この記事の目次
1. 働き方改革、何から手を付けるべきか
今国会で成立した働き方改革法。
改正事項が多いので何から手を付けたらいいのかわからないという経営者や人事・労務担当者も多いことでしょう。
そういう場合「罰則のある項目の対応から行う」というのは一つの手だと思います。
法違反によって監督署に腹を探られ抉られるのは、会社としても面白くないと思うので。
では、働き方改革法で罰則のある法改正項目とはどれくらいあるのでしょうか。
罰則の内容と合わせて、以下にまとめておくのでご参考にしていただければと思います。
2. 働き方改革法で新たに罰則が設けられる改正項目
2.1. ① 時間外労働の上限規制
言わずと知れた、今回の法改正の目玉。
大企業では2019年4月1日、中小企業では2020年4月1日より施行されます。
制度の詳しい内容はこちらの記事を。
労働基準法改正案から年間720時間の「時間外労働の上限規制」や「労使協定」を解説
罰則の内容は「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」。
2.2. ② 60時間を超える時間外労働に対し、割増率5割以上
こちらはすでに大企業には適用されていたものの、これまでは中小企業への適用が猶予されていた制度です。
法定の割増率以上の割増賃金を支払わない場合、賃金の未払いとなるので罰則の対象となります。
こちらは2023年4月1日より中小企業への猶予が撤廃されます。
働き方改革により原則平成31年(2019年)施行予定の改正労働基準法の概要
罰則の内容は「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」。
2.3. ③ 1か月を超える清算期間を定めるフレックスタイム制の労使協定
法改正で清算期間の上限が3か月に延長されるフレックスタイム制ですが、1か月を超える清算期間を定める場合、労使協定の届出義務が発生します(1か月以内の場合は不要)。
届出がない場合は罰則の対象となります。
新しいフレックスタイム制の適用は企業の規模にかかわらず2019年4月1日からとなります。
2019年4月1日より改正予定の「フレックスタイム制」の変更点+制度自体も解説
罰則の内容は「30万円以下の罰金」。
追記:この30万円以下の罰金は「1人当たり」となります。
2.4. ④ 年次有給休暇の会社の時季指定
法改正で、会社は年間で最低5日、労働者に年次有給休暇を取得させることが義務づけられますが、取得させなかった場合は罰則の対象となります。
こちらも企業の規模にかかわらず2019年4月1日より施行されます。
意外と難解な働き方改革で義務化される会社による年次有給休暇の時季指定を解説
罰則の内容は「30万円以下の罰金」。
2.5. ⑤ 医師の面接指導
新たに義務づけられる「新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務につく労働者」および「特定高度専門業務・成果型労働制の対象労働者」への医師の面接指導を行わなかった場合、罰則の対象となります。
こちらも企業の規模にかかわらず2019年4月1日より施行です。
働き方改革法案の労働安全衛生法の改正事項を解説(施行は平成31年(2019年)予定)
罰則の内容は「50万円以下の罰金」。
3. まとめ:失うものは罰則以上
以上です。
労働法の宿命ですが罰則が意外と軽くなっています。ただ、監督署に調査に入られたり労使間で争いになれば、罰則を受ける以上のコストを支払うことになります。
施行日との兼ね合いを考えると、大企業だと時間外労働の上限規制、中小企業だと年次有給休暇が対応の優先順位は高いのではないでしょうか。
また、騒がれていた高度プロフェッショナル制度や、昨日解説した同一労働同一賃金(パートタイム労働法・労働者派遣法)には罰則が設けられていませんが、違法な運用があれば高度プロフェッショナル制度の利用はできなくなりますし、派遣の許可の取り消しや派遣労働者の受入れはできなくなるなど、罰則のない項目でもそれに近いペナルティは存在するので注意が必要です。
また、パートタイム労働法に関しては、行政が取り締まりを行うというよりは、司法の判断によってその待遇の合理性等を判断することになるため、罰則等はありません。
社会保険労務士川嶋事務所所長でこのブログの著者である川嶋の本が出ます
世の中には「働き方改革」という言葉があふれていますが、その実態はかなりあやふやで、不安を抱いている経営者や人事・労務担当者も多いことでしょう。
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