労務管理

北風か太陽か、日本の労働環境からムダを省くための話

2014年5月15日

NewsWeek日本版の冷泉彰彦氏の下の記事を読みました。

日本経済の競争力回復のために「労働時間規制」は強化するべき

大筋の内容に関してはわたしも同意見で、現在の日本の職場環境には多くの無駄があることは間違いありません。

ただ、その結論が「労働時間規制の強化」というのがどうもなあ、という感じです。

いや、言いたいことはわからないでもないんですがね。

0.1. 規制を強化すればそれを誰もが守るのか

どうもなあ、と思ってしまうのは、「労働時間規制の強化」を行えば、無駄だらけの日本の職場環境が改善されるとは限らないとわたしは思うからです。

なぜなら、規制すれば、された側が守るというのはあまりにイノセントな考え方だからです。むしろ、規制の強化によって、それを守りきれない企業がそれを隠す、あるいは端から守らないという方向にインセンティブが働く可能性だってあります。

仮に「今までなんとかギリギリで法律を守れていたのに、法律が更に厳しくなったことでそれが守れなくなり、もう守らないという企業が出てくる」、としたら、それは法律によってブラック企業を生むことにほかならないのではないでしょうか。

また、記事の冒頭で、「ホワイトカラーエグゼンプション」や「残業手当ゼロ化」がそうした無駄を内包する要因になりうる、と考えているのにも同意できません。

少なくとも、生活残業等のお金のために残業する人間たちのインセンティブを奪うのは間違いないわけですから、その過程で無駄が省かれていく部分もあるでしょう。

確かに「ホワイトカラーエグゼンプション」や「残業手当ゼロ化」だけを現在の日本で成立させるのは悪手であり悪法化まちがいなしでしょう。しかし、それは現在の解雇規制がそのまま変わらない場合です。

労働市場が流動化するというのは市場の循環が早くなるということですから、労働環境の良い職場とそうでない職場で、求職者数や労働者の定着率にどんどん差が生まれていきます。当然、それによって立ち行かなくなる企業も出てくるため、労働法を順守するどころか、それ以上の条件を付けざるを得なくなるかもしれません。

つまり、労働市場がブラック企業や企業内に今もまだ内包される無駄を淘汰していくのです。

0.2. 「北風と太陽」と労働法改正の歴史

労働法の規制の強化によって日本の労働環境を改善するのか、あるいは逆に規制の緩和によってそれを達成するのか。まるで童話の「北風と太陽」のような話です。もちろん、「北風と太陽」のお話の結果になぞらえて何かを言う気はありません。どっちがいいかなんて言うまでもなくケース・バイ・ケースであり、普通はバランスを見ながらどちらも使います。

ただ、1つ言えるのは、今の労働法の規制は十分すぎるほど厳しいということです(そして、考え方も超古い)。そして、厳しく厳しくやってきた結果がどうだったか、今更説明するまでもない以上、今度は別のアプローチも必要なのではないか、とわたしは思うのです。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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