会社は、一定の条件を満たす労働者に対し、必ず年次有給休暇を付与しなければなりません。
この条件は2つあり、一つは勤続年数、もう一つは出勤率です。
ここでは、年次有給休暇の付与の条件となる出勤率について解説していきます。
この記事の目次
1. 就業規則「出勤率(年次有給休暇)」の規定例
第○条(出勤率)
- 年次有給休暇の付与条件となる出勤率の算定に当たって、次の期間は出勤したものとみなす。
① 業務上の傷病による休業期間
② 産前産後休業の取得期間
③ 育児休業、介護休業の取得期間
④ 年次有給休暇の取得期間 - 年次有給休暇の付与条件となる出勤率の算定に当たって、次の期間は所定労働日に含めないものとする。
① 慶弔休暇の期間
② 母性の保護の休暇の期間
③ 公民権行使の時間の期間
④ 子の看護休暇および介護休暇の期間
⑤ 使用者側に起因する経営、管理上の障害、その他会社都合による休業日
⑥ 正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日
⑦ その他、不可抗力による休業日
2. 条文の必要性
「休暇」に関することは就業規則の絶対的必要記載事項に当たります。
年次有給休暇は「休暇」ですので、例え、会社内のルールが法律上の内容そのままであったとしても、就業規則にその定めをしなければなりません。
また、後述するように、めったに算定する機会のない出勤率ではあるものの、もしもその必要が出てきたときのために、就業規則にきちんとその定めをしておくと、慌てず対処することができるでしょう。
3. 年次有給休暇の出勤率の法制度上のポイント
3.1. 年次有給休暇の出勤率とは
会社は、一定の勤続年数を超えた労働者に対し、法律で定められた日数以上の年次有給休暇を付与する義務があります。
ただし、付与日の直前1年間(初回の付与については6か月間)の出勤率が8割未満の者には、年次有給休暇を付与する義務はありません。
つまり、年次有給休暇の出勤率とは、勤続年数と並ぶ、年次有給休暇の付与の条件なのです。
ただし、通常は出勤率が8割を切るようなことはほとんどなく、そこまで勤怠の成績が悪いものについては、休職等の措置が取られることが多いため、実務上、出勤率が問題になることはあまりありません。
3.2. 出勤率の算定方法
出勤率は、年次有給休暇の付与日の直前1年間(初回の付与については6か月間)の所定労働日の出勤率でみます。
なので、例えば、4月1日入社の場合、10月1日が初回の付与日となるので(斉一的付与等をしていない場合)、4月1日から9月30日までの6か月間で、出勤率を算定します。
所定労働日の出勤率なので、休日出勤により所定労働日以外の日に出勤したとしても、出勤率の計算には影響はありません。
3.3. 年次有給休暇の出勤率の算定上、出勤したとみなす期間
法律上、以下の期間については、出勤率の算定の際に、出勤したとみなして計算する必要があります。
① 業務上の傷病による休業期間
② 産前産後休業の取得期間
③ 育児休業、介護休業の取得期間
④ 年次有給休暇の取得期間
なので、例えば、育児休業により1年間まったく出勤がなかったとしても、その期間は全て出勤したと考えて、年次有給休暇の出勤率を算定する必要があります。
3.4. 年次有給休暇の出勤率の算定上、所定労働日から除外する期間
次の期間については、所定労働日から除外して出勤率を計算する必要があります。所定労働日から除外して計算する、というのは要するに、出勤率を計算する際の分母にも分子にも、以下の期間は含めないということです。
① 使用者の責に帰すべき事由によって休業した日
② 正当なストライキその他の正当な争議行為により労務の提供がまったくなされなかった日
③ 休日労働させた日
④ 法定外の休日等で就業規則等で休日とされている日等であって労働させた日
4. 条文作成のポイント
4.1. 年次有給休暇規定の分割
「年次有給休暇の付与」の記事で解説しているとおり、弊サイトの規定例では「付与」に関連する「年次有給休暇の付与」と「出勤率」、「取得」に関連する「年次有給休暇の取得」と「年次有給休暇の時季指定」の合計4つの規定に分割しました。
もちろん、これは一例ですので、この通りにする必要はありません。
実際、他の規定例は、上で分けた4つを全て一つの条文にまとめていたり、もっと細かく分割する規定例も見られます。
条文例の作成者としては、これぐらいがちょうどいい塩梅だと思って分割しましたが、これだとわかりづらい、イメージしづらい、ピンとこない等々の場合は、他の規定例を見てみるのも良いでしょう。
参考:年次有給休暇関連の条文作成のポイントと規定例
就業規則の「年次有給休暇の付与」条文の作成のポイントと規定例
就業規則の「出勤率(年次有給休暇)」条文の作成のポイントと規定例
就業規則の「年次有給休暇の取得」条文の作成のポイントと規定例
就業規則の「年次有給休暇の時季指定(年5日取得)」条文の作成のポイントと規定例
4.2. 出勤したとみなす期間と所定労働日から除外する期間の関係
年次有給休暇の出勤率の計算をするにあたって、特定の期間を「所定労働日から除外する」よりも「出勤したとみなす」方が、労働者にとって有利となります。
就業規則では、法律よりも労働者側が不利になるような定めはできませんが、法律よりも有利となる分には問題ありません。
そのため、上で挙げた「出勤したとみなす期間」で挙げた項目を「所定労働日から除外する期間」の項目に移すことはできませんが、その逆は可能です。
4.3. 年次有給休暇の出勤率の算定上の特別休暇等の取扱い
上記規定例で所定労働日に含めないとしている「慶弔休暇」「母性の保護の休暇」「公民権行使の時間」「子の看護休暇および介護休暇の期間」については、法律上はその扱いについて特に定めはありません。
そのため、出勤したとみなすことや、逆に所定労働日に含めてしまうことも可能です。
とはいえ、特に育児・介護に関連する休暇に関しては、労働者が休暇を取得することを萎縮させてしまうような制度とすることは望ましいものとはいえないでしょう。
4.4. 年次有給休暇の出勤率の算定上の休職期間の取扱い
休職期間中の年次有給休暇の出勤率の取扱いについても、法律上の定めや明確な通達があるわけではありません。
ただ、出向休職については会社都合の休職となるため、所定労働日に含めないのが妥当と考えられます。とはいえ、在籍出向の場合、実務上は、出向先での勤務成績を基にこれを算定することがあるので、個々の契約や出向規程等に定めることを想定し、上記規定例では特に定めをしていません。
私傷病休職についても判断が分かれるところがありますが、私傷病休職は欠勤の延長としての性質が強いことを考えると、基本的に欠勤扱いとして問題ないと考えられます。
ただし、会社の裁量で所定労働日に含めない、という扱いをすることも可能です。
5. 規定の変更例
5.1. 私傷病休職等を含む休職期間を出勤率算定の所定労働日に含めないとする場合
第○条(出勤率)
- 年次有給休暇の付与条件となる出勤率の算定に当たって、次の期間は出勤したものとみなす。
① 業務上の傷病による休業期間
② 産前産後休業の取得期間
③ 育児休業、介護休業の取得期間
④ 年次有給休暇の取得期間 - 年次有給休暇の付与条件となる出勤率の算定に当たって、次の期間は所定労働日に含めないものとする。
① 休職の期間
② 慶弔休暇の期間
③ 母性の保護の休暇の期間
④ 公民権行使の時間の期間
⑤ 子の看護休暇および介護休暇の期間
⑥ 使用者側に起因する経営、管理上の障害、その他会社都合による休業日
⑦ 正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日
⑧ その他、不可抗力による休業日
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