第二の電通事件が起き、ネットではこの件について書かれたブログが溢れています。
電通「過労自殺」事件にみる労働生産性の低さ(池田信夫)
過労死といかに向き合うべきか(城繁幸)
溢れているし、著名な方々もすでにいろいろ述べた後なので、もう書くことないなあ、と思ったのですが、それでも一点だけ。
この記事の目次
1. 第二の電通事件
今回の事件が起きたのは昨年のちょうど今ぐらいの時期のこと。
女性の新入社員は、9月まで40時間ほどだった残業時間が、10月に一気に130時間に増え、翌11月にうつを発症、12月に自殺しました。
去年の事件が今になって大きな話題となっているのは、この自殺について労災認定され、それを遺族側の弁護士が記者会見で発表したからです。
(余談ですが、労災認定だけなら弁護士は不要。にもかかわらず、弁護士がすでについているということは、今後この労災認定を武器に裁判が始まる可能性が高い)
というわけで、今回は精神障害および自殺に関する労災認定について。
2. メンタルヘルス労災
労災認定には「業務遂行性」と「業務起因性」が認められる必要があります。
通常の労災の場合、業務中に起きた事故や災害についてこれらを見ていくわけですが、メンタルヘルスの場合、明確にそれとわかる事故や災害があるとは限りません。
また、一時的に超高負荷がかかって発症する場合や、長期的に高負荷がかかって発症する場合など、発症状況も様々です。
そのためメンタルヘルス労災の認定については、
- 対象疾病を発病していること
- 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認
められること - 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認め
られないこと
以上の3つの発症要件を満たすメンタルヘルスで、職場での心理的負荷が「強」と認められる場合、労災認定がされることになっています。
3. 心理的負荷「強」
さて、職場での心理的負荷が「強」とはどういうことでしょうか。
まず、厚労省が定める指針では、職場での心理的負荷を「弱」「中」「強」の三段階に分けて評価しています。
(厳密に言うと問答無用で「強」と判断される「特別な出来事」と、「弱」「中」「強」の三段階に分けて評価する「特別な出来事以外」という分け方をするが、「強」と判断されると労災認定されるのは同じ)
つまり、心理的負荷が「弱」や「中」の場合は労災認定されないけれど、「強」だと労災認定されるわけです。
心理的負荷が「強」と判定される場合とは、例えば、発症日前1カ月の残業時間が160時間を超えた場合がそうです。
あるいは、発症日前2カ月の残業時間がそれぞれの月で120時間を超えている場合や、発症日前6カ月の残業時間が月100時間を超えている場合なんかもそうです。
他にも、人の生死に関わるような事故を起こしてしまった場合や、職場でひどい虐めにあった場合なども「強」として判断されます。
4. 総合的に「強」と判断することも
また、厚労省の指針では心理的負荷「弱」や「中」と判断される場合でも、要因となるものが複数ある場合、総合的に「強」と判断される場合があります。
例えば、「ノルマが達成できなかった」というのは基本「中」ですが、同じく「中」のセクハラ(程度によって「強」となる場合や「弱」の場合もある)や、月80時間ほどの残業が続いている(「中」)といったことが同時期に起こっていたりすると総合的に「強」と判断される場合があるわけです。
その一方で、業務以外の要因が存在したり、被災者本人の個体的な要因が強い場合、業務上と認められない場合があるので注意が必要です。
厚労省の基準は以下の通り
心理的負荷による精神障害の認定基準について(PDF 参照:厚生労働省)
5. 自殺の労災認定
実は今回の事件、過重労働によるメンタルヘルスが労災認定されたというよりは、メンタルヘルスによる「自殺」が労災認定されました。
生命保険なんかそうですが通常、自殺は保険の対象外です。
しかし、労災では以下の通り、
精神障害によって正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、あるいは自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったものと推定し、業務起因性を認める。
心理的負荷による精神障害の認定基準について(PDF 参照:厚生労働省)
業務に起因したメンタルヘルスが原因の自殺については、労災認定することとしています。
労働時間こそ月130時間と心理的負荷「強」には至らないものの、生前のTwitterから垣間見られる上司からのパワハラ等を考えると、メンタルヘルスは業務に起因していることは明らかで、妥当な判断だったのではと思います。