人間が生活していく上では、身体的な健康だけでなく、精神的な健康もまた非常に重要性です。
精神の健康が害される要因の多くは「ストレス」にあるといわれており、現在では一定の規模以上の会社で、このストレスの程度をチェックする「ストレスチェック」の実施が義務づけられています。
この記事ではストレスチェックについて、法律上のポイントや就業規則への規定例について解説していきます。
この記事の目次
1. 法令から見た「ストレスチェック」のポイント
1.1. ストレスチェックとは
ストレスチェックとは、労働者本人が、自分が今どの程度のストレスを感じているかをチェックするもので、メンタルヘルスに関連する労災等が増加を背景に平成27年12月1日に実施が義務化されました。
1.2. ストレスチェックの目的
ストレスチェックを行う目的は、以下の通りとされています。
- 一次予防を主な目的とする(労働者のメンタルヘルス不調の未然防止)
- 労働者自身のストレスへの気付きを促す
- ストレスの原因となる職場環境の改善につなげる
要するにストレスチェックを通じて、労働者が本人が自分のストレス状況知るとともに、会社はそうしたストレスの原因となるものを取り除き職場環境をより良くしましょう、というわけです。
1.3. ストレスチェックの対象事業者
ストレスチェックは50人以上の労働者を雇う事業場が義務化の対象です。義務化の対象となる事業場は、ストレスチェックを行い届出を提出する義務があります。なお、50人未満の事業場は当面の間、努力義務となります。
法人単位ではなく事業場単位で50人以上、というのがポイントです。
事業場単位の場合、同じ法人であっても、場所が違う場合は別事業場扱いとなるからです。
法人全体で50人以上の労働者がいる場合でも、工場や支店等(このおのおのの場所を、一つ一つの事業場と考えます)に労働者が散らばっていて、各々の事業場で50人に満たない場合は努力義務となります。
なお、この50人以上の労働者については、継続して雇用しているのであれば、週1日出勤や1日2時間労働など、所定労働時間の所定労働日数等が少ないパートタイマーや有期雇用労働者であっても、この中に含める必要があります。
1.4. ストレスチェックの実施頻度
ストレスチェックは1年以内に1回、定期に行う必要があります。
定期の健康診断と同じ実施頻度ですので、定期の健康診断と同時期に行うのが効率よいでしょう。
1.5. ストレスチェックの対象となる労働者
ストレスチェックの対象となるのは常時使用する労働者です。
この常時使用する労働者の中には、いわゆる正社員の他、正社員と比較して所定労働時間が4分の3以上の労働者や、1年以上使用される予定のある契約社員も含まれます。
こちらも、定期健康診断と対象者の範囲は同じとなります。
1.6. ストレスチェックの実施者
ストレスチェックを実施する義務があるのは会社ですが、実際に実施することはできません。
というのも、ストレスチェックを実施できるのは医師と保健師、それに厚労省の研修を受けた看護師および精神保健福祉士(以下、実施者)のみだからです。
ただし、「実施事務従事者」として、上記の地位にない会社内のものが実施者のサポートとして、ストレスチェックを行うことは可能です。
なので、実施者として医師等の名前は借りるものの、実際にストレスチェックの実務は社内の実施事務従事者が行う、ということもできるわけです。
ただし、労働者に対して解雇や昇進といった人事権を持つ管理監督者の地位にあるものは、ストレスチェックに関連する事務に従事することもできません。
1.7. ストレスチェックの結果
ストレスチェックの実施者は、その結果をストレスチェックを行った労働者に対して速やかに通知する一方、労働者の同意がない限り、個々の労働者の結果を会社に通知してはならないとされています。また、同意についても実施者は、口頭ではなく、書面か電子的に残るもので得る必要があります。
義務が課されて費用負担も会社なのに、会社はその結果がわからないとは何事だと思われるかもしれませんが、ストレスチェックの結果は非常にセンシティブな個人情報なのでこれはしょうがないことです。
代わりといってはなんですが、ストレスチェック全体の結果を集団分析することについては会社の努力義務とされていて、その情報を会社が実施者から得ることは可能となっているの、業務の改善にはこちらを利用しましょう。
1.8. 面接指導
結果に不安を持った労働者は直接医師の診断を受けることもできますが、事業者に対して相談することができます。その際、事業者は相談に来た労働者に対して不利益な扱いをしてはならないとされています。
相談があった際、事業者はその労働者に面接指導してもらうよう、医師に依頼しなければなりません。このあたりのことは現行法の長時間労働に対する医師の面接指導と基本的に同じです。
要するに会社はストレスチェック後に、労働者が相談に来た場合に適切なアフターケアができるようにしておかないといけないわけです。
1.9. ストレスチェックの結果の所轄労働基準監督署長への報告
ストレスチェックを行った場合は、遅滞なく、所轄労働基準監督署長にその報告書を提出する必要があります。
2. 「ストレスチェック」条文の必要性
ストレスチェックは、就業規則の相対的必要記載事項である「安全衛生」に関する条文です。
一方で、実施義務があるのは、労働者の数が50人以上の事業場となるため、実施義務のある事業場については記載は必須、そうではない事業場については任意で実施する場合のみ記載が必要なります。
3. 「ストレスチェック」条文作成のポイント
3.1. 基本は法律どおりに
ストレスチェックについては法律どおりにこれを行い、監督官庁に報告等を行うことが重要な項目です。
そのため、基本的には法律の条文どおりに、就業規則の規定を作成することになります。
また、50人未満の事業場については、ストレスチェックの実施は努力義務であるため、実施する余裕がない場合はそもそも条文自体が不要となります。
4. 就業規則「ストレスチェック」の規定例
第○条(ストレスチェック)
- 会社は、従業員に対し、毎年1回定期に、医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を行う。
- 前項の結果、心理的な負担が高いとし、面接指導が必要であると医師、保健師等が認めた従業員に対しては、その者の申出により医師による面接指導を行う。
- 前項の面接指導の結果、必要と認めるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等、必要な措置を講ずることがある。
5. 規定の変更例
5.1. 50人未満の事業場で、ストレスチェックを行わない場合
(条文自体が不要なので削除)
6. 「もっと規定例を知りたい」「自分の会社に合った就業規則がほしい」方はこちらも!
目指したのは就業規則の参考書ではなく「英会話集」。
就業規則作成・書換のテクニック(出版社:日本法令 著者:川嶋英明)なら、多彩な規定例から会社の実態に合った規定を選ぶだけで、あなたの会社に合った就業規則が作成できます!
7. ストレスチェックと関連のある条文別ポイント