今週頭から書こう書こうと思ってた件について。
現在、収賄容疑にかけられている、美濃加茂市の前市長である藤井浩人市が出直し選挙で再選しました。
収賄容疑に関しては1審で無罪、2審で有罪となっていて、現在上告中とはいえ有罪判決の出ている人が市長選挙で勝つというのは快挙と言えるでしょう。
上告中とはいえ有罪判決を受けた人が市長になれることに違和感を感じる人もいるかもしれませんが、「推定無罪」という近代法の原則により、法律上は、刑が確定するまでは犯罪者として取り扱われないことになっています。
そのため、選挙に出ることもできるし、当選すれば職務に就くこともできるわけです。
この記事の目次
1. 推定無罪のはずなのに「逮捕=犯罪者」?
ただ、日本ではこの「推定無罪」という原則、法律上はともかく世間一般的にはあまり浸透していないような気がします。
逮捕されたらその人はイコールで犯罪者という風潮が非常に強いからです。
その代表的な例が「逮捕=犯罪者」かのような報道で、直近で言えば覚醒剤所持容疑で不起訴で釈放されたASUKA氏の件なんかを思い返してみればわかるでしょう。
こうした風潮は日本の刑事裁判の有罪率が9割を超えていることにより、逮捕されて裁判になって無罪だった、ということがほとんど起きないことが一因にあるのでしょう。
実はその一方で、起訴率となると話は大きく変わります。
2. 実は高い不起訴率
通常、犯罪が起きて被疑者が逮捕された場合、
逮捕→起訴→裁判で判決
という、流れで刑が確定するわけですが、確かに「起訴→裁判」で見た場合、有罪率は9割を超えています(ほぼ99%らしいです)。
しかし、「逮捕→起訴」となると話は全然違って、実はこちらの弁護士さんのサイトによると、以下のようになっています。
強盗の不起訴率:26%
傷害の不起訴率:35%
暴行の不起訴率:53%
窃盗の不起訴率:36%
詐欺の不起訴率:33%
恐喝の不起訴率:36%
横領の不起訴率:32%
強姦の不起訴率:43%
強制わいせつの不起訴率:40%
公然わいせつの不起訴率:20%
覚せい剤取締法の不起訴率:17%
大麻取締法の不起訴率:37%
売春防止法の不起訴率:37%
犯罪によってバラツキはあるものの、9割なんてとてもとても、という数字が出ています。
どうしてこのようなことになっているかと言えば、ひとつには親告罪の場合、示談が成立して告訴が取り消されることがあるから。もう一つは、検察が有罪にできる件しか起訴しないから、というのがあります。
なので、不起訴がイコールで無罪というわけではないですが、こうした数字を見ると必ずしも「逮捕=犯罪者」という式が当てはまらないのは確かでしょう。
3. 従業員逮捕、即解雇は危険
前置きが長くなりましたが、では、例えば、自社の社員が何らかの理由で逮捕された場合、会社はその労働者を即解雇しても問題ないのでしょうか?
ここまで読んだ方で「問題ない」と言い切れる人ばかりだったら、上の前置きはいらないに等しいですが(笑)、社内での犯罪で証拠も明らかという場合でもない限り、問題ないわけがありません。
逮捕だけを理由に解雇することは、推定無罪の原則から大きく外れますし、仮に不起訴処分や無罪判決が出た場合、解雇事由そのものがなくなってしまうので、会社がその解雇の有効性を主張することは不可能でしょう。
経営者の方で「従業員が逮捕」と聞いて反射的に解雇したい気持ちに駆られたとしても、一呼吸おいて落ち着いて考える必要があります。
4. 現実的な手段は休職と退職勧奨
では、どうすれば良いのか。
現実的な解決策は「休職」と「退職勧奨」です。
逮捕された場合、最長で22日間、留置場に留置され警察や検察の取り調べを受けることになります。
この間については、留置場から出られないわけですから「休職」させることに特に問題はないので、起訴か不起訴か決まるまでは休職とすべきでしょう。(もちろん、休職には就業規則に規程が必要です)
また、面接が可能であれば、この間に「退職勧奨」することもできます。
不起訴の場合、会社からするとしこりは残るかもしれませんが、以前と同様に働かせることになります。
5. 起訴休職の3要件
一方、起訴された場合、拘置所に拘留される場合と保釈される場合があります。
起訴を理由とする休職を「起訴休職」といいますが、前者の場合は休職継続で問題はないでしょう。いくら働くといっても体が外に出られないわけですから。
一方、後者の場合、シャバに出てくることになるので、働くことも可能となります。
推定無罪の観点からいえば、働かせることはある意味当然のことといえますが、しかし、会社としてはあまり良い気分でないのも確かです。
実はこのような場合に起訴休職させるには、以下の3つの要件のうち、少なくとも1つが必要となります。
- 対外的信用の維持に必要かどうか
- 対内的な職場秩序の維持に必要かどうか
- 労務提供の継続性に不安があるかどうか
1はその人を働かせることで、会社の社会的な信用に傷が付くような場合。
2はその人を働かせることで、他の従業員への影響が大きく、業務が回らない可能性がある場合。
3は主に拘留された場合なので、すでに説明済みですね。
6. 休職が実質的な懲戒処分となる場合は×
上記の要件に加えて、懲戒処分との妥当性も比較対象となります。
どういうことかというと、例えば、有罪が確定してもせいぜい10日の出勤停止処分、というような案件なのに、何ヶ月も休職処分にする、というのは、推定無罪の観点からも破綻してますし待遇の公平性に欠く、というわけです。
そもそも、保釈中や無罪判決後の起訴休職に関しては、裁判所は否定的であることは覚えておいた方が良いでしょう。
なので、起訴休職に関していうと、3の要件を主に考えることが、結果的には丸くいくのではないでしょうか。
7. 退職勧奨について
最後に、退職勧奨についてですが、こちらは通常の退職勧奨と気をつけるべき点は同じですね。
決して強要したりとか、パワハラ的な態度で臨まないのが一点。
そもそもそんなことしなくても、やったかやってないかは本人が一番よくわかっているはずです。
そうした中で、有罪判決が出た際に懲戒解雇が免れないような場合、現実にそうなると(あるのなら)退職金も出ない可能性が高い。
でも、退職勧奨に従って、自己都合退職や普通解雇になれば、通常通り退職金がでたり、あるいは解雇予告手当ももらえるかもしれない。
そういったところを突いて交渉していけば、退職勧奨という選択肢も通りやすくなるのではないでしょうか
追記:もちろん、相手が本当に「やっていれば」の話で、無罪の場合やそう相手が主張する場合は休職の説明のとおり慎重な対応が必要です。
今日のあとがき
今日の記事は久しぶりの2500字超え。
よくよく考えてみると、久しぶりに長文書きました(汗)。
だいたい500字を最低ラインに、1500を目安に記事を書いてますが、面倒なことは説明が増えるので、記事が長くなりますね(笑)。