労働者派遣

派遣労働の本質は雇用契約のアウトソーシング

2014年6月11日

前回に引き続き、派遣労働のお話。

1. 派遣業が存在する理由

そもそもの話をしてしまいますと、派遣労働、という業界・業務・業種というのはなぜ存在しているのでしょうか。

もちろん、お金になるから、儲かるから、そこに需要があるから、なのでしょうが、では、派遣労働のどのような要素に需要があるのでしょうか。

よく、派遣労働者のコストは安い、と言われますが、実際に派遣先の企業が支払う料金というのは、派遣労動者の手取り分に加えて派遣元への手数料が含まれているため、派遣労働者を雇う側からすると、言われているほど安くはありません。月々の給与と、派遣先に支払う料金を比較すると、自社で非正規を採用したほうが安いくらいです。

それでも、多くの企業が派遣労働者を求める、なぜでしょうか。

1.1. 厚労省は派遣労働の本質をわかっていない

派遣労働者と派遣先には、使用関係はあっても、雇用関係はありません。

前回の記事で触れた、労働者派遣制度の見直し案に関するQ&Aでも、この点については問題視されています。

労働者派遣事業は、労働市場に おいて労働力 の迅速・的確な需給調整という重要な役割を果たして い る 一方 で、派遣労働の雇用と使用が分離した形態であることによる 弊害 あり、それ を 防止することが適当で ある とされ ています 。 

しかし、問題視はされていても、どうしてこのように分離されてしまっているのか、そして、そうした状況に需要があるかに関しては、まったく触れられていません。

それは、彼らが派遣労働の本質をまったくわかっていないからでしょう。

そして、だからこそ、厚労省はことごとく派遣労働に関して無意味で現場を混乱させる法改正ばかりを繰り返すのです。

1.2. 派遣労働の本質

会社と労動者が契約を結ぶ、それだけで、会社は莫大なコストを抱えることになります。日本で労動者を解雇することは簡単ではないので、22歳の新卒で労動者を雇ったとすると、65歳までの43年間、労動者の申出以外ではよっぽどのことがない限り、延々雇い続けなければなりませんからね。(有期雇用の場合はまた別ですが、それも昨年の法改正で5年までに制限されました。)

それでも、果敢に労動者を解雇しようものなら、思わぬ訴訟リスクを負いかねません(関連リンク:本当に怖い解雇の話)

しかし、派遣労働の場合、派遣先である会社と派遣労働者のあいだに雇用関係はありません。

なので、派遣元と派遣先の契約次第とはいえ、少なくとも43年間分のコスト、というものを派遣先が考える必要ありません。

それを考えるのは派遣元、つまり、人材派遣会社の役目だからです。派遣元が派遣先に変わって労動者と労働契約を結び、労働契約を結んだ労動者を派遣先に派遣する・・・。

すなわち、人材派遣業の本質とは雇用契約のアウトソーシングなのです。

逆の見方をすれば、アウトソーシングしなければならないほど「雇用契約」というのはコストが高いということです。

この雇用契約のコストに手を付けないまま派遣労働法に手を加えても、派遣労働がなくなることはないでしょう。そして、そこに手を付けず、今回のような厚労省の思い込みや傲慢さの詰まった法改正で苦しむのは彼らが守りたいと思っている派遣労働者に他なりません。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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