労働者派遣

派遣労働者の同一労働同一賃金を目指す労働者派遣法の改正の概要(施行は令和2年(2020年)4月)

2018年4月18日

同じ業務に就くものであっても、派遣労働者と派遣先で雇用される労働者との間には大きな格差があるのが普通です。

働き方改革に関連する今回の派遣法の改正では、同一労働同一賃金の名の下、そうした派遣労働者と派遣先で雇用される労働者との間の格差是正を目指す改正が行われます。

 

1. 1.派遣先等による派遣元への情報提供

「労働者派遣の役務の提供を受けようとする者」すなわち「これから派遣先になろうとする会社」は、派遣元から派遣労働者を派遣してもらう契約(労働者派遣契約)を結ぶ際に「比較対象労働者の賃金その他の待遇に関する情報」を提供する義務が、新たに設けられました。

ここでいう「比較対象労働者」とは、職務の内容や責任の程度や人材活用の仕組みが、派遣される予定の派遣労働者と同一と見込まれる派遣先(厳密には「これから派遣先になろうとする会社」)の労働者のことを言います。

また、労働者派遣契約を結び、晴れて「派遣先」となった後に「比較対象労働者」の情報に変更があった際、派遣先は、遅滞なく変更内容を派遣元にその情報を提供しなければなりません。

そのほか、「派遣先」および「これから派遣先になろうとする会社」には、派遣元が同一労働同一賃金等の待遇を達成できるよう派遣料金についての配慮義務が設けられます。

一方、派遣元は「比較対象労働者」に関する情報提供がない「これから派遣先になろうとする会社」との労働者派遣契約の締結が禁止されます。

 

2. 2.派遣元事業主による不合理な待遇の禁止等

改正前の派遣法では、派遣元事業主に対し、派遣労働者と派遣先で雇用される労働者の待遇について「均衡を考慮しつつ決定するよう配慮しなければならない」という、弱い規制しかされていませんでした。

しかし、改正後の派遣法では今回のパートタイム労働法の改正とほぼ同レベルの規制が行われ、派遣法30条の3の1項はパートタイム労働法8条(均衡待遇)と、派遣法30条の3の2項はパートタイム労働法9条(均等待遇)とほぼ同内容に改正されます。

同一労働同一賃金のためのパートタイム労働法改正の概要(施行は原則令和2年2020年)4月)

よって、派遣労働者と派遣先の労働者の待遇に関してはパートタイマー労働法と同レベルの「均衡待遇」が求められます。

一方、派遣先の労働者と、職務内容や人材活用の仕組みが同一である「通常の労働者と同視すべき派遣労働者」とでも呼ぶべき派遣労働者の待遇に関しては、パートタイム労働法9条に則るなら「均等待遇」が求められるはずです。

しかし、派遣法の方は条文の文言の最後が「(派遣元事業主は)比して不利なものとしてはならない」と、ちょっと気弱な感じになっています。

(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)
パートタイム労働法9条
事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない

(不合理な待遇の禁止等)
派遣法30条の3
派遣元事業主は、職務の内容が派遣先に雇用される通常の労働者と同一の派遣労働者であつて、当該労働者派遣契約及び当該派遣先における慣行その他の事情からみて、当該派遣先における派遣就業が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該派遣先との雇用関係が終了するまでの全期間における当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、正当な理由がなく、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する当該通常の労働者の待遇に比して不利なものとしてはならない。

これは派遣労働者と派遣先の労働者とで雇用主が異なることもあり、パートタイム労働法9条のように「差別的取扱いをしてはならない」といった強い規制ができなかったのが原因かと思われます。

派遣法30の3の2項自体は「均等待遇」を定めたものと考えて問題ないかと思われますが、この微妙な違いにより、パートタイム労働法9条と同程度の効力があるかは未知数です。

 

3. 3.不合理な待遇の禁止等(均衡・均等待遇)の適用を除外する労使協定の新設

前項の不合理な待遇の禁止等(均衡・均等待遇)の規定を順守するということは、派遣元が派遣労働者の待遇を派遣先の労働者に合わせて待遇を変える必要があることを意味します。

しかし、それだと派遣先が変わるごとに派遣労働者の待遇が良くなったり悪くなったりすることになってしまいます。

常に待遇が良くなっていくのであれば問題ありませんが、下がることも当然ありえますし、そもそも派遣先が変わるごとに待遇が変わると、派遣労働者の生活にも影響が出ます。

このため、改正法では過半数労組、ない場合は過半数代表と労使協定を結ぶ場合、その協定で定められた派遣労働者に限り、前項の不合理な待遇の禁止等(均衡・均等待遇)の規定適用を除外することができるようになります。

ただし、この労使協定には以下の定めをする必要があるほか、本協定を順守していない場合、適用除外の効果はなくなります。

労使協定の協定事項

  1. 本協定の対象となる派遣労働者の範囲
  2. 1.の派遣労働者の賃金の決定方法(イ及びロに該当する者に限る)
    (イ) 派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額となるものであること
    (ロ) 派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項の向上があった場合に賃金が改善されるものであること
  3. 職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を公正に評価し、その賃金を決定すること
  4. 賃金以外の待遇の決定方法
  5. 労働者派遣法30条の2の1項に基づく段階的な教育訓練の実施
  6. その他省令で定める事項

 

4. 4.協定対象派遣労働者に関する措置

前項の労使協定の対象となる派遣労働者のことを「協定対象派遣労働者」と言います。

「協定対象派遣労働者」がいるかどうかにかかわらず、派遣先及び派遣元には以下の義務が追加されます。

  • 派遣元の派遣先への通知義務:派遣元の事業主は労働者派遣を行う際、法令で定められた事項を派遣先に通知する義務がありますが、法改正後は、協定対象派遣労働者であるか否かの別を派遣先に通知する必要があります。
  • 派遣元管理台帳:法改正後は派遣元管理台帳に、協定対象派遣労働者であるか否かの別を追加する必要があります。
  • 派遣先管理台帳:法改正後は派遣先管理台帳に、協定対象派遣労働者であるか否かの別を追加する必要があります。

 

5. 5.派遣元事業主による待遇に関する事項等の説明

派遣元に課せられている、派遣労働者への待遇等に関する事項等の説明に関しても、パートタイム労働法の内容と同程度まで規制内容が引き上げられています。

 

5.1. 雇い入れ時

派遣労働者を雇い入れる時は、派遣元事業主は以下の(1)については文書の交付等による明示を、(2)についてはその措置の内容を説明する必要があります。

(1)文書の交付等による明示が必要

  • 労働条件に関する事項のうち、労働基準法15条1項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものであって厚生労働省令で定めるもの

(2)措置の内容の説明が必要

  • 不合理な待遇の禁止等(均衡・均等待遇)
  • 不合理な待遇の禁止等(均衡・均等待遇)の適用を除外する労使協定
  • 職務の内容等を勘案した賃金の決定(今回派遣法30条の5として新設されたもので、賃金の決定について努力義務を課すもの)

 

5.2. 派遣時

派遣元事業主は、労働者を派遣する際、(1)’については文書の交付等による明示を、(2)’についてはその措置の内容を説明する必要があります。ただし、協定対象派遣労働者に対してはその必要はありません。

(1)’ 文書の交付等による明示が必要

  • 労働基準法15条1項に規定する厚生労働省令で定める事項および前項の(1)に掲げる事項

(2)’ 措置の内容の説明が必要

  • 前項の(2)に掲げる事項

 

5.3. 派遣労働者から求めがあった時

派遣元事業主は、雇用する派遣労働者から求めがあった際は、その派遣労働者に対し「比較対象労働者との間の待遇の相違の内容及び理由」、ならびに「派遣法で講ずべきとされている以下の措置に関し、会社の措置を決定するに当たって考慮した事項」を説明しなければなりません。

説明が必要な事項

  • 比較対象労働者との間の待遇の相違の内容及び理由

措置の内容を決定するに当たって考慮した事項を説明する必要がある派遣法上の措置

  • 不合理な待遇の禁止等(均衡・均等待遇)
  • 不合理な待遇の禁止等(均衡・均等待遇)の適用を除外する労使協定
  • 職務の内容等を勘案した賃金の決定
  • 就業規則の作成手続き(今回派遣法30条の6として新設されたもので、就業規則の作成・変更に当たっては派遣労働者の過半数を代表する者の意見を聴くという努力義務を課すもの)

 

6. 6.派遣先に課せられる適正な派遣就業の確保等

改正前の派遣法でも、派遣先には派遣労働者に対し適正な派遣就業を確保するため様々な義務が課せられていました。

しかし、いずれも努力義務や配慮義務に止まり、効力を期待できるものではありませんでした。

今回の改正では、より効力が期待できるよう規制が強化されます。

 

6.1. 教育訓練

改正前の派遣法では、派遣先は派遣元の求めに応じ派遣労働者に対し、必要な能力を付与するための教育訓練を実施する「配慮義務」を負っていました。

しかし、改正後は「実施する等必要な措置を講じなければならない」と、実施が義務化されました。

 

6.2. 福利厚生施設の利用

福利厚生施設の利用についても、改正前は「配慮義務」だったのが、改正後は「利用の機会を与えなければならない」と義務化されています。

 

6.3. その他適切な就業環境の維持

ここまで紹介した「教育訓練」「福利厚生施設の利用」、さらには「苦情の処理」以外のものであって、就業環境の維持や診療所等の施設の利用等、派遣労働者に便宜の供与等必要な措置を講ずることが「努力義務」から「配慮義務」に変更されています。

 

6.4. 情報提供の配慮

派遣先は、派遣元による「派遣元による段階的な教育訓練」「不合理な待遇の禁止等(均衡・均等待遇)」「労使協定」「求めがあったときの説明」といった措置が適切に講じられるよう、情報提供等必要な協力をする必要があります。

これについても、改正前は「努力義務」だったのが、改正後は「配慮義務」に変更されています。

 

7. 7.紛争の自主的解決及び行政型ADR

改正前の派遣法は、パートタイム労働法と違い、行政型ADRの対象となっていませんでした。

しかし、今回の改正で以下の項目について行政型ADRの対象となります。

派遣遣元事業主が対象

  • 不合理な待遇の禁止等(均衡・均等待遇)
  • 不合理な待遇の禁止等(均衡・均等待遇)の適用を除外する労使協定
  • 雇い入れ時(明示のみで足りるものは除く)、派遣時、労働者から求めがあった際の説明

派遣先事業主が対象

  • 教育訓練の実施
  • 福利厚生施設の利用

上記のいずれも派遣元もしくは派遣先が「紛争の自主的解決」として、紛争になる前に解決するよう努めるものであると派遣法では定められていることから、できればADRに発展しないよう気を付けたいところです。

 

8. 8.公表等

今回の法改正に合わせて、厚生労働省が勧告できる違反事項が以下の通り追加されます。

今回追加されるのは、いずれも派遣先(または労働者派遣の役務の提供を受けようとする者)です。

  • 労働者派遣の役務の提供を受けようとする者による情報提供
  • 前項の情報に変更があった際の派遣先による情報提供
  • 教育訓練
  • 福利厚生施設の利用

以上となります。

改正事項がかなり多い上、一つ一つがわかりづらいものが多いので大変ですが、派遣法の違反は業務への影響が大きいため、違反がないよう気を付けたいところです。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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