少し前のビジネスメディア誠の派遣労働の記事がちょっと不完全なものだったのでお節介にもちょっと補足。
1. 特定派遣と一般派遣
今回の派遣法改正で、特定派遣が廃止されることが予定されています。
特定派遣とは、派遣元企業で直接雇用されている労働者を派遣先に派遣する派遣形態です。特定派遣を行う場合、会社は国にきちんと届出をしないといけません。
一般に派遣労働というと、労働者が派遣会社に派遣登録を行う登録型派遣がよく知られていますが、こうした派遣形態は特定派遣とは区別され、一般派遣と呼ばれます。一般派遣事業を行う場合、国からの許可がないとできないので、届出だけでいい特定派遣よりも当然ハードルは高くなります。一般派遣の許可基準には、以下のように資産要件があるからなおさらです。
- 資産(繰延資産及び営業権を除く。)の総額から負債の総額を控除した額(以下「基準資産額」という。)が 2,000 万円に当該事業主が一般労働者派遣事業を行う(ことを予定する)事業所の数を乗じた額以上であること。
- 1の基準資産額が、負債の総額の7分の1以上であること。
- 事業資金として自己名義の現金・預金の額が 1,500 万円に当該事業主が一般労働者派遣事業を行う(ことを予定する)事業所の数を乗じた額以上であること。
1.1. 一般派遣は特定派遣業務も可能
よく勘違いされますが、一般派遣と特定派遣は対になる言葉ではありません。
なぜなら、一般派遣の場合は特定派遣のように、派遣元で直接雇用している労働者を派遣することができますが、特定派遣では一般派遣のように登録型派遣はできないからです。
つまり、一般派遣でできることを一部に特定しているのが特定派遣なわけです。一般相対性理論と特殊相対性理論の関係と同じですね、って、そっちのほうがわからないって方はググってください。(※)
こうした両者の違いにより、一般派遣を持っている企業は、比較的規模の大きい派遣業専業の会社が多いのに対し、特定派遣を持つ会社は他に会社規模の小さく、また他に本業があることが多くなっています。例えば、このあいだ記事にしたIT企業なんかも自社でITの業務を請け負う傍ら、自社の社員を他の会社に(違法な形だったので、事業停止命令が出ましたが)派遣していました。
こうした傾向は厚労省が出している統計データからも読み取れます。一般派遣の事業所数のほうが特定派遣の事業所数の半分にも満たないのに、派遣労働者の数では一般派遣の方が特定派遣の3倍以上になっています。
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※ 厳密に言えば、一般派遣と特定派遣は派遣法内では区別されています。ただ、一般派遣の許可で特定派遣もできるので、わかりやすくこのような表現を取りました(10/20追記)。
1.2. 特定派遣が廃止されると・・・
さて、ここまで読んでいただければお分かりいただけますよね? 特定派遣を廃止することの意味が。
現在、特定派遣事業を行なっている会社でも、一般派遣の許可をとれるくらいの規模の会社であるなら、今後も人材派遣を行うことは可能です。しかし、そうではない特定派遣を持つ会社は、今後、人材派遣業務を行うことができなくなります。
つまり、ライバルの減る大手の派遣会社、例えば、ビジネスメディア誠の記事でインタビューに答えているような大手人材派遣の社長の立場からすると、今回の派遣法改正は非常に美味しいビジネスチャンスとなります。一方、そうではない、特定派遣しか行えない小さな会社からすると貴重な収入源を失うことを意味するわけです。
うちの顧問先には特定派遣を持っているところも一般派遣を持っているところもあるので、こんなお節介なことしておきながら、実はコメントが非常に難しいのですが、ただ、あまりに物事の片面しか伝えていない記事だと思ったので、ビジネスメディア誠、それでいいのか、と思って、今回こうしてブログの記事にしました。
ちなみに今回の派遣法改正の目玉とされている「3年ルール撤廃」については、過去に記事しているのでそちらもご参照いただければと思います。
では、今回はこんなところです。