労働者本人の結婚や出産、家族の死亡など、慶弔休暇は労働者の人生の節目節目をサポートする制度です。
こうした大事な時期にきちんと休めるかどうかは、労働者の就業意欲やその会社への愛着に関わるため非常に重要です。
とはいえ、会社として許容できる休暇の日数や待遇には限度があるのまた事実です。
そのため、この記事ではみなさんの会社に最適な慶弔休暇の規定を設計するためのヒントや、従業員との良好な関係を築くためのポイントを実例を交えながら解説しています。
この記事の目次
1. 法令から見た「慶弔休暇」のポイント
1.1. 慶弔休暇とは
慶弔休暇の慶弔とは「慶事」と「弔事」を合わせた言葉です。
慶事とはいわゆるお祝い事、弔事は葬儀などのお悔やみ事のことをいいます。
つまり、慶弔休暇とは本人やその家族に、お祝い事やお悔やみ事があった場合に取得させる休暇となります。
1.2. 法令に定められた制度ではない
慶弔休暇は法律に定めのある制度ではありません。
そのため、慶弔休暇の事由や日数、給与の扱いといった制度の詳細は会社の裁量によって決めることができます。
1.3. 慶弔見舞金の扱い
慶弔休暇と併せて支払われることの多い慶弔見舞金ですが、こちらも慶弔休暇同様に法律上定めのない制度です。そのため、支払うかどうかは会社の裁量となります。
なお、この慶弔見舞金は通常、賃金とは見なされません。
ただし、それは支払条件や金額を定めず支払われる場合に限られ、規定でその支払い条件や具体的な金額を定める場合は賃金扱いとなるため注意が必要です。
2. 「慶弔休暇」条文の必要性
名称がどのようなものであれ、休暇は就業規則の絶対的必要記載事項となります。
そのため、慶弔休暇その他準ずるものを定める場合は、就業規則に規定を定める必要があります。
3. 「慶弔休暇」条文作成のポイント
3.1. 慶弔休暇の日数
慶弔休暇の日数については、どういった事由に何日取らせないといけないといった法律上の定めはありません。
そのため、事由ごとの慶弔休暇の日数は会社の裁量次第です。
なお、2017年の労務行政研究所の調査によると、本人が結婚した場合の慶弔休暇の平均日数は5.3日、配偶者が死亡した場合の慶弔休暇の平均日数は5~6日といった統計があります。
冒頭で述べたように、慶弔休暇は労働者本人の人生の節目をサポートする制度であるため、その趣旨に反しない範囲で日数を定めたいところですが、あまり大盤振る舞いして、後から減らそうとなると労働条件の不利益変更となるため注意が必要です。
3.2. 慶弔休暇の事由
慶弔休暇の事由は本人の結婚や出産、親族の死亡とすることが一般的ですが、これは法律上定めはありません。
そのため、会社の裁量で事由を増やしたり、親族の範囲を広げたりすることができます。
例えば、下記の規定例では本人の結婚だけを慶弔休暇の事由としていますが、自分の結婚だけでなく子供の結婚を事由とすることもできるわけです。
ただし、後で慶弔休暇の事由を減らしたり、慶弔休暇の対象となる親族の範囲を狭めることは労働条件の不利益変更となるため、むやみに広げすぎるのは考えものです。
3.3. 無給か有給か
慶弔休暇を有給とするか無給とするかは会社の裁量次第です。
なお、民間の調査では事由にかかわらず慶弔休暇を有給としている会社が多いようです。
3.4. 有給とする場合の給与額の決め方
法律に定めのない制度であるため、慶弔休暇の期間を有給とする場合も何かルールがあるわけではありません。
そのため、例えば、「平均賃金の半額」「平均賃金の1.5倍」といった決め方もできないわけではありません。
とはいえ、むやみに制度を複雑化して給与計算をの手間を増やす理由もないと思うので、基本的には年次有給休暇と同じ計算方法(所定労働時間働いた場合に支払われる通常の賃金額)を踏襲すれば良いかと思います。
3.5. 慶弔休暇の日数に休日を含むか
慶弔休暇は、本人の結婚以外は、事由があった日から連続して取得するのが一般的です。
では、慶弔休暇取得予定の日に休日があった場合はどうすればいいかというと、これも会社次第です。
休日があったとしても、慶弔休暇の日数は消化されるとする場合もあれば、あくまで慶弔休暇の取得は労働日に限るとすることもできます。
3.6. 慶弔休暇に休日を含みかつ有給とする場合は注意が必要
慶弔休暇を有給とするか無給とするか、慶弔休暇に休日を含むかどうかは会社の裁量であるとしてきましたが、この2つについては一点だけ注意が必要です。
というのも「慶弔休暇に休日を含みかつ、慶弔休暇を有給」としてしまうと、休日に給与を払わないといけないということが起こりうるためです。
そのため、こういった制度を設ける場合は、規定に「休暇時の賃金は有給とする。ただし、休暇を取得した日が休日となる場合は除く。」と、慶弔休暇と休日が重なった場合は有給の対象外であることをきちんと定めておく必要があります。
3.7. 家族の範囲
慶弔休暇の対象となるのは労働者本人もしくはその家族という場合がほとんどです。
ただ、この家族の範囲についても、法律上定めのない部分なのでその範囲を広げたり、縮小することは会社の裁量次第となります。
近年では同性パートナーシップが話題になったり、法律上の結婚関係を結ばない事実婚なども注目されていますが、こうした法律上の家族ではないけれど事実上家族といえる人たちの扱いをどうするかについても、やはり会社の裁量次第となります。
4. 就業規則「慶弔休暇」の規定例
第○条(慶弔休暇)
- 従業員が次の事由に該当するときは次の日数、慶弔休暇を与える。なお、休暇は取得の初日から、連続して取得するものとする。
事項 休暇日数 本人が結婚したとき(ただし、入籍日の翌日から起算して6か月以内に取得するものとする) 5日 本人の父母、配偶者、子が死亡したとき 5日 本人の祖父母、配偶者の父母、兄弟姉妹が死亡したとき 2日 妻が出産したとき 2日 - 休暇の日数は暦日で計算し、休日も含めるものとする。
- 休暇時の賃金は無給とする。
5. 規定の変更例
5.1. 慶弔休暇に休日を含めない場合
第○条(慶弔休暇)
- 従業員が次の事由に該当するときは次の日数、慶弔休暇を与える。なお、休暇は取得の初日から、連続して取得するものとする。
事項 休暇日数 本人が結婚したとき(ただし、入籍日の翌日から起算して6か月以内に取得するものとする) 5日 本人の父母、配偶者、子が死亡したとき 5日 本人の祖父母、配偶者の父母、兄弟姉妹が死亡したとき 2日 妻が出産したとき 2日 - 休暇の日数は暦日で計算し、休日は含めないものとする。
- 休暇時の賃金は無給とする。
5.2. 慶弔休暇を有給とし、支払額を年次有給休暇と合わせる場合
第○条(慶弔休暇)
- 従業員が次の事由に該当するときは次の日数、慶弔休暇を与える。なお、休暇は取得の初日から、連続して取得するものとする。
事項 休暇日数 本人が結婚したとき(ただし、入籍日の翌日から起算して6か月以内に取得するものとする) 4日 本人の父母、配偶者、子が死亡したとき 2日 本人の祖父母、配偶者の父母、兄弟姉妹が死亡したとき 1日 妻が出産したとき 1日 - 休暇の日数は暦日で計算し、休日も含めるものとする。
- 休暇時の賃金は有給とする。ただし、休暇を取得した日が休日となる場合は除く。
- 前項の額は所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金額とする。
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