追記:2018年12月末に正式な同一労働同一賃金ガイドラインが公表されました。
同一労働同一賃金ガイドライン(リンク先PDF 出典:厚生労働省)
以下の記事でそちらの解説もしているので是非ご覧ください。
この記事の目次
1. 2018年9月、ガイドラインは「案」から「叩き台」に
現在、同一労働同一賃金を考える上で非常に重要な資料となっている「同一労働同一賃金ガイドライン案」は、働き方改革に関する法改正の指針として作成されたものです。そして、法改正後はこのガイドライン案をさらに発展させて、正式な「同一労働同一賃金ガイドライン」が作成される予定となっていました。
皆さんもすでにご存じのように働き方改革法はすでに成立しているため、現在は「同一労働同一賃金ガイドライン案」を「同一労働同一賃金ガイドライン」へと発展させるフェーズに入っています。
その正式な「同一労働同一賃金ガイドライン」を作成するための「たたき台」というものが先日の「第9回労働政策審議会 職業安定分科会 雇用・環境均等分科会 同一労働同一賃金部会」(長い!)にて公表されています。
同一労働同一賃金ガイドラインのたたき台(短時間・有期雇用労働者に関する部分)(リンク先PDF 出典:厚生労働省)
ガイドライン案はこちら。
同一労働同一賃金ガイドライン案(リンク先PDF 出典:首相官邸)
2. 「案」から「たたき台」へ、何がどう変わったの?
「案」から「たたき台」となる中での変更は以下の通りです。
- パートタイム労働法・労働者派遣法改正を踏まえた変更
- 用語の変更・統一
- 附帯決議を踏まえた追記
- 長澤運輸事件を踏まえた追記
- その他、追記・修正
2.1. 1.パートタイム労働法・労働者派遣法改正を踏まえた変更
同一労働同一賃金ガイドラインの位置づけが明確化され「パートタイム労働法8条および9条、労働者派遣法30条の3および30条の4」で定められている「不合理待遇の相違等」の解消を目指すものと定められました。
つまり、同一労働同一賃金ガイドラインは「パートタイム労働法8条および9条、労働者派遣法30条の3および30条の4」を企業が守るために活用するためのものと考えることができます。
また、パートタイム労働法8条および9条の条文については、ガイドライン本体にも記載されるようです。
2.2. 2.用語の変更・統一
「案」では正社員のことを「無期雇用フルタイム労働者」と記載していましたが、「たたき台」では法律の条文でより一般的な「通常の労働者」に変更されています。
また「パートタイム労働者」「有期雇用労働者又はパートタイム労働者」についても、「短時間労働者」「短時間・有期雇用労働者」に変更されています。
2.3. 3.附帯決議を踏まえた追記
参議院での附帯決議を踏まえ、ガイドラインの目的に追記が行われています。
1つ目は、以下のような場合でも
- 雇用管理区分(非正規の身分)を新たに設けて、通常の労働者の待遇水準を他の通常の労働者のと比較して引き下げた場合
- 通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の職務内容を分離した場合
事業主は通常の労働者と短時間・有期雇用労働者とのあいだの不合理な待遇の相違等を解消する必要がある
という内容が追加されています。
これは、雇用管理区分の新設や職務分離等でパートタイム労働法8条および9条の規定を回避できないとした参議院の附帯決議を強調するものです。
もちろん、雇用管理区分の新設や職務分離等を行った場合で、待遇等に相違があったとしてもそれが不合理と認められない範囲であれば問題はないとみられます。
もう1つは「同一労働同一賃金の達成は非正規雇用労働者の待遇改善によって実現すべき」「通常の労働者の待遇引き下げは改正の趣旨に反する」という参議院の附帯決議を踏まえ、
- 通常の労働者の待遇を引き下げる際は不利益変更になること
- 不利益変更には労働者と合意する必要があること
- 事業主が通常の労働者と短時間・有期雇用労働者等との間の不合理な待遇の相違等を解消するに当たっては、基本的に、各事業主の労使で合意することなく通常の労働者の待遇を引き下げることは、望ましい対応とはいえないことに留意すべき
という内容が追加されています。
労使間の契約はあくまで私人間の契約であることを配慮してか、附帯決議に比べると表現を抑えた文面となっています。
いずれにせよ、従来通り、合意に基づく不利益変更であれば問題はないと読むことが可能です。
2.4. 4.長澤運輸事件を踏まえた追記
定年後再雇用された労働者については、嘱託社員と呼ばれることが一般的ですが、その実態は短時間・有期雇用労働者であり改正パートタイム労働法の適用があります。
ただし、「定年に達するまで通常の賃金の支給を受けてきた者」「老齢厚生年金の支給が予定されていること」など、通常の短時間・有期雇用労働者とは異なる事情もあります。
長澤運輸事件ではそれらを「その他の事情」として考慮し、それぞれの手当の支給目的などを踏まえた上で、職務内容等が同一で待遇に相違等があったとしても一部の手当を除き不合理とは認められないと判断しました。
ガイドラインの「たたき台」では、こうした長澤運輸事件の考えを踏まえた記載が行われており、ほぼほぼ判例通りの内容となっています。
ただ、気をつけないといけないのは、長澤運輸事件では単に老齢厚生年金の支給予定があること以外にも、会社が老齢厚生年金の支給開始まで調整給を支給していたり、定年前と比較して年収ベースの賃金が80%程度になるようにし、労働者の生活に配慮していたことも上記のような判断に繋がっています。加えて、長澤運輸事件では精勤手当について定年前と定年後を比較して必要性は変わらないと、定年後再雇用者にのみ支給を行っていなかったことを不合理と判断しています。
こうしたことを踏まえ「たたき台」でも、「定年後再雇用されることのみをもって、直ちに相違が不合理ではないとされるものではない」としています。
2.5. 5.その他、追記・修正
上記以外にも細かな追記・修正が行われていますが、一つ大きなところでは「通勤手当」の事例で「採用圏を限定していない無期雇用フルタイム労働者」と「採用圏を近隣に限定しているパートタイム労働者」の通勤手当の違いが問題となるかどうかというものがありました。
しかし、そもそも「採用圏を限定する」こと自体が「公正な採用選考」上、問題があるとし事例が修正されています。
(事例自体は一般採用の通常の労働者と、近隣から通える範囲で通勤手当の上限を設定し契約した短時間労働者がいて、短時間労働者が本人の都合で上限を超える範囲に引っ越したが、通勤手当は上限額の範囲内で支払っても問題ないというもの。事例には記載はないが通常の労働者が引っ越した場合は上限設定がなく実費分がもらえると考えられるが、それでも問題はないということ)
以上です。
変更箇所自体は多いですが、基本となる部分は大きく変わっていないという印象です。
今日のあとがき
本を出したときから「そういう本」なのはわかっていましたが、時間が経てば経つほど情報が新しくなっていくので、本の中の情報がどんどん古くなっていくのがつらいところ。
とはいえ、大枠が大きく変わったわけではないですし、他の省令改正や正式なガイドラインに対応した書籍が出てくるのはおそらくまだまだ先。
本ブログの情報と合わせて読んでもらえれば「「働き方改革法」の実務」はまだまだ全然、皆様のお役に立てる本だと思います。