2月22日に、厚生労働省の研究会から「転勤する社員への配慮を企業に求める報告書の案(たたき台)」が出ています。
報告書とりまとめに向けてのたたき台(リンク先PDF 参照:厚生労働省)
こちらは法改正をにらんだものではなくあくまで目安として作成されるものですが、こういったものを国が作ると、それに合わせないと、と思う人がいるのでよくこういったものが作成されます。
繰り返しますが、法改正を含むものではないので、どのような報告書が出てきても、判例や法律の範囲内での転勤等であれば、それに従う必要はありません。
ちょっと意地悪な言い方をしてますが、報告書の内容にそれだけ不満があるということです。
まあ、ただ、今回はその辺は置いておいて、では、判例や法律上の正しい「転勤」とはどういったものをいうのかについて。
この記事の目次
1. 大前提として会社の配転命令権は強く認められている
まず、大前提として、日本では使用者側の配転命令が強く認められています。
これは日本の法律では解雇が非常に難しいため、一度雇った従業員はほぼずっと抱え込まないといけないためで、その代わり、配転命令権は強く認められているわけです。
雇った従業員は解雇することなく会社内で回すことを前提として、言い換えれば、解雇規制の強さと引き替えに配転命令に関しては強い権限が認められているわけです。
ちなみに、わたしの報告書への不満というのは、そうしたことについて一切触れてない点です。
とはいえ、権限が強く認められていると言っても、度が過ぎればどんな権利も濫用とみなされます。
では、権利の濫用とみなされる命令とそうでない命令の違いとはなんでしょうか。
2. 権利の濫用とみなされないためには「業務上の必要性」が必要
まず配転命令には「業務上の必要性」が必要です。
つまり、この配転命令には業務上の「理由」や「根拠」が必要なわけです。
基本的には理由なく配転命令を出すことはないので、何かしらの理由はあるはずです。
また、根拠については、就業規則または労働契約に、転勤させる旨を定めておく必要があります。
よって、限定正社員のように、転勤をしないことが労働条件に初めから含まれている場合は、会社側に転勤を命令する根拠は否定されることになります。
3. 「不当な目的や動機」による配転はNG
問題となるのは「不当な目的や動機」による配転・転勤です。
わかりやすい例が追い出し部屋で、こうした辞めさせることを目的とした配転・転勤は「不当な目的や動機」にあたります。
他にも、退職勧奨を拒否した労働者に対する転勤など、嫌がらせ目的の転勤も「不当な目的や動機」に当たります。
また、労働者側から見たら「不当な目的や動機」の転勤でも、会社側から見たら「業務上の必要性」のある転勤、ということもありえます。
そうなってしまうと労使間での争いの元のため、会社側としては「業務上の必要性」の根拠の部分をしっかり固めておくのが望ましいでしょう。
4. 労働者側の不利益が大きすぎる場合もNG
もう一つ、会社側が権利の濫用とみなされるケースがあり、それは転勤によって労働者に「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」がある場合です。
転勤、それも住居の移動を伴うような転勤の場合、住み慣れた土地を離れる、単身赴任となり家族と暮らせなくなるなどの不利益が発生します。
しかし、日本の判例では、単身赴任程度では「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」とはみなされません。
特に単身赴任手当や家族に会うための交通費等がきちんとでているのであれば、著しい不利益と呼ぶには無理があるでしょう。
逆に、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」とみなされるのは、例えば、重病の子どもを看護している、親の介護をしないといけない、などの労働者側にどうしても転勤に応じられない家庭の事情がある場合。
なので、いくら権限があるとは言っても、そうした家庭の事情をまったく考慮せずに転勤を命令するのはまずいわけです。
以上です。
今後、同一労働同一賃金の議論が深まるとより明確となるはずですが、転勤可能の有無というのは、日本型の同一労働同一賃金では、賃金等に差を付ける明確な差になってきます。
簡単に言ってしまえば、同じ仕事をしている正社員あるいは限定正社員、パート・アルバイトで、給与に差があるのは転勤可能の有無に違いがあるから、というわけです。
なので、会社としては労働者と契約を結ぶ際に、転勤可能の有無についてきちんと定めておいたほうがいいでしょう。
今日のあとがき
今日のエントリーは、ギリギリまでネタに困ってて、ブログ書けない残業になるところでした。
まあ、個人事業主なので残業って何だ、って話なんですが。