労働契約に契約期間を設けるかどうかは労使間の自由ですが、設ける場合には法律上、様々なルールがあります。
ここでは、そうした有期雇用契約におけるルールを解説しつつ、就業規則に条文を定める際のポイントについても解説を行っていきます。
この記事の目次
1. 法令から見た「有期雇用契約」のポイント
1.1. 労働基準法における契約期間のルール
契約期間の上限
労働基準法にて、有期の雇用契約を締結する際、1回の契約期間の長さは最長3年とされています。
ただし、一定の高度の専門的知識等を有する労働者および60歳以上の労働者については、最長5年となります。
また、一定の事業の完了に必要な期間で有期雇用する場合も、例外的に3年より長い期間を定めることができます。例えば、建設期間が3年半のビルの建設のために雇用する場合、3年半の有期雇用契約を結ぶことは労働基準法上、問題ないわけです。
なお、法律に違反してこれらの上限を超える期間が定められた場合、その契約期間は法律上の上限に改められます。
契約期間の下限
1回の有期雇用契約の契約期間の上限は、上記の通りですが、一方、契約期間の下限については特に法律上の制限はありません。
そのため、3か月や6か月の他、1週間や1日といった契約期間であっても、法律上は問題ないわけです。
通算契約期間
1回の有期雇用契約の契約期間の上限は3年(特例労働者については5年)ですが、契約を何度も更新して、通算契約期間がこれを超えることは、労働基準法上、特に問題はありません。
ただし、通算契約期間が5年を超えると、後述する無期転換申込権などの労働契約法上の問題が発生するため注意が必要です。
労働契約の絶対的明示事項
契約期間が有期となる場合、契約期間に関することは労働契約の絶対的明示事項となります。
そのため、会社は労働者に対し、労働条件通知書に書面で必ず契約期間に関することを通知する必要があります。
通知する必要がある内容は具体的には以下の通りです。
明示のタイミング | 通知が必要な明示事項 |
有期労働契約の締結・更新時 |
|
無期転換申込権が発生する有期労働契約の更新時 |
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「労働契約の期間に関する事項」「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項」以外は、令和6年4月からの追加事項ですが、そちらについては以下の記事で詳しくまとめているので、こちらもご覧いただければと思います。
1.2. 労働契約法における有期雇用契約のルール
通算契約期間が5年を超えた場合、無期転換申込権の発生
会社との間で締結された有期雇用契約の通算契約期間が5年を超えた場合、その労働者には契約期間を無期とすることを申込みできる権利、いわゆる「無期転換申込権」が発生します。
労働者から無期転換の申込みがあった場合、会社はこれを拒否できません。
なお、実際に労働者の無期転換申込権が発生するのは契約期間が通算で5年を超えた後ではなく、通算契約期間が5年を超える契約期間中に発生します。
例えば、1年ごとの更新の場合、5回目の契約更新の後の契約期間に無期転換申込権が発生しますが、3年ごとの更新の場合、初回の3年契約終了後の次の契約期間中から当該労働者は無期転換の申込をすることが可能です。
無期転換ルールの注意点
ただし、この無期転換ルールは、通算契約期間が5年を超えた場合に自動で無期転換されるわけではありません。
あくまで「労働者から無期転換の申込み」があった場合に無期転換する必要があるだけです。なので、労働者から申込みがない場合、会社は有期雇用労働者の契約期間を有期から無期に転換する必要はありません。
また、申込みがあった場合も、求められるのはあくまで有期から無期への転換だけであり、パートを正社員にするなどのように、契約期間以外の労働条件まで変更する義務は会社にありません。
有期雇用契約の満了・雇止め
有期雇用契約であれば、会社の経営が苦境に陥ったり、社員が問題を起こした際に契約を終了しやすいと考えられがちですが、必ずしもそうではありません。
というのも、その有期労働契約が過去に何度も更新されている場合、有期雇用契約を結ぶ労働者側には次も当然に契約が更新されるであろう期待が生まれるため、その有期雇用契約は無期雇用契約とほぼ変わらない扱いが、労働契約法上はされるからです。
このような場合で、会社が契約期間満了で労働契約を終了したいけど、労働者側が契約更新を望む場合、その契約の解約には無期雇用契約における解雇と同程度の要件が必要となります。
つまり、雇止めにあたって客観的合理的な理由と、その雇止めが社会通念上相当と認められる必要があるわけです。
解雇における客観的合理的な理由および社会通念上相当の考え方は、以下の記事で詳しく解説しています。
2. 「有期雇用契約」条文の必要性
有期雇用契約や契約期間については、個々の労働者との労働契約においては絶対的明示事項となりますが、就業規則の絶対的・相対的必要記載事項ではありません。
そのため、必ずしも就業規則に記載が必要というわけではありません。有期雇用契約の労働者がいないのであれば、なおさらです。
ただ、契約期間の上限や更新回数について、労働者事ではなく会社全体で統一する場合などは、労働契約ではなく、就業規則に定めておいた方が良いでしょう。
3. 「有期雇用契約」条文作成のポイント
3.1. 通算契約期間や更新回数に上限を設ける場合の注意点
有期雇用契約に通算契約期間の上限を設けたり、更新回数に上限を設けること自体は違法ではありません。
一方、厚生労働省の告示では、更新上限を新設または短縮する場合、その理由を有期契約労働者にあらかじめ(更新上限の新設・短縮をする前のタイミングで)説明することが必要ともされているため、注意が必要です。
3.2. 嘱託社員の契約期間については個々に定める
契約期間を定める雇用形態としては、契約社員やパート・アルバイトなどが多いことでしょう。
逆に、正規で有期雇用契約を結ぶ、ということはまずないため、有期雇用契約に関する条文を就業規則に定める場合、契約社員就業規則やパートタイマー就業規則にのみ定めておけば事足りるという場合がほとんどです。
また、同様に契約期間を定めて雇用されることの多い嘱託社員(定年後再雇用者)については、契約期間の定め方やルールが他の契約社員やパート・アルバイトと異なることが多いので、これらとは別で就業規則に定めを行った方が良いでしょう。
嘱託社員の契約期間の定め方については、具体的には以下で詳しく解説しています。
4. 就業規則「有期雇用契約」の規定例
第○条(労働契約の期間)
- 会社は、従業員と労働契約を締結するに当たって期間の定めをする場合は、3年(満60歳以上の者との契約については5年)の範囲内で、契約時に本人の希望を考慮の上、各人別に決定し、労働条件通知書によって通知する。
- 前項の場合において、当該労働契約の期間の満了後における当該契約に係る更新の有無については、別途、労働条件通知書で通知する。
5. 規定の変更例
5.1. 契約期間に上限を設ける場合
第○条(労働契約の期間)
- 会社は、従業員と労働契約を締結するに当たって期間の定めをする場合は、3年(満60歳以上の者との契約については5年)の範囲内で、契約時に本人の希望を考慮の上、各人別に決定し、労働条件通知書によって通知する。
- 前項の場合において、当該労働契約の期間の満了後における当該契約に係る更新の有無については、別途、労働条件通知書で通知する。
- 前各項にかかわらず、期間の定めのある労働契約の通算契約期間は5年を超えないものとする。
6. その他
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