同一労働同一賃金

同一労働同一賃金に「罰則」はないが裁判での「敗北」はあるという話

2019年3月12日

今日は同一労働同一賃金と罰則の関係について解説。

 

1. 同一労働同一賃金違反に刑罰という意味での罰則はない

解説といいつつ、結論をさっさと言ってしまうと大前提として「同一労働同一賃金」に「罰則」はありません。

ここでいう「罰則」とは「罰金」や「懲役」といったいわゆる「刑罰」のことをいいます。

しかし、同一労働同一賃金未達成で刑罰を受けることはないにしても、刑罰以外のペナルティを負う可能性はあります。

 

2. 労務管理を行う上での2つの最悪の事態

では、刑罰以外のペナルティとは何か、という話をするには、その前に会社が法違反やそれに近い違反等を行った場合における「労務管理を行う上で最悪の事態」というものは何か、という話をしないといけません。

実はこの「労務管理を行う上での最悪の事態」には大きく分けて2つあります。

 

2.1. ① 法違反による行政・司法・社会(世間)からの罰

1つは法違反に対して、監督署の取り締まりにあうこと。こちらは、初めのうちは是正勧告や指導から始まるものの、改善が見込めない場合は逮捕や送検等に発展します。

そして、逮捕や送検が行われ、司法の場で有罪となれば「罰金」や「懲役」といった「刑罰」が下ります。

また、法違反によって「罰金」や「懲役」といった「刑罰」がない場合であっても、行政による「公表」や、派遣事業などでは許可の取消などが行われることもあります。

加えて、こうした法違反がマスメディアで報道されれば、会社のイメージダウンなど他の部分で損害も出ます。

このように法違反に対して罰、行政・司法・社会(世間)から罰を受ける、というのが「労務管理を行う上で最悪の事態」の1つ目です。

 

2.2. ② 労使間で司法の場で争うこと(そして会社が負けること)

もう1つの「労務管理を行う上で最悪の事態」は労使間で争いになって、会社側が負けることです。

それも単なる言い争いとかそういうレベルではなく、司法の場、裁判で労使が争うことをいい、そこで会社側が負けることを言います。

法違反や、あるいは一概に法違反とはいえない微妙なことがきっかけにおきるこうした労使間での争いがなぜ起こるかというと、法律の中には「罰則」はないけれど守らないといけない法律があるからです。

例えば、ここ最近の正規と非正規の格差に関する裁判のほとんどは、罰則のない条文である労働契約法の20条を争点としています。

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
第二十条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 

3. 同一労働同一賃金未達成がもたらすものとは

3.1. 同一労働同一賃金違反に刑罰という意味での罰則はない(2回目)

同一労働同一賃金を考える上で重要となるのは、改正後の短時間・有期雇用労働法8条、9条、改正後の労働者派遣法30条の3です。

いずれも、先ほどみた労働契約法20条とほぼ同内容となっており、正規と非正規、あるいは派遣先の通常の労働者と派遣労働者とで不合理と認められるような待遇の相違を禁止しています。

一方で、改正後の短時間・有期雇用労働法8条、9条、改正後の労働者派遣法30条の3のいずれの規定も、違反に対する罰則はありません。

(ちなみに、刑罰としての罰金はありませんが、行政罰である過料が取られる場合はあります。といっても、そんなケースなかなかないと思いますが)

 

3.2. 同一労働同一賃金未達成で労働者から訴えられると会社は負ける可能性がある

ある会社の正規と非正規の待遇の相違が不合理な待遇と認められるかどうかは、各個別の事例を検証する必要があるからです。

では、個別の事例の1つ1つを不合理と認めらるかどうかの判断は誰がするか、というと最終的には司法の場、つまり、裁判所で判断することになります。

つまり、同一労働同一賃金未達成による最悪の事態とは、上の②、「労使間で司法の場で争うこと(そして会社が負けること)」なのです。

なので、同一労働同一賃金未達成については刑罰はないけれども、労働者側がそれに不満を抱き、訴えるようなことがあると、会社は思わぬ損害を受ける可能性があるわけです。

 

4. 同一労働同一賃金と働き方改革における優先順位

4.1. 労働者が会社を訴える、というリスクをどう見積もるか

とはいえ、労働者が会社を訴える、という事態はそうそうあることではなく、あったとしてもいきなり訴える、ということはないと思います。

たいていの場合は労使間での交渉を挟んで、それでも上手くいかない納得いかないという場合に訴える、ということがほとんどかと思われます。

中小企業に至っては訴える前に会社を辞めてしまっている可能性もあります。

なので、同一労働同一賃金への対応は、各会社の「労働者から訴えられる確率」がどれくらいあるか、で対応の優先度が決まるということです。

もちろん、訴えられる可能性なんてないと高をくくるのは良くありませんが、会社ごとのリソースが限られている以上、働き方改革における優先度、というのは考えていく必要があります。

同一労働同一賃金による最悪の事態はすでにみたように②ですが、時間外労働の上限規制や年次有給休暇の5日取得義務の違反は①なので、最悪の場合「刑罰」があります。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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