「リストラ助成金(労働移動支援助成金)」で労働者をクビにできるか、もいよいよクライマックス。
基本的には前編・中編をすべて踏まえた上で話しを進めていくので、まだ読んでない方は下のリンクからお願いします。
0.1. 「解雇の自由化」がもたらすもの
識者のあいだではよく、「解雇を自由化し労働市場を流動化する必要がある」と言われたりします。労働者が自分の能力に合わない職務につき続けることは、労働者にとっても会社にとってもマイナスだからです。
しかし、現実には労働者は一度どこかの会社に就職してしまうと、他への転職はかなり難しい。新卒一括採用の影響で、転職すると多くの場合給与が下がってしまうし、なにより転職先がなかなかなかったりします。
なぜなら、日本では解雇が著しく難しいため、一度労働者を雇ってしまうと、労働者が辞めたいと言わない限り、どんなに会社がいらないと思っている相手でも解雇できないからです。そのため、人件費のことを考えると、不用意に労働者を雇うことができないばかりか、給与を上げることもできません。
そうした状況を打破するための方策が「解雇の自由化」というわけです。具体的には、金銭解雇を認め、現在の労働契約法16条のような曖昧な条文の割に判例がとんでもなく厳しいルールはやめよう、という話です。
会社に対してある程度の自由な範囲で解雇が認められれば、不的確・不要な人員の整理ができる一方、その穴を誰か他の労動者で埋める必要がでてくるため、会社が労動者を解雇すればするほど、求人は増えていく、という話です。当然ですが、会社にとって解雇は手段であって目的ではないので、「解雇すればするほど」などと書きましたが、まともな会社がまともな社員を解雇する、という状況は、どんなに解雇が簡単になったとしても通常考えられません。
とはいえ、こうした案に対しては反対の声も大きい。
現在大企業の正社員の労動者からしたら、自分たちの既得権益を脅かされるのだからわからなくもありませんが、今現在、非正規だったり学生だったりする人からも反対意見が多く聞こえるのは正直よくわかりません。まあ、それだけ「解雇」という言葉の響きの悪さの影響力が大きいということなのでしょうが。ただ、そうした不安に群がるポピュリスト的な連中に至っては商魂たくましいと言うほかありません。
0.2. 厚労省が抱える二律背反
実は政府もこうした解雇の自由化を進めようとはしていました。
昨年話題となった「解雇特区」です。
「解雇特区」では国が定める国家戦略特区内に限り労働法の基準を緩和し、「労働時間法制」や「解雇ルール緩和」を進めるはずでした。しかし、この解雇特区は世論の激しい反対もあり潰れてしまいました。
この解雇特区は昨年の6月に出された「日本再興戦略(リンク先pdf)」内の国家戦略特区を具体化したものですが、今回の労働移動支援助成金の拡大もまた、この「日本再興戦略」で打ち出されたものでした。
この労働移動支援助成金拡大の目的は「行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策転換」であり「失業なき労働移動の実現」が最終目標とされています。
つまり、目的自体は解雇の自由化と同じわけです。
そして、そうした助成金の拡大を進める厚労省は「労働市場を流動化する必要がある」こともわかっているわけです。にもかかわらずこれまで解雇の自由化に大して及び腰だったのは、解雇の自由化という劇薬には触れたくないし、なにより解雇によって正社員が減ってしまっては、正社員(労動者ではない)を守りたくて守りたくてしょうがない厚労省からしたら不都合極まりないからでしょう。正社員が減ってしまうと、彼らの収入源である社会保険料が減ってしまいますからね。
だから、「解雇特区」の逆風には知らん顔を決め込む一方、「労働市場の流動化」が至上命題である以上、リストラ助成金の拡大には反対しなかったわけです。
この労働移動支援助成金は「労働市場は流動化したいが正社員は減らしたくない」という厚労省のアンビバレンツな思いが含まれているわけですが、では、この労働支援助成金で労働市場の流動化は起こりえるのか、と言えば、それは前回の記事を読んでもらえれば明らかでしょう。なにせ手続きが複雑な割に、解雇できる労動者が限定的で、社労士も及び腰なわけですからね。
もちろん、この助成金を利用する企業がまったくないとは思いませんが、単に解雇するよりもはるかに人的労力のかかるこの助成金によって得られる効果というのは非常に限定的なものとなるでしょう。
関連記事:「リストラ助成金(労働移動支援助成金)」で労働者をクビにできるか
前編:概要編、
中編:社労士にとってのリストラ助成金編