労働時間

高プロこと「特定高度専門業務・成果型労働制」を解説

2017年9月11日

「働き方改革」に関して、先週9月8日に行われた労働条件分科会で、今秋に開催が予定されている臨時国会で提出予定の法案が公表されています。

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」(諮問)(PDF:593KB)(参照:厚生労働省)

労働基準法の他、安全衛生法や雇用対策法、派遣法にパートタイム労働法に労働契約法などなど、多数の法律と改正項目を含むもののため、一度に解説というのは難しいので、今日はその中から「高度プロフェッショナル制度」について。

追記:法案の修正で決議の項目が増えたので追記しました。

 

1. 「特定高度専門業務・成果型労働制」とは

残業ゼロとかホワイトカラーエグゼンプションとか、様々な呼ばれ方をされてきた「高度プロフェッショナル制度」。

法律上は「特定高度専門業務・成果型労働制」という呼び方になるそうです。

ちょっと長いですが、まあ、正確な呼び名を覚えないといけないのは社労士試験の受験生くらいなので、あまり気にしないでください。重要なのは中身。

この「特定高度専門業務・成果型労働制」の対象労働者は、労働基準法に定められた

  • 労働時間
  • 休憩
  • 休日
  • 深夜の割増賃金

の4つの規制が適用除外となります。

管理監督者の適用除外と異なり「深夜の割増賃金」についても適用除外となる点が特徴です。

地味ですが、これにより法で定められた「時間外、休日、深夜」3つ全ての割増賃金から解放される労働者が誕生します。

 

2. 導入に当たって

「特定高度専門業務・成果型労働制」の導入に当たっては、企画業務型裁量労働制のように「労使委員会」を設置し、以下で説明する①から⑩の項目について、委員の5分の4以上の多数による決議が必要となります。

また、この際の決議は当該官庁に届け出る必要があります。

さらに、実際に労働者に適用するには、対象労働者の同意が必要です。

 

2.1. ① 対象業務

「特定高度専門業務・成果型労働制」の対象業務は

高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせる業務。

とされていますが、具体的にどのような業務が当てはまるかは省令が出てくるのを待つことになりそうです。

一応、過去に具体例で上がってるのは以下のような業務。

  • 金融ディーラー
  • アナリスト
  • コンサルタント
  • 研究開発職     etc

2.2. ② 対象労働者

「特定高度専門業務・成果型労働制」の対象とできる労働者は、対象業務に就いている労働者であることは当然ですが、それ以外にも2つ条件があります。

イ 使用者との間の書面等の方法による合意に基づき職務が明確に定められていること

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」(諮問)(PDF:593KB)(参照:厚生労働省)

「特定高度専門業務・成果型労働制」の下では、「特定高度専門業務・成果型労働制」を適用する職務、つまり、行う業務を労働契約等で明確に定める必要があります。

これは「特定高度専門業務・成果型労働制」の残業代不要という部分を悪用して、とても高度とは言えないような業務を対象労働者にやらせる、ということを防ぐのが目的でしょう。

もう一つは、ご存じ、年収要件です。

ロ 労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」(諮問)(PDF:593KB)(参照:厚生労働省)

巷では「年収1075万円」がボーダーになるのではといわれていますが、法律上は上記の通り。

具体的な数字は定められておらず、こちらも省令待ちです。

 

2.3. ③ 「健康管理時間」の把握措置

「健康管理時間」というのは聞き慣れない言葉ですが、労働時間にとらわれない働き方である「特定高度専門業務・成果型労働制」で働いた時間を管理する「方便」みたいなものだと思ってください。

制度の対象労働者が「事業場内にいた時間」と「事業場外において労働した時間」の合計のことを「健康管理時間」と呼びます。

事業場内(会社内)は単に「いた」だけでカウントするの対し、事業場外(会社外)は「労働した時間」であることに注意が必要です。

「特定高度専門業務・成果型労働制」を行う場合、この「健康管理時間」を把握する措置を定め、使用者がこれを講ずる必要があります。

 

2.4. ④ 休日

対象労働者には以下の通り、休日を与える必要があります。

  • 1年間を通じ104日以上 かつ
  • 4週間を通じて4日以上の休日

上記の内容は、委員会の決議および就業規則その他これに準ずるもので定め、使用者が講ずる必要があります。

 

2.5. ⑤ 健康確保措置

④の休日の規制の他、対象労働者に対して会社は、以下の4つのうちのいずれかの措置を委員会の決議および就業規則その他これに準ずるもので定め、講ずる必要があります

  • 勤務間インターバル規制および、省令で定める回数以下の深夜業の回数
  • 健康管理時間を1ヶ月又は3ヶ月についてそれぞれ、省令で定める時間を超えない範囲内にする(いわゆる上限規制)
  • 1年に1回、連続2週間以上の休日の確保(労働者が請求する場合は、年2回以上、連続1週間以上の休日)
  • 健康管理時間の状況その他の要件が省令に定めるものに該当する者に対する健康診断

1つ目は、勤務間インターバルを導入するだけでなく、深夜業の回数も制限しなさいという内容で、インターバルの時間と深夜業の回数は省令待ち。

2つ目は上限規制ですが、1ヶ月と3ヶ月のどちらかで見る点が、一般の労働者と異なる点。

休日の確保

3つ目は休日の確保ですが、上記の休日と年次有給休暇は別物な点に注意が必要。

つまり、上記の2週間の休日の代わりに、今回の法改正で導入される5日の年次有給休暇を与える、ということはできないということです。

 

健康診断

4つ目に関して具体的に説明すると、健康管理時間が1週間当たり40時間を超えた時間が、1ヶ月80時間を超えた場合で、本人から申出があった場合をいうとされています。

また長時間労働の他、疲労の蓄積や心身の状況等も規定されるとのこと。

平たくいってしまうと、長時間労働者の医師の面接指導と条件が似通ってると言えます。

 

講ずべきは上記の4つのうち、いずれか1つなので、会社の方針と合わせてどれにするか決めるべきでしょう。

 

2.6. ⑥ 健康管理時間に応じた健康及び福祉を確保するための措置

対象労働者の健康管理時間に応じて、健康及び福祉を確保するための措置を講じましょうという内容。

有給休暇の付与や健康診断の実施その他省令で定めるものを、委員会の決議で定め使用者はそれを講ずる必要があります。

⑤の項目と似たような感じですが、⑤にさらにプラスして、という感じでしょうか。

 

2.7. ⑦ 同意の撤回

労働者が特定高度専門業務・成果型労働制の適用を受けることに同意した場合でも、労働者側は後になってその同意を撤回することができます。

委員会の決議ではこの同意の撤回の手続きについて定める必要があります。

※ 法案の修正で追加された規定

 

2.8. ⑧ 苦情の処理

裁量労働制などでもお馴染みですが、対象労働者からの苦情の処理に関する措置を、委員会の決議で定め使用者はそれを講ずる必要があります。

 

2.9. ⑨ 不利益取り扱いの禁止

「特定高度専門業務・成果型労働制」の適用を拒んだ労働者に対して、解雇等不利益取り扱いをしないことを、委員会の決議で定める必要があります。

 

2.10. ⑩ その他省令で定める事項

省令がまだないので詳細は不明です。

 

3. 導入後

「特定高度専門業務・成果型労働制」の導入後は上記の①~⑨のうち、④~⑥、つまり、

  • 休日
  • 健康確保措置
  • 健康管理時間に応じた健康及び福祉を確保するための措置

の3つの措置の実施状況を行政官庁に報告しなければなりません。

 

以上です。

省令待ちの部分も多いですが、大枠が大分見えてきましたね。

年収要件が厳しいので、導入できる会社や労働者は少ないかと思いますが、本記事を参考に導入を検討いただければと思います。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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