就業規則の「時間外、休日および深夜労働」条文の作成のポイントと規定例

2023年11月2日

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就業規則の「時間外、休日および深夜労働」条文の作成のポイントと規定例

 

時間外労働や休日労働はなければないに越したことはありませんし、近年では働き方改革により時間数の上限も設けられました。

しかし、突発的な受注等により、どうしても時間外労働をしなければいけないときがあるものです。

そうしたときに、就業規則の規定が不完全であったり36協定の締結・届出がなされていないと、時間外労働や休日労働を労働者に行わせたいのに行わせることができない、ということが起こり得ます

そのため、万が一にも会社の業務が止まることがないよう、本記事を参考に、就業規則の「時間外、休日および深夜労働」規定をあらためて確認しておきましょう。

 

1. 「時間外、休日および深夜労働」条文の必要性

所定時間外、休日および深夜労働を行わせる際の、会社の業務命令の根拠となる条文です。

時間外労働や休日労働、深夜労働に関しては行わないに越したことはないですし、実際にほとんど残業がないという会社もあると思います。

しかし、そうした会社であっても、帰り際にやらないといけないことができたなどの理由でやむを得ず行わざる得ない場合もあります。

そのため、よっぽどのことがない限りは定めるべき規定となります。

 

2. 法令から見た「時間外、休日および深夜労働」のポイント

2.1. 時間外・休日労働を行わせることのできる条件

普段から当たり前のように行われている時間外労働や休日労働ですが、本来、時間外労働や休日労働など、法定労働時間を超えて働かせたり、法定休日に働かせることは法令違反となります。

そのため、会社が労働者に時間外労働や休日労働を行わせる場合、以下のことを行う必要があります。

 

36協定の締結

法定労働時間を超えて働かせたり、法定休日に働かせるには「36協定」というものを労使間で締結し、これを所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

この36協定を締結し、監督署に届け出ることにより、本来法違反となる時間外労働や休日労働が法違反ではなくなるのです。これを免罰効果といいます。

なお、36協定は厳密には「法定労働時間を超える場合」および「法定休日に働かせる場合」に必要となるものなので、法定労働時間を超えて働かせることがないのであれば、一応は不要です。

時間外労働に限りませんが、就業規則を整備する際はこうした労使協定の締結等の手続に漏れがないよう注意しておく必要があります。

 

就業規則に根拠

36協定には本来法違反となる時間外労働や休日労働が法違反ではなくす効果はあっても、会社が時間外労働や休日労働を労働者に命令する根拠にはなりません。

そうした業務命令の根拠は就業規則に定める必要があります。

逆にいうと、就業規則に時間外労働や休日労働の命令を出す根拠となる規定がない場合、その会社は労働者に対し時間外労働や休日労働の命令を出せないことになります。

 

割増賃金の支払

法定労働時間を超えて働かせたり、法定休日に働かせた場合、その時間に応じて割増賃金を支払う義務が会社にあります。

これを支払わない場合、賃金の未払いが発生し、法令違反となるのはもちろんのこと、労使間での争いの火種にもなります。

 

2.2. 時間外労働の上限規制

上で挙げた条件を全て見たしたとしても、時間外労働および休日労働については、無制限に行わせられるわけではありません。

時間外労働には上限規制があるからです。

この時間外労働の上限規制には限度時間(原則)と、限度時間をさらに超えて働かせる場合で、規制がかけられています。

 

限度時間の上限

まず、時間外労働の上限規制の原則は「1か月45時間、1年360時間(1年単位の変形労働時間制の場合、1か月42時間、1年320時間)」までです。

限度時間

期間区分 原則 1年単位の変形
1ヶ月 45 42
1年 360 320

 

限度時間を超えて働かせる場合の上限

36協定にて「特別条項」を締結する場合、以下の時間まで、上記の限度時間をさらに超えて働かせることができます。

  • 限度時間分も含めて、年間の上限は720時間
  • 2か月~6か月の平均労働時間は、法定休日労働を含めて、月80時間以内としなければならない
  • 単月の労働時間は、法定休日労働を含めて、月100時間未満としなければならない
  • 限度時間を超えて働かせられるのは(特別条項を使えるのは)1年のうち6か月まで

 

法定休日労働を含むもの・含まないもの

上で挙げた時間外労働の上限規制については、以下の通り、法定休日労働を含めて時間数を数えるものと、含まずに数えるものがあります。

法定休日労働時間を含む 法定休日労働時間を含まない
  • 2ヶ月ないし6ヶ月の平均労働時間、月80時間以内
  • 単月の労働時間、月100時間未満
  • 限度時間、月45時間、年間360時間(1年単位の変形の場合は月42時間、年間320時間)
  • 年間上限720時間

この法定休日労働を含むかどうか、という話は法改正後に労務管理を行う上でかなり重要となるので注意が必要です。

 

労働者単位で適用されるもの、事業単位で適用されるもの

上で挙げた時間外労働の上限に関しては、労働者単位で適用されるものと、事業場単位で適用されるものがあります。

その内訳は以下の通りで、見てわかるとおり法定休日労働時間を含むか否かの場合と同じよう分類されます。資料:基発1228第15号(労働基準法の解釈について)(出典:厚生労働省

労働者単位で適用 事業場単位で適用
  • 2ヶ月ないし6ヶ月の平均労働時間、月80時間以内
  • 単月の労働時間、月100時間未満
  • 限度時間、月45時間、年間360時間(1年単位の変形の場合は月42時間、年間320時間)
  • 年間上限720時間

では、労働者個々に適用される場合と事業場ごとに適用される場合とでどのような違いがあるのでしょうか。

例えば、ある労働者が同じ月にAという事業場で月50時間、Bという事業場で月60時間働いた場合、どちらも事業場単位では100時間未満なので上限規制に違反していないように見えますが、労働者単位で見ると「1か月100時間未満」の上限を超えるため法違反となります。

上記の事業場が同じ会社の異なる事業場であれば、把握も簡単ですが、会社が異なる場合(労働者が副業・兼業している場合)、知らないあいだに上限規制に違反してしまう可能性があるので注意が必要です。

 

以下は、時間外労働の上限規制のイメージ図となります。

 

出典:時間外労働の上限規制わかりやすい解説(厚生労働省)の図を一部修正

 

2.3. 時間外労働が制限されている労働者

労働基準法では、妊娠中のまたは産後1年を経過しない女性労働者(妊産婦といいます)から請求があった場合、会社はその妊産婦に対して法定時間外、法定休日および深夜労働をさせることはできません。

加えて、妊産婦については変形労働時間制の対象者の場合も1週40時間、1日8時間を超えて働かせることはできません。

また、18歳未満の者については、法定時間外、法定休日および深夜労働をさせることは労働基準法で禁止されています。

 

3. 「時間外、休日および深夜労働」条文作成のポイント

3.1. 所定労働時間外と法定労働時間外の区別

時間外労働には所定労働時間を超えた場合の「所定時間外労働」と、法定労働時間を超えた場合の「法定時間外労働」の2つがあります。

この2つは所定労働時間=法定労働時間の場合は問題ありません。

しかし、所定労働時間が法定労働時間よりも短いと「所定労働時間外だけど法定時間外労働ではない」という時間が発生します。

規定例の1項では「会社は、業務の都合により、第△条の所定労働時間を超え、または第□条の休日に労働を命じることができる。」としていますが、この「所定労働時間を超え」の部分が「法定労働時間を超え」としていない理由は、この「所定労働時間外だけど法定時間外労働ではない」時間の問題があるからです。

要するに、所定労働時間が法定労働時間よりも短い会社の場合で「法定労働時間を超えた場合に時間外労働を命ずる」といった規定になっていると、そもそも所定労働時間を超えて働かせることができないので、法定労働時間を超えて働かせることもできないというわけです。

所定労働時間か法定労働時間かは、細かい言葉の使い方で、労務管理に大きく影響が出る部分なので注意しなければなりません。

一方で、2項(36協定)や5項(妊産婦)、6項(18歳未満)については、法律上で定められた法定労働時間の制限であるため「法定時間外」に関する定めをしています。

 

3.2. 所定休日労働、法定休日労働の区別は特には不要

休日労働も時間外労働と同様に法定休日労働、所定休日労働の違いがあります。

しかし、この2つについては休日労働命令を出すに当たっては両者を分ける理由は特にありません。

なので、上記の規定例のように下手に区別してか書かない方がわかりやすいかと思います。

 

3.3. 残業の許可制

労働時間とは使用者の指揮命令下にある時間をいいます。

よって、例えば、労働者が使用者の命令なく勝手に残業を行った時間というのは労働時間に該当せず、残業手当の支払義務も発生しません(黙示の指揮命令がある場合は別)。

しかし、残業が行われたというタイムカードしか残っていないと、後から「これは勝手にやった残業だ」と会社が反論するのは難しくなります。

そのため、労働者の自発的な残業に関しては、原則規定例のように許可制とし、記録をきちんと残すべきものといえます。

ただし、実務上、そうした体制を整えられていない会社は少なくありません。また、残業の許可制の規定を設けてはいるものの、実態としてはきちんと手続きが取られることなく、残業の黙認が行われている会社が多いのもまた事実です。

そのため、理想ではなく実態を重視するのであれば残業の許可制の規定は削除してしまっても構いませんが、なるべくなら許可制に移行できるよう労務管理をしていきたいところです。

 

4. 就業規則「時間外、休日および深夜労働」の規定例

第○条(時間外、休日および深夜労働)

  1. 会社は、業務の都合により、第△条の所定労働時間を超え、または第□条の休日に労働を命じることができる。
  2. 前項の命令のうち、法定労働時間を超える労働または法定休日における労働については、労働基準法第36条に基づく労使協定の範囲内でこれを命じ、従業員は正当な理由なくこれを拒否することはできない。
  3. やむを得ず、所定時間外、休日および深夜労働(午後10時から翌日の午前5時の間の労働をいう)の必要があるとして、従業員がその勤務を希望する場合は、必ず所属長の許可を得なければならない。
  4. 所定時間外、休日および深夜労働後は必ず所属長に報告しなければならず、所属長の許可や指揮命令のない所定時間外、休日および深夜労働は、その時間を労働時間としない。
  5. 妊娠中のまたは産後1年を経過しない女性従業員(以下「妊産婦」という)であって請求した者については、法定時間外、法定休日および深夜労働をさせることはない。また、妊産婦が変形労働時間制の対象者の場合も1週40時間、1日8時間を超えて働かせることはない。
  6. 18歳未満の者については、法定時間外、法定休日および深夜労働をさせることはない。

 

5. 規定の変更例

5.1. 時間外、休日および深夜労働を許可制としていない場合

第○条(時間外、休日および深夜労働)

  1. 会社は、業務の都合により、第△条の所定労働時間を超え、または第□条の休日に労働を命じることができる。
  2. 前項の命令のうち、法定労働時間を超える労働または法定休日における労働については、労働基準法第36条に基づく労使協定の範囲内でこれを命じ、従業員は正当な理由なくこれを拒否することはできない。
  3. 妊娠中のまたは産後1年を経過しない女性従業員(以下「妊産婦」という)であって請求した者については、法定時間外、法定休日および深夜労働をさせることはない。また、妊産婦が変形労働時間制の対象者の場合も1週40時間、1日8時間を超えて働かせることはない。
  4. 18歳未満の者については、法定時間外、法定休日および深夜労働をさせることはない。

(最初の規定例から3項と4項を削除)

 

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7. その他の就業規則作成のポイントと規定例

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社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

2023年11月2日