労働時間

「雇用型テレワークガイドライン」に見るテレワークと労働時間管理の話

2018年3月9日

かなり前に最終案は出ていたのですが、先月下旬にようやく「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」、通称「雇用型テレワークガイドライン(以下、テレワークガイドライン)」が、パンフレットなどと合わせて公表されました。

情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン(リンク先PDF 出典:厚生労働省

働き方改革でも推進されているテレワークですが、現状テレワーク自体を義務づける法律は存在せず、法改正の予定もありません。

なので、実施するかどうかは会社次第、ただし、実施する場合は現行の法律を守る必要があります。

 

1. 労働時間の管理方法をどうするか

テレワークにおいて気を付けないといけないのはなんといっても労働時間の管理方法です。

会社にいない労働者の労働時間をどのように把握・管理するかが問題となります。

テレワークガイドラインでは、労働時間管理の方法として以下の4つの方法を挙げています。

  • 通常の労働時間制度
  • フレックスタイム制
  • 事業場外みなし労働時間制
  • 裁量労働制(専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制、特定高度専門業務・成果型労働制)

 

2. 通常の労働時間制又はフレックスタイム制で行う

一方、テレワークで通常の労働時間制度およびフレックスタイム制を利用する場合は、会社がテレワークを行う労働者の労働時間を把握し、労働者は労働時間を報告することで、テレワーク中の労働時間を管理することが前提となります。

フレックスタイム制もなの? と思うかもしれませんが、フレックスタイム制はあくまで始業・終業時刻を労働者に委ねる制度に過ぎず、それ以外の労働時間の扱いは通常の労働時間制度と大きな違いはありません。

よって、テレワークを行う労働者の労働時間の把握については、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を元に行う必要があります。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(リンク先PDF 出典:厚生労働省

労働時間の把握に関しては、「タイムカード、ICカード、パソコンの使用記録等客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録する」ことが原則ですが、テレワークの場合は通信機器を使った「自己申告」が基本となるでしょう。

労働時間を労働者の自己申告によって把握する場合、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、労働者への十分な説明を行うこと会社に求めているので、注意が必要です。

 

2.1. 通常の労働時間制でテレワーク労働者を管理する際の注意点

しかし、テレワークにおいて通常の労働時間制を適用する場合、会社で適用する場合とは異なる以下のような問題も起こりえます。

  1. 中抜け時間
  2. 通勤時間や出張旅行中の移動時間中のテレワーク
  3. 勤務時間の一部をテレワークする際の移動時間等

1.中抜け時間

育児や介護のために在宅勤務をする際、細かな仕事の中断というのが起こりえます。

そうした中断時間、中抜け時間の扱いをどうするかという問題でですが、労働法の原則でいえば、働いてない時間はノーワーク・ノーペイです。

よって、こうした中抜け時間は労働時間とはせず休憩時間扱いとすることが基本となるでしょうが、テレワークガイドラインでは時間単位年休を利用する方法も提示されています。

時間単位年休とは年次有給休暇を1時間単位で取得するもので、例えば、所定労働時間8時間で働く労働者がテレワークする時は「所定労働時間7時間、時間単位年休1時間」とすることで、賃金をマイナスすることなく、仕事中の1時間は自由に中抜けするということが可能となります。

 

2.通勤時間や出張旅行中の移動時間中のテレワーク

通常、通勤時間や移動中の時間というのは労働時間とはなりません。

しかし、そうした移動中の時間に労働する場合、つまり、モバイルワークする場合どうなのかというと、テレワークガイドラインでは「会社の(明示、黙示に限らず)指揮命令」があってそうしたことを労働者がする場合は、それを労働時間として扱うとしています。

現実には労働者が仕事が間に合わないからと自主的にモバイルワークすることも多いと思われますが、そうした自主的な労働も「黙示の指揮命令があった」と判断される可能性があるので注意が必要でしょう。

 

3.勤務時間の一部をテレワークする際の移動時間等

午前中は在宅勤務し、午後から会社で仕事をするといったように、1日の中の一部をテレワークとして勤務する場合、当然、テレワークの場所から会社へ(逆もまたしかり)の移動時間が生じます。

この移動時間についても重要なのは会社の指揮命令下に労働者があるかどうかです。

例えば、その移動が、単に労働者の自由意志による移動であれば、労働時間には該当しません。

一方で、会社側が急遽、出社命令を出すような場合は、移動中の労働の有無を問わず、それは労働時間に当たるとガイドラインは示しています。

 

3. 事業場外みなし労働時間制を活用する

裁量労働制や事業場外みなし労働時間制を活用する場合はどうでしょうか。

 

3.1. 裁量労働制

まず、裁量労働制に関しては専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制、特定高度専門業務・成果型労働制、いずれも対象業務が限られているため、適用できる労働者の範囲が狭いのがネックです。

一方で、適用できる場合、時間(裁量労働制)と場所(テレワーク)どちらも労働者が自由に決められることから、テレワークとの親和性は高いと思います。

 

3.2. 事業場外みなし労働時間制

一方、事業場外みなし労働時間制とは、会社の外で働くため、労働者に対する仕様者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難な場合に、一定の時間働いたと「みなす」制度となっています。

事業場外みなし労働時間制は、かつては外回りの営業で主に利用されていた制度でした。

しかし、今の御時世、ネットとスマホがあるため、会社の外であろうと「具体的な指示ができず労働時間を算定することは困難」という状況はそうそうないため、以前のような活用は難しくなっている制度となっています。

一方で政府はテレワークにおいて本制度を活用することについては、以下のように条件付きですが、比較的好意的です(それだけテレワークを推進したいということでしょう)。

  1. 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
  2. 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと

 

以上の条件を踏まえると、テレワークで事業場外みなし労働制を利用する場合、会社がテレワーク中の労働者にこまめに報告を求めたり、業務の指示を行うことはで着ないと考えるべきでしょう。

つまり、テレワークを行う労働者に事業場外みなし労働時間制を適用する際は、放任気味の管理にせざるを得ないわけです。

また、テレワークで事業場外みなし労働時間制および裁量労働制を利用する際は、適宜、業務量の見直したり、みなし労働時間を実態に合ったものになるよう見直すことを、ガイドラインでは求めています。

以上のような制限はあるものの、事業場外みなし労働制および裁量労働制に関しては、会社からすると労働時間把握の、労働者側からすると労働時間報告の手間がほとんどないというのは、会社および労働者のメリットとなります。

 

追記:テレワーク時のセキュリティについてはこちらの記事をご参考にしていただければと思います。

総務省よりテレワークセキュリティガイドライン第4版が公表されています

 

4. まとめ

以上です。

どのような方法で労働者の労働時間を把握するにせよ、まずはどのような目的でテレワークを導入するかが重要だと思われます。

テレワークはあくまで手段ですので、そうしないと、会社としての方向性が決められず、テレワークを導入しても上手く回りません。

ただ、労働時間のことは法律上無視できないので、労働時間管理のことで迷ったら本記事をご参考にしていただければと思います。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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