労働者派遣法の改正

特定有期雇用派遣労働者の雇用安定措置について

2015年7月2日

すったもんだありましたが、改正派遣法が衆議院を通過しましたね。

同一業務3年の規制から同一労働者3年への規制に変わったり、特定派遣や専門26業務が廃止されたり、実務への影響も非常に大きい改正です。ただ、そのあたりの解説については過去の記事でも何度か取り上げているので、今回は今まであまり触れてこなかった派遣労働者への雇用安定措置について解説したいと思います。

今回の改正で追加された、派遣労働者への雇用安定措置とは、1年以上の派遣期間が終了した常用型派遣労働者(特定有期雇用派遣労働者)に対して、派遣元、つまり人材派遣会社に課せられる義務で、具体的には以下の1から4のいずれかの措置を取る必要があります。

  1. 派遣先への直接雇用依頼
  2. 新たな派遣先の提供
  3. 派遣元での無期雇用
  4. その他雇用安定に資する措置

派遣期間を終了した労働者に対して1から4のような措置を取らない場合、最悪、派遣許可の取消もありえるため、派遣元となる人材会社は法律の施行を前にきちんと対応を考えておく必要があります。

 

0.1. 厚労省の悪癖

ただ、この雇用安定措置、厚労省らしいというか、厚労省の悪癖みたいなものがやっぱり入り込んでいます。

というのも、上記の雇用安定措置ですが、派遣期間が3年到達にした派遣労働者への実施は義務なのですが、派遣先への派遣期間が1年以上3年未満の労働者への実施は努力義務なのです。

義務への違反は厚労省も取り締まれますが、努力義務はあくまで努力義務なので、取り締まりには限界があります。

よって、この雇用安定措置が義務になるのを回避するために、3年到達まで派遣するのではなく、派遣期間を2年半や2年11ヶ月までとする人材派遣会社が現れる可能性があるわけです。

また、今回の雇用安定措置はあくまで常用型派遣労働者の話で登録型派遣は対象ではないようなので(厚労省の出している概要のスライドではどちらも対象のように書いてありますが、実際の改正法案の条文を見る限りは常用型のみのようです)、常用型から登録型に移行を進める会社もあるかもしれません。(今回の改正で特定派遣が廃止されるので、今後派遣を営む会社はすべて常用型も登録型も行えます)

 

0.2. 厚労省は派遣会社の違反に強気

もちろん、上記の話はあくまで可能性の話です。

実際、わたしの顧問先の、常用型派遣を主に行う会社の社長さんとこの話をしたところ、「3年も雇った労働者にはずっといてもらいたいから、うちは3年雇ったら無期にする」というように仰っていました。

ただ、派遣許可の取消という罰則は、派遣会社にとっては大きすぎる上、派遣業への世間一般の批判が大きいこともあって監督署も取り締まりにも積極的です。(これは、労基法の違反は基本的に刑事罰なので監督署だけでは対応しきれないのに対し、派遣許可の取り消しや業務停止命令は行政罰で、命令を出しやすいことも関係しています。)なので、警戒する会社は警戒するはずです。

じゃあ、1年以上3年未満の労働者への実施も義務にすれば良かったのかといえばそんなことはなく、今度は派遣期間を1年未満にする会社が出てくるだけなので、派遣期間にかかわらず、あくまで努力義務にとどめておくか、こんな規定作らなければ良かったのです。

なんというか、労働者派遣法の5年ルールと言い、相変わらず凝りないなあ、というのがわたしの感想です。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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