「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会報告書が厚労省から発表されました。多様な正社員ってのはいわゆる限定正社員のことですね。
報告書の中身は、要は、限定正社員の導入に関して、すでに導入している企業の先例などをもとに、導入時の注意点等を労働法の偉い学者さんたちがまとめたもので、簡単にまとめると「限定正社員ってこういうものですよ、こういう問題点があるし、こういうところに気をつけて欲しいけど、導入してみたらどう?」みたいなことが書いてあります。
限定正社員を導入してみたら、と言われても企業にとっても労働者にとっても魅力がなければ導入される余地なんてそもそもないのですが、省庁ってこういう報告書を作るの好きですよね。限定正社員が本当にいいもので、導入すれば企業や労働者にとって利益がある、っていうんなら、こんな報告書にまとめなくても、各企業にコンサルティングとかして商売したほうが早いし普及すると思うんですがね。どうせ限定正社員の導入については、今後の労働法の改正を待つ必要もなければ、今のところ厚労省は労働法の改正を予定していない、つまり、現行法のままで十分企業は限定正社員を導入できるわけですから。
まあ、それはともかく。
この報告書、実は結構おかしな点があります。限定正社員の普及・拡大の目的として、正規と非正規で2極化している労働環境を改善して両者の中間的なものとして限定正社員を導入すべき、と謳っているのですが、その割にはどうしてそのように正規と非正規で2極化しているかに関しては全くのノータッチだからです。つまり、根本の原因に言及することなく、ただ単に対症療法的に限定正社員の普及・拡大の提言していると言えなくもない。(正規と非正規で2極化している理由については過去に散々ブログでも書いたので省略します)
また、ヨーロッパなどでは今回提言されたような限定正社員のような働き方をそもそも「正社員」と呼ぶのですが、そのへんのことも当然無視。その辺のことを無視しているって言うことは結局、労働法の学者がこれだけそろって同一労働同一賃金に手を付けずに、日本独特の正社員という制度にも手を付ける気もまるでない、と暗に述べているわけです。
提言とか言っておすすめしてきた割には、お節介の限度を超えて注意点のことで口うるさいのに、肝心なことには目を瞑っている、それが今回の(おそらくは厚労省の意に沿った)報告書の本質なのです。
肝心なこと全スルーの「限定正社員の普及・拡大の提言報告書」
2014年7月30日