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入社祝い金や入社支度金の返金は可能か? 入社祝い金の正しい支払い方とは?

2017年4月27日

求人情報誌など見ていると、入社支度金や入社祝い金などを支払う会社というのが少なからずあります。

人手不足の時代ということもあり、お金を払ってでも人を呼びたいというところもあれば、不人気業種でそうでもしないと人が集まらないなど、理由はそれぞれあるのでしょう。

ただ、中には祝い金だけもらってさっさと辞めてしまう労働者も中にはいるようです。

入社祝い金だけもらって、ほとんど働かずに辞めるなんて詐欺じゃないか、と思うかもしれません。

一方、労働者からすると、一瞬とはいえ籍を置いた以上、入社したと考えられるのだからもらうのは当然だし、返すギリもないと思うでしょう。

さて、こうした場合、会社は祝い金を労働者から返してもらうことはできるのでしょうか?

 

1. あらかじめ賠償の金額を決めるのは禁止

結論から先に言うと、これは無理、返金させることはほぼできないと考えてください。

理由は、労働基準法第16条にあります。

(賠償予定の禁止)
第十六条  使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

労働基準法第16条では、労働契約の不履行、つまり、契約を守らなかったことについて○○円払え、みたいな契約はしてはならならないと定められています。

要するに、会社を辞めるなら100万払え、みたいな契約は労働基準法違反なのです。

 

2. 「入社祝い金を返せ」は「○○円払え」といってるのと同じ

入社祝い金の場合はどうでしょうか。

例えば、入社祝い金として入社した時点で、即金で3万円払う会社があったとします。

しかし、その労働者は3万円もらって即とんずら。

この場合に、3万円返せと要求するのは、「会社を辞めたら3万円払え」といってるのと同じなのです。

なので、入社祝い金の返金させることは、労働基準法第16条違反となるわけです。

 

3. あらかじめ賠償の金額を決めない損害賠償請求はOK、だが・・・

ただし、労働基準法第16条では、労働者に「損害に応じた賠償金を支払わせること」まで禁止しているわけではありません。

つまり、あらかじめ「こういうことがあったら100万円払え」みたいな契約はダメだけど、労働者に非のある損害を会社が被った場合に「損害賠償を請求することがある」と金額を明記せずに規定するのはOKなのです。

賠償「額」をあらかじめ決めるのがアウトな点に注意が必要です。

なので、入社祝い金について「退社したら返金を求めることがある」とすることはできなくもありませんが、しかし、損害賠償というのは、その損害に見合ったものである必要があります。

で、入って間もない労働者がすぐに辞めたときに会社が受ける損害がそんなに大きいかというと、正直そうでもないというのが現実かと思われるので、いずれにせよ、入社祝い金を全額ないし一部返金させることは現実的ではないと言えるでしょう。

 

4. 必ずしも入社と同時に支払う必要はない

入社祝い金や入社支度金というのは、法的に何の定めのない会社の裁量によって支払われるお金です。

つまり、支払い方や金額については基本的に会社が自由に決められるわけです。

言い換えれば、いくら名目が入社祝い金や入社支度金となっていても、入社即支払わなければならない、というものでもありません(もちろん、謳っている以上は支払わないというわけにはいきませんが)。

むしろ、入社即支払いとすると、もらって即とんずらというリスクがあるので、現実的には一定の期間の勤務を条件としたほうが問題は少ないのでは、と思います。

 

今日のあとがき

入社祝い金のような制度に限らず、インセンティブって、制度の設計意図通りになるとは限りません。

今回の記事のように、入社祝い金をもらうだけもらって辞めるみたいなことって、良くあるとは言わないまでも、他でも全然起こりうる話です。

そういうときに重要なのは、意図通りにいかなかったことに怒って、相手を非難するのではなく、意図通りにいく制度設計をやり直すことだと思うんですね。

制度に問題がある以上、その制度では意図通りにいかないことは今後も起こりうるわけですから。

雇用保険の給付制度は意図しない給付が起こりやすいため、労災や健康保険と比べると割と頻繁に変更が行われていますが、良いあんばいを探すとなると、それも仕方ないのかもしれません。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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