この記事の目次
1. 求人不受理とは
1.1. ハローワーク等が求人者からの求人を不受理とする制度
求人不受理とは、ハローワークや職業紹介事業者が一定の要件に当てはまる求人者(会社)の求人を不受理とする制度です。
実は職業安定法では「公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者は、求人の申込みは全て受理しなければならない」と定められており、申込みのあった求人を原則不受理とすることはできません。
しかし、それでは求職者(労働者)の不利益になることがありうるため、ハローワーク等が求人不受理とすることができる要件も定められています。
1.2. 「その申込みを受理しないことができる」が意図するところ
ちなみに、求人の不受理については法律の条文上「その申込みを受理しないことができる。」となっています。
なので、職業紹介事業者等は必ず「不受理にしないといけない」わけではありません。
ただ、これは民間の職業紹介事業者に対して「必ず不受理としないといけない」と義務づけるのが、様々な理由により難しいためです。
一方、ハローワークについては、民間の職業紹介事業者と違ってそうした困難があまりないので、要件に当てはまる場合、基本的には不受理になると考えた方が良いでしょう。
2. ハローワークや職業紹介事業者が求人不受理とできる場合
2.1. 求人不受理とできる求人内容・求人者の要件
では、どのような求人内容や求人者だと、ハローワークや職業紹介事業者求人の申込みを受理しないことができるかというと、現行(2019年12月時点)では以下の通りです。
- その申込みの内容が法令に違反するとき
- その申込みの内容である賃金、労働時間その他の労働条件が通常の労働条件と比べて著しく不適当であると認めるとき
- 第五条の三第二項の規定による労働条件の明示をしないとき
2.2. 2020年3月30日により求人不受理要件が追加
ただし、求人不受理に関しては改正法の施行が2020年3月30日に迫っており、改正法施行以降は以下のようになります。
- その内容が法令に違反する求人の申込み
- その内容である賃金、労働時間その他の労働条件が通常の労働条件と比べて著しく不適当であると認められる求人の申込み
- 労働に関する法律の規定であつて政令で定めるものの違反に関し、法律に基づく処分、公表その他の措置が講じられた者(厚生労働省令で定める場合に限る。)からの求人の申込み
- 第五条の三第二項の労働条件等の明示が行われない求人の申込み
- 暴力団関係者等からの求人
- 正当な理由なく、公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者が求める報告に応じない者からの求人の申込み
上記のうち、1.と2.、4.については従来からあるものです。
一方、3.、5.、6.については今回の法改正で、追加されるものとなります。
(ただし、3.については、若者雇用促進法を根拠に新卒求人に限り、2016年3月よりその適用が始まっています。)
この記事ではその重要性から、3.の「一定の労働関係法令違反の求人者による求人」を中心に、求人の不受理についてみていきたいと思います。
2.3. 違反すると求人不受理の対象となる法律
上記3.の「一定の労働関係法令」とは以下のものをいいます。
- 労働基準法(男女同一賃金、強制労働の禁止、労働条件の明示、賃金、労働時間、休憩、休日、有給休暇、年少者、妊産婦関係)
- 最低賃金法(最低賃金の支払い)
- 職業安定法(労働条件の明示、個人情報保護・守秘義務等、求人の申込み、労働争議、委託募集、報酬関係)
- 男女雇用機会均等法(性別を理由とする差別の禁止、性別以外の事由を要件とする措置の禁止、結婚・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止、セクハラ、妊娠中、出産後の健康管理に関する措置)
- 育児介護休業法(育児休業、介護休業、子の看護休暇及び介護休暇の申出に応じる義務、育児休業等を理由とした不利益取扱いの禁止、所定外労働の制限、所定外労働をしなかったことを理由とした不利益取扱いの禁止、育児を理由とする時間外労働の制限、時間外労働をしなかったことを理由とした不利益取扱いの禁止、育児を理由とする深夜業の制限、深夜業をしなかったことを理由とした不利益取扱いの禁止、所定労働時間の短縮措置、所定労働時間の短縮措置を理由とした不利益取扱いの禁止、職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置、労働者の配置に関する配慮、紛争解決援助に係る不利益取扱いの禁止)
この後、詳しく説明しますが、労働基準法及び最低賃金法以外は、違反した場合に、厚生労働省が「企業名の公表」措置を取れるものが、求人不受理の要件となっています。
3. 求人不受理の流れ
さて、一定の労働関係法令違反によって、実際に求人が不受理とどうなるのでしょうか。
ここではその流れをみていきたいと思います。
3.1. 「一定の労働関係法令違反している」状態とは
一定の労働関係法令違反による求人不受理について理解するには、まず「一定の労働関係法令違反している」状態というのはどのような場合をいうのか、を理解しておく必要があります。
これは以下の通りとなります。
(1)労働基準法及び最低賃金法のうち、賃金や労働時間等に関する規定
- 過去1年間に2回以上同一条項の違反について是正指導を受けている場合(A)
- 対象条項違反により送検され、(企業名が)公表された場合(B)
- その他、労働者の職場への定着に重大な影響を及ぼすおそれがある場合(社会的影響が大きいケースとして公表された場合等)(A)
(2)職業安定法、男女雇用機会均等法及び育児介護休業法に関する規定
- 法違反の是正を求める勧告に従わず、(企業名が)公表された場合(A)
つまり、単に法律に違反している状態にあるだけで求人不受理とされるわけではないということです。
「過去1年に2回以上、同一条項の違反で是正指導を受けている」「送検され、公表された場合」「是正勧告に従わず、公表された場合」が条件なので、行政から是正勧告を受けても違反を放置した場合や、違反が特に悪質でない場合、そうそう対象となることはないはずです。
各項目の(A)と(B)については次の項で説明します
3.2. 求人が不受理となる期間
法令違反による求人不受理の場合、一定の期間求人が不受理となります。
そして、その期間は法違反に対する処分が是正勧告・企業名公表(上の項目でいう(A))と、送検(上の項目でいう(B))とで期間が異なります。
求人が不受理となる期間は、以下の通りです。
不受理となる期間
(A):法違反が是正されるまでの期間+是正後6ヵ月経過するまで
(B):送検された日から1年経過するまで(ただし、是正後6ヵ月経過するまでは1年経過していても延長)
(A)については、不受理となる期間の起算日は、企業名の公表日ではなく、法違反が是正された日からであることに注意が必要です。
(B)については、送検された日から1年が経過していたとしても、法違反の是正から6ヵ月が経過するまでは求人不受理の期間は継続します。
4. 労働関係法令違反で求人不受理とならないために
4.1. 労働局や監督署の調査の目的を知っていれば怖くない
すでに見たように、該当する法令に違反している状態にあるからといって、即座に求人不受理となるわけではありません。
そして、労働監督行政においては、調査に入られ、仮に違反が見つかったとしても、いきなり逮捕・送検や企業名公表、といったことはまずありません。
なぜなら、労働監督行政は逮捕や送検によって違反企業を潰すことではなく、違反状態を是正させ、健全な労務管理を企業に実施させることに重きが置かれてるからです。
よって、法律違反がある場合、まずは是正勧告や指導を行います。
そして、何度、是正勧告や指導を行っても改善されない場合に逮捕・送検や企業名公表といった措置が行われるわけです。
4.2. 法違反はしない、指摘されたら是正する、が対策
一定の労働関連法違反による求人不受理を避けるには、法違反をしない、というのが最大の対策です。
一方で、事情により、対応が間に合わなかった場合で、法令違反の是正勧告を受けたとしても、慌てる必要はありません。
是正勧告に従い、法令違反の状態を是正し、それを監督官庁にきちんと報告すれば、企業名公表の処分が行われることはなく、求人が不受理となることもありません。
5. 2020年3月30日から開始される、労働関係法令違反以外の求人不受理
最後に、2020年3月30日より開始される、労働関係法令違反以外の求人不受理についてもみておきたいと思います。
5.1. 暴力団関係者等からの求人
2020年3月30日より、ハローワーク等は、以下に当てはまる者の求人を不受理とすることができます。
- 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第六号に規定する暴力団員(以下この号及び第三十二条において「暴力団員」という。)
- 法人で、その役員のうちに暴力団員がいる会社
- 暴力団員がその事業活動を支配している会社
2.の「役員」については、取締役や執行役はもちろんのこと「相談役や顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。」とされており、かなり広い意味となっています。
とはいえ、普通の会社にはあまり関係のない条文かとは思うので、対策としてはとにかく暴力団・反社会勢力とは関わらないことが重要です。
例えば、「中途採用等で暴力団関係者を会社内に入れないよう誓約書などを書かせる」「外部の役員に関しては身元調査をきちんとする」「仮に付き合いがあるなら絶つ」といったところが対策になるかと思います。
5.2. 公共職業安定所等からの報告に応じない者からの求人の申込み
2020年3月30日の改正法施行後は、公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者は、求人者に対して、求人の申込みが求人不受理の要件に該当していないかどうかを確認するため、その求人者に報告を求めることができるようになります。
一方、求人者は、公共職業安定所等から求めがあったときは、正当な理由がない限り、その求めに応じなければいけません。
公共職業安定所等が求める報告に応じない場合、その求人者の求人を、公共職業安定所等は求人不受理とすることができます。