1. A8 労働基準法の基準を下回る部分だけ無効となり、下回る部分は労働基準法の基準に自動で引き上げられます
1.1. 労働契約のすべてが無効になるわけではない
労働基準法の基準を下回っているからといって、その労働契約が全て無効になるわけではありません。
例えば、ある会社で時間外手当を法律で定められている「1.25倍」ではなく「1.10倍」しか払っていなかったとしましょう。その代わり、年次有給休暇の日数は労働基準法の基準よりも多く与えられています。
この場合、まず、法定の時間外手当の割増率に満たない「1.10倍」という割増率は無効となり、法定の「1.25倍」に引き上げられます。
一方で、労働基準法の基準よりも多く与えられている年次有給休暇の規定はそのまま有効と判断されます。
1.2. 部分無効自動引上げ
このように、労働基準法では、労働基準法の基準と同等かそれ以上の部分はそのままに、下回っている部分だけを無効とし、代わりに労働基準法の基準にまで自動で引き上げます。
これは「部分無効自動引上げ」と呼ばれ、労働基準法の非常にユニークな特徴の1つとされています。
1.3. 「労働基準法に合わせるから」という理由で労働条件を引き下げることはできない
一方で、先ほどの例の場合、年次有給休暇の日数は労働基準法以上となっていますが、これを「労働基準法に合わせる」ことを理由に労働条件を引き下げることはできません。
労働条件を引き下げる場合、すなわち労働条件の不利益変更をする場合、労働者の個別の合意もしくは引き下げることに対する客観的合理的な理由が必要となります。