就業規則の「時間単位年休」条文の作成のポイントと規定例

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就業規則の「時間単位年休」条文の作成のポイントと規定例

 

午前中に病院に行きたい、午後から子どもの授業参観がある、そういった需要に応えるために設けられている制度が時間単位年休です。

ただ、多くの会社では、わざわざ時間単位年休を導入せず、年次有給休暇の半日単位取得を認めるに留まる会社も多いことでしょう。

直感的にわかりやすい半日単位年休と比べて、時間単位年休は制度が複雑であることが、その要因と考えられます。

そのため、本記事では、時間単位年休について、就業規則の条文作成時のポイントだけでなく、制度自体についてもわかりやすく解説を行っていきます。

 

1. 法令から見た「時間単位年休」のポイント

1.1. 時間単位年休とは

時間単位年休とは、労働者が年次有給休暇を時間単位で取得できる制度です。

本来、年次有給休暇は1日単位の取得が原則です。

しかし、治療や通院、子どもの学校行事への参加など、仕事とプライベートのバランスを考えたときに、丸1日ではなく、1時間や数時間など、時間単位で取得できた方が便利な場面も少なくありません。

そのため、労働基準法では、労使間で協定を結ぶ場合、時間単位での年次有給休暇の取得を例外的に認めています。

 

1.2. 時間単位年休のルール

時間単位年休には様々な法律上のルールがあり、会社と労働者はこれを守らなければなりません。

 

1年間に取得できる時間単位年休の日数

労働者が取得できる時間単位年休は、1年に5日分までが限度となります。

なお、この5日分は年5日の取得義務の5日に含むことはできないので注意が必要です。

 

時間単位年休1日の時間数

時間単位年休1日の時間数とは、何時間分の時間単位年休を取得したら、年次有給休暇1日と数えるか、ということです。

これについては、基本的には、1日の所定労働時間が基準となります。

例えば、1日の所定労働時間が8時間の労働者の場合、8時間分、時間単位年休を取得したら1日と数えるわけです。

では、1日の所定労働時間が7時間半などのように端数がある場合はどうするかというと、端数は必ず切り上げる必要があります。つまり、1日の所定労働時間が7時間半の場合は8時間、6時間10分の場合は7時間とする必要があります。

また、日によって1日の所定労働時間が異なる場合は、1日あたりの平均所定労働時間をもとにします。

 

時間単位年休の単位

時間単位年休の原則の単位は1時間です。

会社の意向や、労使協定によって、この時間を1時間よりも短くすることはできませんが、1日の所定労働時間よりも長くならない限り、これを2時間や4時間のように長くすることは可能です。

ただ、そうはいっても、一番運用がしやすいのは1時間でしょう。

 

1.3. 時間単位年休には労使協定が必要

時間単位年休を利用する場合、労使協定を締結する必要があります。

この労使協定には最低限、以下のことを定める必要があります。

  1. 時間単位年休の対象労働者の範囲
  2. 時間単位年休の日数
  3. 時間単位年休1日の時間数
  4. 1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数

なお、時間単位年休の労使協定については、締結した労使協定を監督署に提出することまでは義務づけられていません。

 

 

2. 「時間単位年休」条文の必要性

時間単位年休を導入するには労使協定の締結が必要です。

一方、労使協定には、就業規則のように労働者を拘束する効力はありません。

そのため、時間単位年休を導入する際は、労使協定の締結と併せて、就業規則に規程を定める必要があります。

 

 

3. 「時間単位年休」条文作成のポイント

3.1. 時間単位年休の対象者

すべての労働者を対象とすべきか

通達上では「事業の正常な運営の妨げ」になるかどうかという観点から、時間単位年休の対象者を選ぶべきとしています。

しかし、こちらについては、そもそも法律上に定めのあることではないことから、あくまで時間単位年休の対象者の選定は労使自治の範囲であり、そういった観点で決定する必要ないとの見方もあるようです。

いずれにせよ、必ずしも、すべての労働者を対象とする必要とする必要がないことだけは確かでしょう。

 

時間単位年休になじまない者

なお、労働時間を自分の裁量で決められる裁量労働制が適用される労働者および労働時間に関する規定の適用が除外される管理監督者については、そもそも時間単位年休の適用には馴染みません。

そのため、こうした労働者については、時間単位年休の対象外として定めておいた方がいいでしょう。

 

3.2. 時間単位で取得できる限度を年間5日より減らす場合

法律上、時間単位年休を取得できるのは年間で5日分までとされています。

ただ、これはあくまで上限なので、これを6日や10日とすることはできませんが、3日や4日とすることは問題ありません。

 

3.3. 年次有給休暇の賃金の計算方法が平均賃金の場合

年次有給休暇取得時の賃金については、ほとんどの会社が「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」としていますが、法律上はこれを平均賃金で支払ったり、労使協定を締結すれば標準報酬日額で支払うこともできます。

年次有給休暇中の賃金については、1日単位の年次有給休暇と時間単位年休とで同じである必要があるので、1日の年次有給休暇取得時の賃金を「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」以外にしている場合、時間単位年休についても合わせる必要があります。

 

 

4. 就業規則「時間単位年休」の規定例

第○条(時間単位年休)

  1. 従業員は、労使協定に基づき、第20条で付与された年次有給休暇の日数のうち、前年度の繰越しを含めて、1年度に5日以内を限度として、時間単位での年次有給休暇(以下「時間単位年休」という)を請求することができる。
  2. 前項における1年度とは、年次有給休暇の付与日から次の付与日の前日までの期間をいう。
  3. 時間単位年休を請求できる対象者は、すべての従業員とする。
  4. 時間単位年休を取得する場合の1日分の年次有給休暇は、当該従業員の1日の所定労働時間とし、1時間未満の端数がある場合はこれを切り上げる。
  5. 前項にかかわらず、日によって所定労働時間が異なる従業員については、1年度における1日の平均所定労働時間とする。
  6. 時間単位年休は、1時間単位で付与するものとし、1時間未満での取得の請求はできないものとする。
  7. 時間単位年休を取得した時間については、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の1時間あたりの額に、取得した時間単位年休の時間数を乗じた額を支払う。

 

 

5. 規定の変更例

5.1. 時間単位年休の対象外となる者がいる場合

第○条(時間単位年休)

  1. 従業員は、労使協定に基づき、第20条で付与された年次有給休暇の日数のうち、前年度の繰越しを含めて、1年度に5日以内を限度として、時間単位での年次有給休暇(以下「時間単位年休」という)を請求することができる。
  2. 前項における1年度とは、年次有給休暇の付与日から次の付与日の前日までの期間をいう。
  3. 時間単位年休を請求できる対象者は、すべての従業員とする。ただし、次の者についてはその対象外とする。
    ① ○○課に所属する従業員
    ② 裁量労働制が適用される従業員
    ③ 管理監督者に該当する従業員
  4. 時間単位年休を取得する場合の1日分の年次有給休暇は、当該従業員の1日の所定労働時間とし、1時間未満の端数がある場合はこれを切り上げる。
  5. 前項にかかわらず、日によって所定労働時間が異なる従業員については、1年度における1日の平均所定労働時間とする。
  6. 時間単位年休は、1時間単位で付与するものとし、1時間未満での取得の請求はできないものとする。
  7. 時間単位年休を取得した時間については、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の1時間あたりの額に、取得した時間単位年休の時間数を乗じた額を支払う。

 

 

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社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。