女性には子どもを身ごもり生むという、男性にはない特別な能力が備わっています。
しかし、その一方で妊娠中や妊娠直後は体調を崩しやすかったり、経過をきちんと観察しないと、生まれてくる子どもにも悪影響が出ることがあります。
そのため、労働基準法および男女雇用機会均等法では女性の「母性」を保護するための規定がいくつも設けられています。
この記事では法律に定めのある母性保護のうち、妊産婦の「母性健康管理の措置」について解説を行っていきます。
この記事の目次
1. 「母性健康管理の措置」とは
1.1. 母性健康管理の措置とは
母性健康管理の措置とは、母子保健法に定められている、妊産婦の保健指導および健康診査を受けるのに必要な時間を確保するため、会社に実施することが義務づけられている措置です。
妊産婦の保健指導および健康診査自体は母子保健法にその定めがされていますが、事業主のその時間の確保を義務づけているのは男女雇用機会均等法です。
つまり、母性健康管理の措置は、就業規則に定める規程の中では珍しく、労働基準法を根拠としない規定なわけです。
1.2. 妊産婦とは
母性健康管理の措置と対象となるのは妊産婦である女性労働者です。
妊産婦とは「妊娠中」および「出産後1年以内」の女性を指します。
2. 「母性健康管理の措置」条文の必要性
会社が母性健康管理の措置を実施する場合、必然的にその時間は休暇という扱いをすることになります。
休暇は就業規則の絶対的必要記載事項ではあるものの、この母性健康管理の措置による休暇がここに含まれるかは実ははっきりしていません。
そのため、記載が見られない規定例もありますが、こういった制度があること自体、知らない労働者も多いので、基本的には定めを行っておいた方が良いでしょう。
3. 法令から見た「母性健康管理の措置」のポイント
3.1. 男女雇用機会均等法で義務づけられている母性健康管理の措置
男女雇用機会均等法にて、会社に義務づけられている母性健康管理の措置は以下の通りです。
保健指導又は健康診査を受けるための時間の確保
会社は、妊産婦である女性労働者の状況に応じて以下の回数、保健指導又は健康診査を受診するために必要な時間を確保できるようにしておく必要があります。
妊娠中 | 産後(出産後1年以内) |
妊娠23週まで:4週間に1回 妊娠24週から35週まで:2週間に1回 妊娠36週以後出産まで:1週間に1回 |
医師等の指示に従って必要な時間を確保する必要あり |
なお、妊娠中の健康診査等の回数について、医師又は助産師(以下「医師等」)が上記と異なる指示をしたときは、その指示により、必要な時間を確保することができるようにする必要があります。
また、産後1年間については育児休業をしていることが多いので、あまり気にする必要はありませんが、もし産後1年以内に業務を行う女性労働者がいる場合は注意が必要です。
指導事項を守ることができるようにするための措置
妊産婦の女性労働者が健康診査等を受けた際、場合によっては医師等から何らかの指導を受けることがあります。
こうした場合、会社はその女性労働者が受けた指導を守ることができるようにするため、以下のような措置を講じる必要があります。
⑴ 妊娠中の通勤緩和 |
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⑵ 妊娠中の休憩に関する措置 |
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⑶ 妊娠中又は出産後の症状等に対応する措置 |
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出典:妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置Q&A(厚生労働省 リンク先PDF)
よって、例えば、医者等から「女性労働者の体調が思わしくないので2週間の休業が必要」と指導があった場合、会社はこれに従い、女性労働者を2週間休業せる必要があります。
妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止
母性健康管理の措置を受けたことを理由とする不利益取扱いは禁止されています。
例えば、上で挙げた健康診査等のために会社を休んだり、医師等の指導を守るための措置を受けたことを理由に解雇や降格を命じたり、人事考課を低く取り扱うなどがこれに当たります。
※ 不利益な取り扱いと考えられる例
- 解雇すること
- 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと
- あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること
- 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと
- 降格させること
- 就業環境を害すること
- 不利益な自宅待機を命ずること
- 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと
- 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと
- 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと
4. 「母性健康管理の措置」条文作成のポイント
4.1. 基本的には法律通りに
法令よりも手厚く母性の健康管理を行う以外、「母性健康管理の措置」に関する就業規則の規定については、会社がアレンジできる余地はありません。
そのため、基本的には法律通りの内容を就業規則に定めることになるかと思います。
4.2. 無給か、有給か
母性健康管理の措置により、女性労働者が業務を行っていない時間についてはノーワーク・ノーペイの原則により、無給で問題ありません。
もちろん、会社の裁量で有給とすることは可能です。また、有給とする際の賃金の決定方法も会社の裁量で決めることができます。
5. 就業規則「母性健康管理の措置」の規定例
第○条(母性健康管理の措置)
- 妊娠中または出産後1年を経過しない女性従業員から所定労働時間内に、母子保健法に基づく保健指導または健康診査を受けるために、通院休暇の請求があったときは、次の範囲で休暇を与える。
① 産前の場合、次の通りとする。ただし、医師または助産師(以下「医師等」という)がこれと異なる指示をしたときには、その指示により必要な時間
(1) 妊娠23週まで 4週間に1回
(2) 妊娠24週から35週まで 2週間に1回
(3) 妊娠36週以後出産まで 1週間に1回
② 産後(1年以内)の場合、医師等の指示により必要な時間 - 妊娠中または出産後1年を経過しない女性従業員から保健指導または健康診査に基づき就業時間等について医師等の指導を受けた旨、申出があった場合、次の措置を講ずることとする。
① 妊娠中の通勤緩和:通勤時の混雑を避けるよう指導された場合は、原則として1時間の就業時間の短縮、または1時間以内の時差出勤
② 妊娠中の休憩の特例:休憩時間について指導された場合は、適宜休憩時間の延長、休憩の回数の増加
③ 妊娠中または出産後の諸症状に対応する措置:妊娠中または出産に関する諸症状の発生または発生のおそれがあるとして指導された場合は、その指導事項を守ることができるようにするための作業の軽減、就業時間の短縮、休業等の措置 - 前各項により勤務しなかった時間は無給とする。
6. 規定の変更例
6.1. 母性健康管理の措置の期間を有給とする場合
第○条(母性健康管理の措置)
- 妊娠中または出産後1年を経過しない女性従業員から所定労働時間内に、母子保健法に基づく保健指導または健康診査を受けるために、通院休暇の請求があったときは、次の範囲で休暇を与える。
① 産前の場合、次の通りとする。ただし、医師または助産師(以下「医師等」という)がこれと異なる指示をしたときには、その指示により必要な時間
(1) 妊娠23週まで 4週間に1回
(2) 妊娠24週から35週まで 2週間に1回
(3) 妊娠36週以後出産まで 1週間に1回
② 産後(1年以内)の場合、医師等の指示により必要な時間 - 妊娠中または出産後1年を経過しない女性従業員から保健指導または健康診査に基づき就業時間等について医師等の指導を受けた旨、申出があった場合、次の措置を講ずることとする。
① 妊娠中の通勤緩和:通勤時の混雑を避けるよう指導された場合は、原則として1時間の就業時間の短縮、または1時間以内の時差出勤
② 妊娠中の休憩の特例:休憩時間について指導された場合は、適宜休憩時間の延長、休憩の回数の増加
③ 妊娠中または出産後の諸症状に対応する措置:妊娠中または出産に関する諸症状の発生または発生のおそれがあるとして指導された場合は、その指導事項を守ることができるようにするための作業の軽減、就業時間の短縮、休業等の措置 - 前各項により勤務しなかった時間は有給とし、支払う額は所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金額とする。
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