労働基準法には女性の健康を守るための制度として「生理休暇」が定められています。
男性の経営者や上司からすると正直、扱いづらいところのある女性の生理ですが、だからこそ、最低限、法令で定められていることについてはしっかり学ぶ必要があります。
この記事では就業規則の「生理休暇」の条文作成のポイントと規定例について解説していきます。
この記事の目次
1. 「生理休暇」条文の必要性
生理休暇とは、生理日の就業が著しく困難な女性のための休暇で、労働基準法に定めのある制度となります。
休暇に関する規定は就業規則の絶対的必要記載事項となるため、就業規則に生理休暇の記載は必須となります。
2. 法令から見た「生理休暇」のポイント
2.1. 生理休暇とは
生理日の就業が「著しく困難な」女性が請求できる休暇
生理休暇は労働基準法68条の「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」という定めを根拠とするものです。
労働基準法の条文に「生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したとき」とありますが、これは言い換えれば、単に生理であることを理由とする休暇まで、会社が認める必要はないということです。
2.2. 生理休暇の取得手続き
生理休暇の取得手続きについては過去の通達(昭和63年3月20日基発151号、婦発69号)にて、「(取得の)手続きを複雑にすると制度の趣旨が抹殺されることになる」ので、会社は「女性労働者の請求があった場合には原則としてこれを与える」必要があるとしています。
つまり、女性から請求があった場合には、原則、会社はこれを与える必要があり、「就業が著しく困難」なことをいちいち診断書等で証明させたり、年次有給休暇などのように数日前に取得日を申請させるような制度は法の趣旨を踏まえると望ましくないわけです。
2.3. 取得は暦日単位でなくてもいい
休日や年次有給休暇については、暦日単位での取得が原則とされていますが、生理休暇はそうではありません。
就業が著しく困難なである事実に基づき、休暇の取得が行われるため、その事実が存在する期間が休暇の期間とからです。
そのため女性労働者から半日単位や時間単位での取得請求があった場合、会社はその範囲内で当該女性労働者を就業させなければなりません。
2.4. 取得日数に上限はなし、日数制限はNG
生理休暇は就業が著しく困難なである事実に基づきます。
そのため法令上に取得日数に上限はありません。
また、例えば「生理休暇は○日までとする」というような制限を会社が設けることもできません。
2.5. ノーワーク・ノーペイ
生理休暇の期間については、ノーワーク・ノーペイの原則により無給で問題ありません。
もちろん、会社の裁量で有給とすることもできます。
2.6. 生理休暇は欠勤か否か
年次有給休暇の出勤率を数える際、生理休暇についてどのように扱うかは法律上定めはありません。
そのため、年次有給休暇の出勤率を数える上では、生理休暇を欠勤扱いとすることも可能ですが、法の趣旨を踏まえると女性労働者に不利益となるような扱いをすることはあまり望ましいとは言えないでしょう。
また、精皆勤手当の計算においてもどのように扱うか難しいところがありますが、過去の裁判例(エヌ・ビー・シー工業賃金請求事件)では、生理休暇を欠勤扱いとし、精皆勤手当を支給しなかった件について問題ないとしているものがあります。
ただし、こちらは精皆勤手当の金額が「出勤不足日数のない場合:5000円、出勤不足日数1日の場合:3000円、出勤不足日数2日の場合:1000円、出勤不足日数3日以上の場合:なし」と、精皆勤手当自体の金額がそれほど大きくなく、この程度の差(本件では5000円→1000円)程度であれば受忍範囲と判断した結果です。
そのため、受忍範囲をこえる精皆勤手当の額がこれよりも大きい場合も同じ判断がされるとは限らない点には注意が必要です。
2.7. 就業が著しく困難なことの証明と不正取得
仮に生理休暇を請求してきた女性の「生理日の就業が著しく困難」という主張に対し、会社が「疑わしい」「不正取得なのでは」と感じた場合、会社は当該女性労働者に証明を求めることはできるのでしょうか。
こちらについても上記の通達にて、特に証明を求める必要がある場合でも「医師の診断書のような厳格な証明を求めることなく」「例えば、同僚の証言程度の簡単な証明」にとどめよとしています。
このことから、事前に不正取得かどうかを判断することは難しいといえます。
ただし、後日「生理休暇を取得して旅行に行っていた」ことが発覚した場合のように、明らかに「就業が著しく困難」とは思えない行動が発覚した場合、不正取得で懲戒処分とすることは十分に可能と考えられます(岩手県交通事件)。
3. 「生理休暇」条文作成のポイント
3.1. 無給とするか有給とするか
生理休暇を有給とするか無給とするかは会社の裁量次第です。
そして、有給でも無給でも問題ないことから、例えば、有給とする場合も金額の決定方法は会社の裁量となります。例えば「平均賃金の半額」といった支払い方でも問題ないわけです。
ただし、有給としていたものを後から無給とする場合、労働条件の不利益変更となる可能性があるため、どちらにするかは慎重な判断が必要となります。
なお、令和2年の厚生労働省の調査によると有給としている会社は29%、無給としている会社は67.3%となっています(令和2年度雇用均等基本調査)。
3.2. 日数制限はNGだが、有給と無給の切り替えは可能
すでに述べたとおり、生理休暇の期間そのものに期限を設けることはできません。
しかし、生理休暇の有給の日数を定めておき、それを超えた後は無給とする扱いについては、生理休暇自体は取得できているので問題ありません(昭和63年3月14日基発150号、婦発69号)。
4. 就業規則「生理休暇」の規定例
第○条(生理休暇)
- 生理日の就業が著しく困難な女性従業員が請求した場合は1日、半日または請求があった時間の休暇を与える。
- 前項の休暇は、無給とする。
5. 規定の変更例
5.1. 一定の期間のみ生理休暇を有給とする場合
第○条(生理休暇)
- 生理日の就業が著しく困難な女性従業員が請求した場合は1日、半日または請求があった時間の休暇を与える。
- 休暇時の賃金は有給とし、支払う額は所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金とする。ただし、生理休暇の期間が3日を超える場合、4日目以降は無給とする。
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