労働者派遣法の改正

2015年改正予定の労働者派遣法では規制は強化されている

2014年10月20日

一度、非常にマヌケな形で廃案となった改正労働者派遣法ですが、臨時国会に再び提出されたので、改正点を一つ一つ見ながら解説していきましょう。

なぜか今回の改正を非正規労働者の増加」とか「規制の緩和」などとトンチンカンなことを言っている人達がいるので、その観点をより重点的に見ていきます。

 

0.1. 2015年改正予定の労働者派遣法の要点

① 特定派遣の廃止

規制は強化されている。一般と特定の区別をなくし、適法な人材派遣は一般派遣のみとなるが、届出だけで営業することができた特定派遣と異なり、一般派遣を行うには財産要件等を満たした上で厚労省の許可が必要だからだ。

よって、財産要件を満たせず一般派遣の許可を取れない特定派遣業者は、3年の経過措置終了後、廃業を余儀なくされ、人材派遣を生業とする会社は間違いなく減少する。(特定派遣についてはこちらの記事も:特定派遣が廃止されることの意味

 

② 「同一業務3年」という制限を撤廃し、「同一労働者3年」という制限を導入

企業にとっては規制の緩和である。派遣法に詳しくない人には両者の違いがよくわからないかもしれないが、詳しく解説していると記事が長くなるので、過去の当ブログ記事を読んでいただきたい(労働者派遣法改正案について)。

「同一業務3年」の場合、派遣期間が3年経つと、派遣先は派遣労働者を受け入れられず、派遣元は派遣労働者を派遣できず、派遣労働者も派遣先で働くことができないという、誰も得しない状況が生まれていた。

しかし、今回の改正で派遣先の労働組合が「うん」といえば、派遣元と派遣先のあいだでいくらでもその期間を延長できるようになった。一方、労働者の派遣期間は3年が最大とされてしまったので、3年経過後の派遣先への直接雇用が殆ど行われていない現状を考えると労働者だけが損をする改正となった。といっても、派遣労働者の置かれている状況自体は改正前とほとんど変わらず、損と言っても相対的なものである。また、派遣元が以下の措置(③)をとる場合は事情が少し異なる。

 

③ 派遣元に無期雇用される者は派遣期間も無期にできる

派遣元に有期で雇用されている派遣労働者は、現行でも改正後でも派遣先への派遣期間は最大で3年であるが、派遣元と無期雇用の契約を結んでいる派遣労働者については、同一の派遣先でも期間の定めなく派遣され続けることができるようになった。この場合、派遣労働者と言う名称ではあっても、派遣元で無期雇用されているので派遣労働者は簡単に解雇されることはない(というか、できない)。

よって、派遣期間だけを見れば規制は緩和されたと言えるが、派遣先は3年でいなくなる人材よりも無期限で派遣してもらえる人材をより求めるであろうことは想像に難くなく、人材派遣会社からすれば無期雇用分の労働契約コストがかかるぶん、規制は強化されたともいえる。

 

④ 専門26業種(※)の撤廃

撤廃してなくなるのだから規制は緩和された、というのは早計で、実際にはこれまで3年の制限なく働くことのできなた専門26業務の派遣労働者も、今後は3年の制限のもと働くことを余儀なくされるので、実質的には規制は強化されたといえる。

※ 専門26業務
1)ソフトウェア開発 2)機械設計 3)放送機器等操作 4)放送番組等演出 5)事務用機器操作 6)通訳・翻訳・速記 7)秘書 8)ファイリング 9)調査 10)財務処理 11)取引文書作成 12)デモンストレーション 13)添乗 14)建築物清掃 15)建築設備運転・点検・整備 16)案内・受付・駐車場管理等 17)研究開発 18)事業の実施体制等の企画・立案 19)書籍等の制作・編集 20)広告デザイン 21)インテリアコーディネーター 22)アナウンサー 23)OAインストラクション 24)テレマーケティングの営業 25)セールスエンジニアリングの営業 26)放送番組等における大道具・小道具

 

0.2. 今回の派遣法改正の本質

ここまで読んでいただければわかるように、今回の派遣法の改正は単純に規制緩和を推し進めた改正ではありません。むしろ、規制は強化されており、①③を見てもわかるとおり、その本質は一般派遣の許可を取れるだけの財政基盤と、自社で派遣労働者を無期雇用出来るだけの経営体力を持つ大手人材派遣会社への利益誘導なのです。

今回の改正で、特定派遣として働いていた派遣労働者の多くは職を失うでしょう。専門26業務の業務についていた派遣労働者も同様です。しかし、それは「規制の緩和によって雇用が不安定になる」という左翼がいつも描くシナリオの結果ではなく、左翼の大好きな「規制の強化」によって労働者が労働市場から締め出されての結果なのです。

このように改正派遣法の本質も理解せず、派遣法が改正されるという事実だけを捕まえて自分たち好みのシナリオを展開する左翼系メディアに、わたしは労働問題など語ってほしくありません。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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