働き方改革法案では、同一労働同一賃金達成のため、パートタイム労働法、労働契約法、派遣法の改正が予定されています。
このうち、派遣法については過去に解説しているのでそちらをご参考に。
今回はパートタイム労働法の改正内容について解説していきます。
追記:改正パートタイム労働法の改正内容を詳しく解説した記事を別で書いたので、そちらも参考にしていただければと思います。
同一労働同一賃金のためのパートタイム労働法改正の概要(施行は原則平成32年(2020年)予定)
この記事の目次
1. 有期雇用労働者もパートタイム労働法の対象に
働き方改革法案によるパートタイム労働法の改正で最も大きいのが、パートタイム労働法の対象労働者に期間の定めのある雇用を結ぶ労働者、すなわち有期雇用労働者を含めるようになることです。
現行の法律では有期雇用労働者の保護は、主に労働契約法が担っているものの、パートタイム労働法で保護される短時間労働者と比べると、どちらも非正規として扱われることが多い働き方であるにもかかわらず有期雇用労働者の方が不利を強いられてきました。
そのため、今回の改正では、有期雇用労働者もパートタイム労働法の対象とし、条文上「短時間労働者」と規定されている部分は基本的に「短時間・有期雇用労働者」に変更されます。
「短時間・有期雇用労働者」とは、短時間労働者、有期雇用労働者、短時間であり有期雇用でもある労働者の全てを含む概念となります。
これに伴い、法律の正式名称も「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」から「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」に変更されます。
2. フルタイムで働く有期雇用労働者に注意
さて、これによりどのような変化が予想されるでしょうか。
もともと、短時間で働く有期雇用労働者に関しては、すでにパートタイム労働法の対象となっているので、これによってなにかしないといけないことは特にありません。
問題はフルタイムで働く有期雇用労働者の場合です。
こうした労働者の場合、正社員とほとんど変わらない業務をしているにもかかわらず、労働条件が正社員よりも低いというケースが多く見られます。
そうなると問題となってくるのが、パートタイム労働法8条および9条です。
パートタイム労働法8条は正社員と短時間労働者(法改正後は短時間・有期雇用労働者)の均衡待遇を、パートタイム労働法9条は正社員と短時間労働者(同じく、法改正後は短時間・有期雇用労働者)の均等待遇を定めた条文のため、これに引っかかってくる可能性があるわけです。
3. パートタイム労働法8条の均衡待遇
均衡待遇とは、労働条件によって待遇が変わるのはいいけれども、きちんとバランスの取れた待遇差にしなさいよ、というもの。
そして、パートタイム労働法8条において、正規と非正規の均衡待遇が取れているかの判断要素は以下の通りで、
② 職務内容・配置の変更範囲(いわゆる「人材活用の仕組み」)
③ その他の事情
上記の項目を総合的に判断することになります。
待遇について、労使で争いになった際、不合理な待遇差があると判断されると、会社は損害賠償などの不利益を被る可能性があるので注意が必要です。
4. パートタイム労働法9条の均等待遇
一方、均等待遇とは、同じ仕事をしていて同じ責任が求められているのであれば、正規か非正規かにかかわらず同等の処遇が求めるものです。
均等待遇は、先程の均衡待遇と違い、人やケースによって異なる「バランス」という曖昧な部分のない概念であるため、違反すれば即違法です。
その代わり、「(正社員と)均等な待遇が必要な短時間・有期雇用労働者」に当てはまる労働者の幅はかなり狭く、以下の要件をどちらも満たす必要があります。
2. 雇用の全期間にわたって人材活用の仕組みや運用などが同じ
また、上記の条件に当てはまるかどうかは、厚生労働省が過去のパンフレットでフローチャートを出しているので、そちらも参考にするといいでしょう
出典:パートタイム労働者雇用管理改善マニュアル・好事例集~小売業~(厚生労働省)
5. フルタイムの有期雇用労働者は均衡・均等待遇の対象となる可能性が高い
さて、以上を踏まえて、フルタイムの有期雇用労働者の話ですが、均衡待遇、均等待遇ともに正社員との「職務内容」が同一と言えない場合、適用がないのは同じです。
そして、パート・アルバイトに代表される短時間労働者の場合、正社員と同じ職務に就いているということはあまりないため、これまではそこまで問題になってきませんでした。
しかし、フルタイムの有期雇用労働者の場合、正社員と職務内容が同一、あるいはほとんど変わらないというのケースというのが、パート・アルバイトと比較して多いことが予想されます。
なぜなら、フルタイムの有期雇用労働者には契約社員のほかに、定年再雇用の嘱託社員も含まれるからです。
実際、現在最高裁で係争中の長澤運輸事件では、定年再雇用された労働者が定年前と業務内容がほとんど変わらないにもかかわらず労働条件を下げられたことを理由に会社を訴えています。
となると、上記の裁判次第のところもありますが、基本的には法改正後は8条、9条違反によって労使間で争いが起きる可能性が高まります。
良くも悪くも、働き方改革法案の混乱により、当初は平成31年4月1日施行予定(中小企業は1年猶予)だった、改正パートタイム労働法の施行日は平成32年4月1日(中小企業は1年猶予)に延期される予定です。
つまり、まだ準備時間はあるので、会社は現在雇用している有期雇用労働者や今後雇う有期雇用労働者の待遇について、今のうちに検討しておく必要があるでしょう。