※ 10月13日追記:この記事で言う派遣は、基本的にに常用型派遣であり、登録型派遣ではありません。ご了承ください。
「ブラック企業」がますます横行? 労働者派遣法改正「3年制限撤廃」で何が変わるか
派遣についてはこのブログでも何度か触れていますが、今回ヤフトピに上がっていたこの記事が結構酷いので日曜の夜にブログを書き書き。
やっぱりと言うか、この記事でも派遣労働批判の殺し文句、派遣は「いつでも切れる」が当たり前のように使われていますが、労働者をいつでも切れるのはあくまで派遣先。
逆に、労働者と労働契約を結んでいる派遣元が労働者を簡単に切ることができるなんてのは、これだけ解雇が難しいと言われている今の日本ではありえない話なのですが、この記事では
契約上、雇用責任を負っている派遣元も、派遣先から切られたことを理由にして首切りを正当化します。派遣切りについて裁判が各地で起こされましたが、労働者側を勝たせる裁判所はほとんどありません。
と述べています。
そんなバカな、な話ですが、実はこの文章、完全に印象操作しようという意図が感じられます。
1. 人材派遣会社の解雇だろうと解雇は解雇
なぜなら、この文章の
契約上、雇用責任を負っている派遣元も、派遣先から切られたことを理由にして首切りを正当化します。
という前半部分と、
派遣切りについて裁判が各地で起こされましたが、労働者側を勝たせる裁判所はほとんどありません。
という後半部分は、本来は切り離して考える必要があるからです。
まず、先程述べたように、派遣元が労働者を簡単に解雇できません。たとえ、派遣先から切られたという理由があったにしても、会社は次の派遣先を探すなどの営業努力をしなければなりませんし、会社都合で労働者を派遣させることができないなら休業手当なども支払わないといけません。シーテック事件を見ても分かる通り、整理解雇の四要件は人材派遣会社にだってきっちり適用されます。
1.1. 派遣先と派遣労働者の間に労働契約は成立しているか
一方、文章後半部分の派遣切り、つまり派遣先が派遣労働者を切った場合の裁判というのは、その多くが派遣労働者側の負けで終わっているので間違いありません。
ちなみに、派遣切りの際の労働者側が行う主張の多くは、派遣先からの指揮命令で長い間働いていたんだから黙示の労働契約が結ばれていたといえるはずだ、だから派遣先の正社員にしろというものです。
しかし、こうした主張はこれまでのところあまり認められてきませんでした。というのも、労働契約というのは、労働者と使用者の間に「使用従属関係」あり、さらに「賃金の支払い」がないといけないからです。
民法第623条
雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
派遣先の指揮命令下にある以上、派遣先と派遣労働者の間に使用従属関係があるのは明白ですが、派遣労働者の賃金を支払っているのが派遣元である以上、法律上、派遣先と派遣労働者の間に労働契約があるとはなかなか言えないようです。
派遣の本質を理解せよ
最初に印象操作、と言ったのは、2つの文章を続けて読むと、まるで派遣元が労働者を解雇した裁判でも労働者側が勝てないと言っているように思えるからです。しかし、そんなわけがないことはお分かりいただけたと思います。
そもそもこの記事は労働者側の弁護士グループ「日本労働弁護団」の弁護士の先生のインタビューを元にしており、かなり見方が偏っていますね。
この記事で繰り返し批判されている「派遣切り」とは、解雇というよりは通常の商取引で言う「キャンセル」にあたる行為に近いのですが、それを人の感情に訴えて、とにかく派遣先(殆どの場合、大企業)を悪者にしたいという意図なのか意思なのかわかりませんが、とにかくそういったものを感じます。
例えば、労働契約を結んでいる派遣元は簡単に解雇もできなければ、就業場所を確保する義務もあり、派遣元に労働者の雇用を維持する責任があるのは明白なのに、「派遣労働とは、労働者の雇用について、だれも責任を取らないという制度」と述べた後に、「派遣先は、いつでも簡単に派遣を切ることができます」、なんて続けるところなんかも結構エグい。
日曜の夜に書き始めた文章がいつの間にか日曜の深夜になっているのでここらで切りをつけたいのですが、以前にも述べたように派遣の本質は雇用契約のアウトソーシングであり、なぜ雇用契約をアウトソーシングしないといけないかといえば、アウトソーシングしなければならないほど、正社員の雇用契約が高額だから。
別に、私は今回の改正がすごくいいものだとも、改悪だとも思ってませんが、この辺の構造に手を付けない限り派遣労働や他の非正規雇用がなくなることがないということだけは確かです。