定められる前に行われたその行為については、その法律で処罰することはできません。これを法の不遡及といい、罪刑法定主義同様、こちらも就業規則に適用されます。
よくある就業規則を作成するきっかけとして、会社内で何らかの問題が起きたので、その解決のために就業規則を作成したい、というのがあります。
例えば、労働者が会社に重大な損害を与えるような行為したことに対し、処分等をしたいけれど、就業規則にそうした規定がない、あるいはそもそも就業規則がないので、作成したいというものです。
しかし、上記の法の不遡及の原則により、例えそうした規則を後追いで作成したとしても、当該労働者をその規則で処分することはできません。
ようするに、就業規則は問題が起こる前に作成しておけば、様々なことに対処できるものの、問題が起こった後に作成してもできることは限られるということです。もちろん、同じ過ちを繰り返さないという意味で、問題が起こった後に就業規則を作成したり、対応規定を就業規則に定めたりすることには意味があります。
3.2. ② 会社を元気にする
就業規則で会社を元気にする、あるいは逆に会社を元気にする就業規則、という謳い文句をたまに見ますが、本当にそういったことが就業規則に可能なのか、筆者は疑問です。
すでに解説したとおり就業規則の主な役割は「労働条件」「服務規律」「業務命令権」を決定することですが、いずれも「会社を元気にする」役割がないからです。
「会社を元気にする」ことについては、強いて言えば、昇給、昇格などのインセンティブを定めることでそうしたことは可能かもしれませんが、これらは就業規則でなくてもできることです。むしろ、就業規則には最低限のことを定め、社内制度として行った方が、柔軟性高く運用ができるはずです。
会社の元気、という観点で言うと、労使間でトラブルが起きると会社の元気が削がれるのは確かなため、そうした労使間のトラブルに対処できる就業規則というのは会社の元気を削がないためのものと考えるべきでしょう。会社を元気にする(というのが、具体的にどのようなことを指すのかもよくわかりませんが)ために行うべきことは、社内制度を整えて行ったほうが効率的です。
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