就業規則

共謀罪って会社や労務管理に関係あるの? 就業規則や労働契約は? という話

2017年6月16日

世間の話題には無理矢理にでも乗っかってネタにしていく名古屋の社労士、川嶋です。

共謀罪を含んだ改正組織犯罪処罰法の法案が通ったことで、大手メディアと左翼は阿鼻叫喚しておりますが、さてさて、これによる会社や労務への影響はあるのでしょうか。

結論から言うと、ないことはないけど可能性は相当に低いと思って間違いありません。

まず、「ないことはない」の方から説明すると、共謀罪の成立要件となる法違反・犯罪行為に実は労働基準法等、いくつかの労働法が含まれています。

共謀罪の取り締まり対象となる犯罪は以下の5類型に分類され、

  1. テロの実行
  2. 薬物
  3. 人身に関する搾取
  4. その他資金源
  5. 司法妨害

上記のうち、労務に関係があるのは3の「人身に関する搾取」、会社に関係があるのは4の「その他資金源」となります。

 

1. 共謀罪の取り締まり対象となる労働法

共謀罪の取り締まり対象となる犯罪に労働基準法が含まれているという話をしましたが、労働基準法の全条文が共謀罪の取り締まり対象になるわけではありません。

というか、労働基準法で取り締まり対象となる条文は「強制労働の禁止」を定めた第5条だけです。

(強制労働の禁止)
第五条  使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

内容は読んでのとおりですが、労働者を強制労働させるのは「人身に関する搾取」に当たるということで取り締まり対象とされています。

そのほかの労働法で取り締まり対象となるのは職業安定法と労働者派遣法。以下はその条文です。

職業安定法

第六十三条  次の各号のいずれかに該当する者は、これを一年以上十年以下の懲役又は二十万円以上三百万円以下の罰金に処する。
一  暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者又はこれらに従事した者
二  公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者又はこれらに従事した者

労働者派遣法

第五十八条  公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者派遣をした者は、一年以上十年以下の懲役又は二十万円以上三百万円以下の罰金に処する。

内容は労基法と似てますね。暴力などによる強制労働は「人身に関する搾取」に当たるし、労働者にとって有害な業務をさせるのも「人身に関する搾取」に当たるので取り締まり対象。

 

2. 共謀罪の取り締まり対象となる会社関連の法律

では、会社に関係のある共謀罪の取り締まり対象は何かというと、税法や会社更生法、会社法などです。

法人税法であれば、偽りにより法人税を免れる行為、すなわち脱税は共謀罪の取り締まり対象ですし、会社更生法や破産法などで禁止されている「詐欺更正」や「詐欺破産」も取り締まり対象。

会社法でいえばいわゆる「総会屋」的な行為は共謀罪の取り締まり対象となります。

こちらの方はわたしの専門ではない法律ばかりなので、とりあえず関係ありそうな法律と対象条文の番号だけ以下に置いておきます。

  • 所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第二百三十八条第一項若しくは第三項若しくは第二百三十九条第一項(偽りにより所得税を免れる行為等)又は第二百四十条第一項(所得税の不納付)の罪
  • 法人税法(昭和四十年法律第三十四号)第百五十九条第一項又は第三項(偽りにより法人税を免れる行為等)の罪
  • 消費税法(昭和六十三年法律第百八号)第六十四条第一項又は第四項(偽りにより消費税を免れる行為等)の罪
  • 不正競争防止法第二十一条第一項から第三項まで(営業秘密の不正取得等)の罪
  • 民事再生法第二百五十五条(詐欺再生)又は第二百五十六条(特定の債権者に対する担保の供与等)の罪
  • 会社更生法第二百六十六条(詐欺更生)又は第二百六十七条(特定の債権者等に対する担保の供与等)の罪
  • 破産法第二百六十五条(詐欺破産)又は第二百六十六条(特定の債権者に対する担保の供与等)の罪
  • 会社法第九百六十三条から第九百六十六条まで(会社財産を危うくする行為、虚偽文書行使等、預合い、株式の超過発行)、第九百六十八条(株主等の権利の行使に関する贈収賄)又は第九百七十条第四項(株主等の権利の行使に関する利益の受供与等についての威迫行為)の罪

組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案(参照:法務省)

 

3. 取り締まり対象は「団体」。それも・・・

共謀罪について、意外と会社に関係のある法律がたくさんあって驚いた人も多いかもしれません。

しかし、冒頭でわたしは「可能性は相当に低い」とも述べました。

どうしてかというと、そもそもこの共謀罪が規定されている組織犯罪処罰法の取り締まり対象に、ほとんどの人が当てはまらないからです。

組織犯罪処罰法を読むとわかりますが、この法律が取り締まり対象としているのは「団体」です。

団体って何よ、バスツアーの団体様ご一行も取り締まり対象なの? というと、そんなバカげたことはありません。

この法律でいう団体とは以下のように、

(定義)
第二条  この法律において「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われるものをいう。

共同の目的を持って、その目的のための行為を反復して行う集団をこの法律では「団体」として定義しています。

当然こうした「団体」自体は取り締まり対象ではありませんし、そんなこといったら世の中の会社は全部「団体」です。

では、共謀罪の取り締まり対象となりうる「団体」とは何かといえば、「犯罪」を目的とした「団体」です。

共謀罪による巻き込まれ逮捕を心配している人はなにかしらの「犯罪団体」に入っているんですか?

だとしたら、お近づきにはなりたくないですねー。

 

4. 就業規則や労働契約への影響は?

最後に、共謀罪によって就業規則や労働契約で何か変更しないといけないことがあるか、という話ですが、ここまで読んでいただいた方ならわかると思いますが、基本的には何もありません。

仮にの仮にで、あなたの会社が「犯罪団体」だったとしても、就業規則や労働契約で何書いたって免罪されることはないですし。

また「犯罪団体」ではない会社内で何を話したって(例えば、会社業績が悪いので脱税しようみたいなことを言ったって)共謀罪になることもありませんが、そうした犯罪的言動が社内で行われること自体には負の効果しかないので、そのあたりは服務規程等できちんと抑制した方が良いとは思いますが。

最後の最後に法務省が出している共謀罪になるケース・ならないケースのまとめを貼って、今日は終わりです。

組織的な犯罪の共謀罪か~対象となり得るケース・ならないケース~(リンク先PDF 参照:法務省)

 

今日のあとがき

えん罪が起こりうる、あるいは政権の意思で気に入らないやつを逮捕できる、というのがこの改正法の主な懸念事項だと思います。

わたしも、そんなこと絶対ないよ、と言いきれるほど警察や政権を信用しているわけえではないですが、えん罪は別に共謀罪だけの問題ではないし(最近話題なのはテロのえん罪より痴漢えん罪だし)、例え政権の意思で特定の人物を逮捕できても、それを裁く司法は三権分立により独立しているわけですよ。

テロ準備罪なんかなくても日本は大丈夫、というのはあまりにも平和ボケすぎると思うけど、一方でえん罪や政権の暴走を懸念するなら、えん罪を防止するにはどういった制度を構築すればいいかとか、司法の独立を確保するにはどうすればいいか、みたいなことを考えた方が建設的だと思うのですがどうなのでしょう。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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