就業規則の作成でよく言われるのは「なるべく簡潔な物してほしい」というもの。
あまり内容盛りだくさんでページも分厚いと、そもそも読む気がなくなるので、気持ちはわかります。
なので、わたしが就業規則を作成する際は、お客様の会社の規模や業種に合わせて、規定を取捨選択するようにはしてますが、それでも、労使間での争いが増加傾向にある昨今では、ある程度の文量になるのは避けられません。
そうした「簡潔にしたい」という要望に関しては、それほど問題ではないのですが、就業規則なんて「簡潔でいい」という考えの方も中にはいます。
わざと規定等を曖昧にしたり、余計なことを書かないことで、後々、問題が起こったときに規則に縛られずにその解決を行おうというわけです。
1. 就業規則にも適用される罪刑法定主義
しかし、現実は会社が思ったようにいくとは限りません。
会社が労働者と争いになったとき、労働者は監督署、ユニオン、弁護士などに頼ることが多いですが、仮にそうした相手と交渉や裁判になったとき、曖昧で余計なこと(と思っている本当は必要なこと)が書かれていない就業規則は役に立たないからです。
なぜなら、就業規則は会社内で法令に準じた効力を持ちます。
そのため、法令の諸原則も適用されるからです。
その代表的なものが「罪刑法定主義」で、こちらは規則や法令に根拠がないと懲戒や刑罰を与えることはできないというものです。
2. 懲戒には具体的な規定が必要
罪刑法定主義のわかりやすい例が「よど号ハイジャック事件」で、事件が起こった当時、ハイジャック行為を直接取り締まる法律はありませんでした。
そのため、事件で逮捕された実行犯は別の法違反で逮捕・刑罰を受けています。
よって、就業規則の場合も「セクハラしたら解雇」としたいのであればそうした規定が必要となります。
逆に、懲戒規定に「会社に何らかの損害を与えたら懲戒」みたいなものは認められないわけです。
もちろん、規定さえ入れれば何でも会社の思い通りになるというわけではありません。内容の客観的合理性や刑罰の相当性なども問われはしますが、まったく規定がなかったり具体性がなかったりでは話になりません。
また、全ての懲戒事由をあらかじめ入れ込んでおくことは現実的には不可能ですが、考えられるものをなるべく入れ込むことで、その他のような形で「会社に何らかの損害を与えた場合」のような規定を入れても、効力を持つようになります。
3. 直接、懲戒に結びつく規定ではなくても
そもそも、就業規則は懲戒規定以外の規定もあり、そうした規定には罪刑法定主義は関係ないように思えます。
しかし、昨日の転勤などはその典型ですが、規則に根拠がないと難しい業務命令や法律上必ず入れないといけない規定などもあるので、あまり簡潔にしすぎてしまうとそれらまで省いてしまうことが考えられます。
今日のあとがき
上記で書いたことと矛盾するように聞こえるかもしれませんが、就業規則は分厚くすればいいというものでもありません。
守れなければ、結局紙切れになるだけだからです。
なので、厚くするところ薄くするところ見極め、バランスを取ることが大事になります。
就業規則の作成に関してはこんなページもあるので、合わせて読んでいただけるとありがたいです。