試用期間というのは、新しく入社してきた労働者に特に問題がなければ、普通は何事もなく過ぎ去っていくものです。
ただ、逆にいうと、入ってきた労働者がちょっとクセがあるな、問題があるなとなったときに、重要となるのが試用期間に関する規定なわけです。
そのため、トラブルを未然に防ぐ、あるいはトラブルが起こった際になるべく穏便にことを収めるためにも、会社の経営者や人事労務担当者の方々は一度、この記事を参考に試用期間の規定を確認することをお勧めします。
この記事の目次
1. 就業規則における「試用期間」と「本採用拒否」
1.1. 試用期間とは
試用期間とは、採用した労働者の人格や能力などの適性を測り、本採用するかどうかを判断する期間です。
この試用期間は、法律上に定めがない制度です。
そのため、試用期間を設けるかどうかも、設ける場合にどういった制度にするか等、会社の裁量の範囲の大きい制度です。
とはいえ、法律に定めがないからといって、どういった制度にしても問題ない、ということはありません。
よって、設けるのであれば常識的な範囲内で制度を構築する必要があります。例えば、試用期間を長期にわたって続けたり、試用期間を勤続年数に含めないといった取扱いは問題があるといえます。
1.2. 本採用拒否とは
一方の本採用拒否とは、試用期間中の労働者の能力や勤務態度等を考慮した上で、本採用を拒否することをいいます。
そのため、試用期間を定める場合、本採用拒否に関する条文は併せて作成が必要となります。
本採用拒否は基本的に解雇と同等の扱いとなる一方、通常の解雇よりもその正当性を広く認められる傾向にあります。
そのため、試用期間を設けるのであれば、解雇とは異なる措置であることを明確化するためにも別途規定を設けるべきといえます。
2. 法令からみた「試用期間」と「本採用拒否」のポイント
2.1. 試用期間とは解約権留保付の労働契約
試用期間を、法律の観点から見た場合、「解約権留保付」の労働契約であると考えられています。
「解約権留保付」というのは、労働契約を解約する権利が留保されているという意味です。
つまり、試用期間中の契約については、会社側に解約できる権利があるわけです。ただ、この解約権を会社がいつでも行使できるわけではありません。
この解約権を行使できるのは、その権利を行使するに値する「客観的合理性と社会的相当性」があるときだけに限られます。
この「客観的合理性と社会的相当性」を具体的にした内容が記事の最後の規定例で挙げた各事由となります。
2.2. 本採用拒否においては「就業規則に書いてある」+「実態」が大事
本採用拒否の事由にあるような「重大な経歴詐称」「能力が不足している」とは、どういったものをいうのでしょうか。あるいはどの程度のものであれば認められるのでしょうか。
こちらについては、本採用拒否に値する「客観的合理性および社会的相当性」があるかによるのですが、結局は個々の事案によるとしかいえません。
仮に本当に能力が不足しているとしても、その労働者が新卒であれば「会社がきちんと育てないのが悪い」と判断される可能性が高いですし、逆に即戦力として中途採用した場合、正当な本採用拒否と認められる可能性は高まります。
なので、これは本採用拒否の条文に限りませんが、解雇等の最終手段を行う場合の判断を行うにあたっては、単に「就業規則に書いてある」だけでなく、その実態も重要となることを忘れてはいけません。
3. 「試用期間」「本採用拒否」条文作成のポイント
3.1. 試用期間の長さ
試用期間の期間の長さをどの程度にするかは会社の裁量となります。
ただ、あまり短すぎると労働者の適性を判断できませんし、長すぎるとそれだけ労働者側が不安定な立場に置かれます。
そのため、通常は3か月から6か月程度を期間として定められることが多く、どれだけ長くても1年が限界と考えた方がいいでしょう。
3.2. 試用期間の延長規定
試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれます。そのため、試用期間を延長する場合、延長規定が必要です。
その際の延長する期間については、試用期間自体の長さと同様に、法律上、特に制限はありませんが、やはり長くなりすぎるような期間を設定するのは避けるべきです。
一方で、期間延長は必ずしなければいけないものではないので、不要と考える場合は定めなくても構いません。
3.3. 長期欠勤と試用期間
記事の最後に挙げている条文例では、試用期間中の労働者が長期の欠勤を余儀なくされた場合、その期間は試用期間の経過を中断すると定めています。
これも法律上の定めではなく、会社の裁量で定めるかどうかを決められる部分となるので、実際にどうするかは会社次第です。
ただ、試用期間が労働者の適性を測るためのものです。そして、そうした特性を鑑みると、会社に出てきていない労働者の適性をを測ることは困難でしょう。
そのため、きちんと会社に出てきたときの働きぶりを見るためにも、こうした規定はあった方が良いのは間違いありません。
3.4. 休職と試用期間の関係
休職、特に私傷病休職については「○か月以上欠勤が続く場合」に会社が休職命令を出す、というのが一般的かと思います。
では、試用期間中の労働者に関しても、休職規定を適用しないといけないかというと、これは会社の制度次第です。
なぜなら、休職も試用期間と同様に法律上に定めのない制度だからです。
ただ、一般的には、会社に入って間もない労働者に対し休職を認めようと考える会社は少ないのではないでしょうか。むしろ、入って早々に私傷病等で長期欠勤する労働者に関しては、本採用を拒否したいと思うのが普通でしょう。
以下で挙げている条文例では、試用期間中の労働者に対しては休職規定は適用しないという一文が入っていますが、こうした一文がないと試用期間中の労働者にも休職を認めないといけない可能性が出てくるからです。
4. 就業規則「試用期間」「本採用拒否」の規定例
第○条(試用期間)
- 従業員として新たに採用した者については、採用した日から3か月間(解雇予告対象外の14日間を含む)を試用期間とする。
- 会社は、採用時の評価または試用期間中の業務遂行状況を鑑み、前項の試用期間を短縮し、または設けないことがある。
- 会社は、1項の期間中に、当該従業員の業務適正等を判断することが困難な場合、1項の期間を通算で6か月間まで延長することができる。
- 従業員が私傷病による長期の欠勤、または業務災害等により休業する場合、当該休業期間中は試用期間の経過を中断し、復帰後に試用期間を再開する。
- 試用期間中の者については、原則、第○条に定める休職の対象とすることはない。
- 会社は、試用期間中の従業員の業務適性等を総合考慮し、試用期間満了日までに、本採用の有無を決定する。
- 試用期間は、勤続年数に通算する。
第△条(本採用拒否)
- 試用期間中または試用期間満了の際、次の各号にいずれかに該当し、会社が従業員として不適格と判断した者は、採用を取消すことがある。
① 試用期間中に、重大な経歴詐称や隠蔽が発覚したとき
② 必要な教育を施したものの会社が求める能力に足りず、担当業務を変えても改善が見られず、能力が大幅に不足していると判断したとき
③ 入社後の勤務態度が極めて悪い、協調性がない、会社や周囲の従業員の行う業務に悪影響を与えるなど勤務態度が不良と判断したとき
④ 入社後、遅刻・早退・欠勤等を繰り返すなど出勤状況が悪いとき
⑤ 健康状態が悪く、勤務に耐えられないと会社が判断したとき
⑥ 反社会的勢力との関わりが判明したとき
⑦ 必要書類を提出しないとき
⑧ その他前各号に準ずる事由、または解雇事由に該当するとき - 入社後14日を経過した者については、第○条(解雇予告)の規定を準用する。
5. 規定の変更例
5.1. 試用期間の延長規定を設けない場合
第○条(試用期間)
- 従業員として新たに採用した者については、採用した日から3か月間(解雇予告対象外の14日間を含む)を試用期間とする。
- 会社は、採用時の評価または試用期間中の業務遂行状況を鑑み、前項の試用期間を短縮し、または設けないことがある。
- 従業員が私傷病による長期の欠勤、または業務災害等により休業する場合、当該休業期間中は試用期間の経過を中断し、復帰後に試用期間を再開する。
- 試用期間中の者については、原則、第○条に定める休職の対象とすることはない。
- 会社は、試用期間中の従業員の業務適性等を総合考慮し、試用期間満了日までに、本採用の有無を決定する。
- 試用期間は、勤続年数に通算する。
5.2. 試用期間を設けない場合
(2つの条文自体を削除)
6. その他
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