監督署の臨検調査

労働基準法と労働基準監督官の不幸な関係

2014年5月7日

仕事の関係で、ここ2ヶ月ほど労働基準監督署対応に追われていました。まだ終わったわけではありませんが、大きな山は超えたかなといったところ。

あ、全然関係ない話ですが、この「山を超える」っていう表現、って結構微妙な言い方だと思うんですよね。だって、山での遭難事故の殆どは下山中に起こるわけですから。だから、山を超えたからといって油断大敵、なわけです。

まあ、それはさておき、今回はその労働基準監督署のお話です。

 

0.1. 時代遅れの法律を愚直に守り続ける監督官たち

労働基準監督署の役割というのは色々とありますが、一般的に言えば、企業の労働基準法などの労働法違反を取り締まることでしょう。実際、監督署の監督官には労働法の事件に関して警察と同様の逮捕・送検する権限が与えられています。

しかし、労働事件の性質上、労働法に違反しているイコール逮捕・送検、ということは滅多にありません。労基法違反から労働者を守るにしても、性急に労基法違反者を逮捕した結果、その会社が潰れてしまってはそれこそ労働者は路頭に迷うことになりかねないからです。なので、まずは企業に立ち入り調査等を行い、指導を行ったり、是正勧告を出したりし、それに従わない悪質な場合には逮捕・送検を行うわけです。

しかし、彼ら監督官が企業に遵守を強いる労働基準法は非常に複雑な法律な上、現代の労働環境に当てはめるのに非常に無理がある点が多々あります。特に労働時間によって賃金を求めるという労働基準法の根幹とも言える部分は、多くのホワイトカラーにとって百害あって一利なし。

ホワイトカラーエグゼンプションに対するジレンマ
残業代があるから(隣の彼より優秀な)あなたの給与は上がらない

 

0.2. 監督官には現場の皮膚感覚が欠けている

では、労働基準監督官が、その無理・矛盾を鑑みて会社を調査するかといえばそんなことはまったくないわけです。彼らは労働法には詳しいかもしれませんが、民間の企業、特に経営者側から見る会社・企業というものに関する皮膚感覚が全くと言っていいほどないからです。

ここでいう皮膚感覚、というのは、例えば会社の人件費の総額は決まっている、みたいなことです。人件費の総額は決まっているのだから、違反状態にある状況を改善し例え法律通りに賃金を支払ったとしても、労働者側から見たら貰える賃金の額は、もらい方は変わるかもしれませんが、変わりません。そんなの経営者や人事労務に関わる人間からしたら当たり前のことなのですが、その辺が彼らはまったくわかってない。なんだったら、賃金というのは会社から絞れば絞るほど出てくるぐらいに思っていたりします。

そうした監督官たちが会社を調査すれば、経営者たちとぶつかることは必然の至り。世の中には勘違いしている人も多いですが、社労士が監督署対応を行うのは、企業に脱法行為を勧めるためではなく、そんな彼らの間に立ってそれを上手く折衝するためなわけです。

まあ、公務員の性とはいえ、こうした矛盾に満ちた法律を法律通りに守らなければならない監督官に多少の同情もしないことはないのですが、でも、わたしが相対した監督官はそんなこと気にしてる様子は全くなかったなあ。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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