形はどうあれ会社に社長の家族が関わっている、ということは珍しくありません。
社長の奥さんが経理をやっていたり、社長の兄妹が労働者と働いている、あるいは子どもが新入社員として入ってきたりなど。
このように「家族」が会社に関わるとき、労働法や各種公的保険の扱いはどのようになるのでしょうか。
今回はその解説。
この記事の目次
1. 労働基準法と家族従業者
1.1. 「同居の親族のみを使用する事業」はそもそも労働基準法の適用除外
まずは家族は労働基準法の対象となるのかについて。
労働基準法には以下のような規定があります。
第百十六条 2 この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。
ここでいう「同居」とは単に一緒に住んでいるだけでなく、生計を同一にしている場合を言います。
また、「親族」とは「6親等内の血族、配偶者および3親等内の姻族」という、民法上の親族を言います。
よって、「同居の親族のみ」のいわゆる家族経営の会社で働く家族というのは、そもそも労働基準法自体の適用を受けることはありません。
1.2. 「同居の親族のみを使用する事業」に家族以外の労働者が加わったら?
では、「同居の親族のみ」のいわゆる家族経営の会社に1人でも家族でない労働者が加わったらどうでしょうか。
当然、その会社は労働基準法の適用を受けることになります。
ただ、仮にそうなったとしても「同居の親族」が即労働者になるかというと、話は別です。
1.3. 労働者性の有無が重要
というのも、労働者とは「労働者性」があって初めて労働者となるからです。
よって、「同居の親族」に「労働者性」がなければ、結局、その同居の親族は労働者扱いにはなりません。
では、「同居の親族」に「労働者性」が認められる条件とはどのようなものでしょうか。
S54.4.2基発153号という通達では、以下のようにその条件を示しています。
- 業務を行なうにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること
- 就労の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。特に、始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等及び賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期等について、就業規則その他これに準ずるものに定めるところにより、その管理が他の労働者と同様になされていること
つまり、事業主の指揮命令下にあり、就労の実態が他の労働者と同じで、賃金等の労働条件も同様となっていることがその条件ということです。
2. 各種公的保険と家族従業者の関係
それでは「同居の親族のみを使用する事業」における労災保険や雇用保険、社会保険はどうなるのでしょうか。
まず、「同居の親族のみを使用する事業」の場合、「労働者」がいないため、そもそも会社が労災保険の加入や、雇用保険の設置をすることができません。
もちろん、同居の親族以外の労働者がいる場合、会社として労災保険への加入が必須です。
また、雇用保険についても同様に、会社として設置する必要があるほか、その同居の親族の働き方が「労働者と認められる場合」であれば、その同居の親族は雇用保険に加入可能です。
社会保険の場合も、個人事業主の場合は加入できませんが、いわゆる「1人法人」で役員報酬がゼロや極端に少ない場合でなければ、社会保険自体への加入は可能です。ただし、その家族となると、やはり労働者ではないため加入できません。
一方、同居の親族以外の従業員もいる会社の場合、その同居の親族の働き方が「労働者と認められる場合」であれば、各種保険の加入要件を満たす限り、適用を受けることが可能です。
※ 内容に誤りがあったので訂正しました。
社会保険については、個人事業主の場合と法人の場合とで変わってきます。
個人事業主の場合、同居の親族は通常「事業所に使用される者」に該当しないため、被保険者にはなりません。しかし、労働者性が認められる場合は加入可能となります。
一方、法人の場合については「同居の親族」を適用除外とする定めが法令にないため、加入可能です。
今日のところは以上です。
今日のあとがき
もう何年も前にたたんでしまいましたが、わたしの父親は居酒屋を経営しており、母親はその手伝いをしていました。
基本的には2人で切り盛りしていたので、本編の話でいえば労働基準法106条2項に当てはまって労基法等の適用は除外となっていたはず。
まあ、他に従業員がいた時期もあったらしいですが、そのときどうしてたかは知りません(笑)。