この記事の目次
1. 吉本の芸人は個人事業主では?
今日は、いわゆる闇営業に端を発した吉本興業の件について、人事労務の観点から。
人事労務の観点から、といいつつ、芸能事務所とそこに所属する芸能人・タレントは、通常、労使の関係にはありません。
タレントは「個人事業主」扱いであり、芸能事務所は彼ら個人事業主とマネージメント契約という請負・委託契約を結んでいるという扱いです。
にもかかわらず、吉本には「契約書がない」というのは、なかなかに業の深さを感じます。
2. 個人事業主との契約で契約書がない危険性
2.1. 芸能人やタレントは個人事業主なのか労働者なのか
芸能人やタレントは個人事業主なのか労働者なのか、というのは昔からある問題です。
芸能実演家の労働者性 浜村 彰(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)
2.2. 雇用契約ではないことを証明するための契約書
なので、普通の会社と個人事業主の関係ですと、契約する際に「これは労働契約ではない」ことを証明するための契約書を結ぶのが普通です。
そうしないと、個人事業主側から「これは労働契約だ」と言われたときに、会社が対抗できない可能性があるからです。
(筆者自身も昔(この仕事を始める前)、どう考えても雇用契約だろう、みたいな個人請負契約を結んで働いてたことがありますが、そこでは契約前に、これは労働契約ではないことについて入念な説明がありました。)
契約書がなくても契約を結ぶことは可能なのものの、こういった理由から吉本興業側が芸人と契約を結ぶ上で「契約書なし」としていることには「一応」リスクがあります。
吉本に所属するすべての芸人がそうではないにせよ、例えば、劇場などである程度継続的に仕事があって、働く時間帯等も決まってる芸人などは労働者性が認められてもおかしくありません。
3. 請負・委託契約なのに「クビ」?
3.1. 請負・委託契約に「クビ」はない
さらに、吉本芸人の労働者性について、興味深いのが岡本社長が言ったとされる「会見すれば全員クビにするぞ」という発言。
「クビ」とは一般的な意味では「解雇」を指します。解雇の前提は労働契約を結んでいることです。
しかし、すでに述べたように会社と個人事業主が結ぶのは労働契約ではなく請負・委託契約。
よって、吉本興業が所属芸人を「クビ」にするというのは違和感があるわけです。
もしかしたら、というか、おそらく岡本社長の中では、労働者との契約解除も、個人事業主との契約解除も、「クビ」という認識なのでしょう。
しかし、この発言を突っ込まれると、吉本興業側も所属する芸人のことを「労働者扱い」している、と受け取られかねないのは間違いありません。
4. もしも、吉本芸人が労働者性を主張したら?
では、吉本に所属する芸人は、わたしたちは労働者なのだからきちんと労働契約を結び、社会保険や雇用保険に入れろ、と主張すべきなのでしょうか。
そんなことしたら、裁判で仮に労働者性が認められて、労働契約を結べたとしても、仕事が回ってこなくなるのは目に見えてますよね。
干される、ってやつです。
通常、契約書というのは、「相手にこういうことをしてほしい、あるいはしてほしくない、破った場合にはこうする」ということを定めます。
しかし、大手芸能事務所には、この「干す」という最強の制裁が可能なため、契約書不要でも相手(芸人)を思うように動かせるわけです。
つまり、吉本芸人には労働者性が認められる余地はあるのかもしれないけど、それをさせないだけの力が事務所にはあるという構図であり、事務所の力が強力だからこそ個人事業主たる所属芸人に「クビ」なんて言えてしまうのでしょう。
一連の騒動で、こうした構図が変わるのかどうか、興味深いところです。
今日のあとがき
歳を取ると、新しいことを始めるのが億劫になる、という話を聞くのですが、一足早くそれが来てる感。
というのも、わたくしかなりのゲーマーを自認しているのですが、最近ではなかなか新しいゲームを始めるのが億劫。
の割に、最近Steamで買ったクロノトリガー(過去にSFC版を攻略済み)は、懐かしさもあってあっという間にクリア(ちなみに超面白かった)。
他にも積んでるゲームはあるんですが、果たしてお盆休み中にどれだけ消化できるやら・・・。
今日のお知らせ
弊所代表の川嶋の新しい本が出ます。その名も、
「条文の役割から考える ベーシック就業規則作成の実務」(日本法令)
本書は、その条文はどうして必要なのか、どうしても必要なのか、いらなかったら削除していいのか、と、個々の条文の必要性にフォーカスを当てた就業規則本となります。
なぜ、本書で就業規則の個々の条文の必要性に焦点を当てたかというと、日々の就業規則作成業務で「この条文はどういう意味か」「この条文は変えられないのか」「この条文は削除できないのか」といった質問、要望をお客様から受けることが多かったので、ならば、本でそれらをまとめてしまおうと思ったわけです。
本書には魔法のような条文も奇策のような条文もありませんが、ベーシックな就業規則を作成するのにお力になれる就業規則本だと思っています。