日本社会全体の高齢化が進む中、定年を含む高齢者の労務管理は年々その重要性は高まっています。高齢化が進み、労働人口が減少するということは、簡単に新しい労働者を雇うということができないといことだからです。
加えて、政府もまた労働人口の減少の対策として、高齢者の就労を法律や助成金を使って企業に促しています。つまり、定年制度を含む高年齢者の労務管理とは、会社の将来的な成長や存続に加え、法的にも対処が必要な課題となっているわけです。
そのため、この記事では定年や高年齢者の労務管理に関する法的なポイントを解説しつつ、就業規則に定める際にポイントとなる点についてまとめていきます。
この記事の目次
1. 法令から見た「定年」のポイント
1.1. 定年とは
定年とは、一般には定年退職のことを指します。
そして、定年退職とは、一定の年齢に達した労働者を自動的に退職とする措置のことを言います。
なお、定年という言葉自体は、一定の年齢に達した際に何かしらの措置を行うことを指す言葉なので、例えば、役職定年(※)など別の措置に使われることもあります。
※ 一定の年齢に達した際に役職を外す制度
1.2. 無期雇用労働者にのみ適用
定年退職は無期雇用の労働者にのみ適用されるものです。
有期雇用の労働者については、契約で定められた契約期間が優先されるため、定年は適用されません。
そのため、仮に有期雇用労働者の契約更新を、一定の年齢を限度としたい場合は、定年の定めとは別にそうした定めを就業規則等に定めておく必要があります。
1.3. 定年を設けるのは義務ではない
定年制度を定めることは、法律上の義務ではありません。
そのため、会社として定年を設けないこともできます。
1.4. 定年を定める場合は60歳を下回る年齢を設定することはできない
定年制度を定める場合、定年退職の年齢について、60歳を下回る年齢を定めることはできません。
これは高年齢者雇用安定法にて定められているものですので、例えば、定年退職の年齢を55歳とすることは法違反となります。
1.5. 65歳までの高年齢者雇用確保措置の義務
高年齢者雇用安定法では、会社に対し、高年齢者の雇用を確保するため、以下のいずれかの措置を実施する義務を課しています(高年齢者雇用確保措置)。
- 65歳以上まで定年の引上げ
- 希望者全員を対象とする65歳までの継続雇用制度の導入
- 当該定年の定めの廃止
継続雇用制度とは
上記の措置のうち「65歳以上まで定年の引上げ」「当該定年の定めの廃止」については、言葉の通りなので問題ないと思います。
一方で、2の「継続雇用制度」とは、定年後も継続して雇用することをいいますが、この継続雇用には大きく分けて2つあります。
一つは定年年齢に達した際に、一度退職扱いとした上で再雇用するもの(再雇用制度)。
もう一つは定年年齢に達した際に退職扱いとせずに継続して雇用するものです(勤務延長制度)。
一度退職扱いとする再雇用制度の場合、定年で一旦契約が終わる形となるので、再雇用の際に労働契約の内容を見直すのが普通です。
一方、退職扱いとしない勤務延長制度の場合、定年前の契約がそのまま続く形となるので、契約内容は定年前と同じになります。
絶対に65歳まで雇用しなければならない、わけではない
上記の措置が会社に義務づけられていることを指して「会社は65歳まで労働者を雇用しなければならない」と言われることがありますが、厳密にはそうではありません。
例えば、一度退職扱いとする継続雇用の際、定年後に結ぶ新たな契約内容が労使間で同意が得られなかった場合でも、労働者が希望する場合、会社がなにがなんでも65歳まで雇用しないといけないかといえばそんなことはないわけです。
法律が義務づけているのは、あくまで「継続雇用制度の導入」の措置を実施するところまでです。
なので、契約が合意に至らない場合まで、65歳まで必ず契約しなければならない、ということはないわけです。
1.6. 70歳までの高年齢就業確保措置の努力義務
上記の高年齢者雇用確保措置に加え、令和2年の改正法施行により、会社には70歳までの高年齢者の就業を確保する措置の実施が努力義務として課せられています(高年齢者就業確保措置)。
- 当該定年の引上げ(70歳以上)
- 65歳以上継続雇用制度の導入(70歳以上)
- 当該定年の定めの廃止
- 創業支援等措置
上記のうち1.、2.、4.については高年齢者の70歳までの雇用または就業を確保するものである必要があります。
また、2.の65歳以上継続雇用制度については、65歳以降もその会社で継続雇用する制度以外に、65歳以降の高年齢者を、特殊関係事業主(グループ会社の事業主)以外の他の事業主が引き続いて雇用する制度も認められます。
4.の創業支援等措置とは、雇用という形ではなく、フリーランス化もしくは起業した高年齢者と委託契約等を結んだり、会社もしくはその他法人が実施する社会貢献事業に参加させたりことで、当該高年齢者の就業を確保する措置をいいます。
いずれにせよ、現行法ではあくまで努力措置ですので、会社のキャパシティでできる範囲での対応で問題ありません。
2. 「定年」条文の必要性
定年は就業規則の絶対的必要記載事項である「退職」に関する事項です。
そのため、定年を定めること自体は会社の義務ではないものの、定年を定めている会社では就業規則への定めが必須となります。
3. 「定年」条文作成のポイント
3.1. 定年退職の年齢
定年退職の年齢については60歳を下回る年齢を定めることはできませんが、60歳以上であれば、何歳としても問題ありません。
そのため、65歳や70歳などを定年年齢とすることもできます。
3.2. 定年退職日の日付
定年退職の退職日をいつとするかは、60歳の誕生日より前にならない限り、会社の裁量の部分となります。
そのため、記事の最後の規定例のように「60歳の誕生日」ではなく、「60歳の誕生日の直後の賃金締切日」や「60歳の誕生日の属する年度の末日」のように、賃金の締切や契約期間からみて切りのいい日を定年退職日とすることも可能です。
3.3. 65歳までの高年齢者の雇用確保措置をどうするか
65歳までの高年齢者雇用確保措置や、70歳までの高年齢者の就業確保措置については、会社側に様々な選択肢があります。
再雇用による継続雇用制度を選択する場合、同一労働同一賃金に注意
いずれの措置を実施するかは会社の裁量の部分となりますが、一般的には定年退職の際に労働契約を見直すことができる再雇用(定年で一旦退職扱いとし、再度契約を結び直す)を選択する会社が多いようです。
再雇用を行う場合、再雇用後は非正規扱い(嘱託社員などとすることが多い)とすることが一般的ですが、これにより雇用期間が有期となったり、所定労働時間が短くなったりすると、パートタイム・有期雇用労働者法の対象となります。
パートタイム・有期雇用労働者法の対象となるということは「同一労働同一賃金」の対象になるということです。
よって、再雇用によって給与を引き下げる場合、その引き下げにきちんとした理由がないと、同一労働同一賃金に違反する可能性があるので注意する必要があります。
嘱託社員の就業規則を忘れずに作成
定年退職職者を再雇用する場合、当該労働者は非正規扱いになることが多いですが、こうした労働者向けの就業規則(いわゆる嘱託社員就業規則)、正社員の就業規則とは別にきちんと用意しておく必要があります。
嘱託社員と正社員では、手当や賞与、退職金などで異なる扱いをしていることが多いと思いますが、仮に嘱託社員就業規則がないと、正社員の就業規則が適用されてしまい、嘱託社員に払うつもりのなかった手当等を支払わなければならない、ということが起こり得るからです。
定年年齢の延長や定年の廃止を行う場合、人件費に注意
再雇用ではなく、定年年齢を65歳や70歳に引き上げたり、定年自体を廃止するという選択肢ももあります。
ただし、再雇用と違って、こうした措置を実施する場合、定年を理由に賃金を引き下げることは難しいという点はあらかじめ押さえておく必要があります。
いずれにせよ、高年齢者の雇用確保については会社の目的や実態に合った措置を選択すべきです。
3.4. 65歳以降の雇用
65歳以上70歳までの高年齢者の就業確保措置については、現行法ではあくまで努力義務です。
そのため、余裕がない、という会社は無理して措置を行う必要がないので、実施するかどうかは会社ごとの判断となります。
65歳以降の継続雇用
なお、65歳以降の継続雇用(再雇用)については、65歳までの継続雇用と異なり、65歳から70歳までの継続雇用については、再雇用するかどうかについて、人事評価の成績など継続雇用の基準を定め、その基準を満たす者のみを再雇用する、ということが可能です(※)。
一方で、会社が恣意的に特定の労働者のみを再雇用とすることは問題があるため、65歳以降も継続雇用を行う場合は65歳前と同じく希望者全員を対象とするか、継続雇用の基準を定め基準を満たす者のみを再雇用とすべきです。
※ 厳密には、65歳までの雇用であっても、平成25年3月31日までに対象者基準に係る労使協定を締結している場合、基準を設けることが可能。
4. 就業規則「定年」の規定例
第○条(定年)
- 従業員の定年は満60歳とし、60歳の誕生日を定年退職日として退職とする。
- 前項にかかわらず、定年に達した従業員が希望した場合で、解雇事由または退職事由に該当しない者については、再度労働契約を締結し直した上で、65歳の誕生日に達するまでを限度として、嘱託社員として継続雇用することがある。
- 嘱託社員としての労働契約は最長1年間の有期雇用契約とし、労働契約書に定める更新基準に則り、更新の有無を判断する。
5. 規定の変更例
5.1. 定年を設けない場合
第○条(定年)
従業員の定年は設けないものとする。
5.2. 定年退職の退職日を誕生日直後の賃金締日とする場合
第○条(定年)
- 従業員の定年は満60歳とし、60歳の誕生日の直後の賃金締切日を定年退職日として退職とする。
- 前項にかかわらず、定年に達した従業員が希望した場合で、解雇事由または退職事由に該当しない者については、再度労働契約を締結し直した上で、65歳の誕生日に達するまでを限度として、嘱託社員として継続雇用することがある。
- 嘱託社員としての労働契約は最長1年間の有期雇用契約とし、労働契約書に定める更新基準に則り、更新の有無を判断する。
5.3. 65歳まで継続雇用し、さらに70歳まで希望者を継続雇用する場合
第○条(定年)
- 従業員の定年は満60歳とし、60歳の誕生日を定年退職日として退職とする。
- 前項にかかわらず、定年に達した従業員が希望した場合で、解雇事由または退職事由に該当しない者については、再度労働契約を締結し直した上で、65歳の誕生日に達するまでを限度として、嘱託社員として継続雇用することがある。
- 前項にかかわらず、65歳に達した従業員が希望した場合で、解雇事由または退職事由に該当しない者については、再度労働契約を締結し直した上で、70歳の誕生日に達するまでを限度として、嘱託社員として継続雇用することがある。
- 嘱託社員としての労働契約は最長1年間の有期雇用契約とし、労働契約書に定める更新基準に則り、更新の有無を判断する。
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