中間管理録トネガワ(1) (ヤングマガジンコミックス)
カイジの宿敵とも言える「帝愛グループ」。その中で出世街道を歩む中間管理職の利根川に焦点を当てた作品です。
カイジ本編の裏側が見られる本作品ですが、カイジ的演出(福本伸行的演出)をギャグに全振り。
そのため、本編にあるようなハラハラ・ドキドキ感はありませんが、中間管理職である利根川の悩みや葛藤、ときどき喜びが読む人の哀愁を誘います。
この「トネガワ」、本編では今まで非合法な悪の組織として、その内側まではなかなか描写されることのなかった「帝愛グループ」の裏側、中身がかなり深いところまで描かれています。
その中には、社労士として見た時にこれはどうなのよ、と思わざるをえない点もあります。
まあ、誰あろう利根川自身が「帝愛は漆黒……! ブラック中のブラック……!」と言っているので、そんなのあって当たり前なのでしょうが…。
というわけで、今回は法的に、労務管理的に「帝愛グループ」の問題点を指摘していこうかと思います。
この記事の目次
1. 黒服の心をつかみたい利根川
トネガワの第1話のメインテーマは自己紹介。
帝愛グループ、というか、福本伸行作品のモブは「黒服にサングラス」と決まっているわけですが、読者からすると基本的には誰が誰でなんて見分けや区別はつきません。
ていうか、話に大きく関わることがないので、別にその必要もない。
それは、物語の主人公であるカイジや、帝愛グループの王、兵藤らも同様。
一方、中間管理職である利根川からすると、自分の出世には部下の協力が必要不可欠。
そのため、今回、新しく立ち上げられたプロジェクト(後の限定ジャンケンを行うプロジェクト)のために部下として集められた黒服ときちんとコミュニケーションを取るため、プロジェクトの開始前に自己紹介をさせます。
2. 利根川、名前が覚えられず乱心
しかし、この自己紹介が・・!
過ち・・!
失敗・・!
大誤算・・!
(ちょっとだけカイジ風に)
でして、
「山崎と川崎」
「荻野と萩尾」
似たような名字や「左衛門三郎」とかいう変わりすぎな名字に、中年(初老?)利根川の頭は大混乱。
おまけに揃いも揃って趣味は皆「ボーリング」。
我を忘れた利根川は、興奮のままに激昂、その日の会議をおじゃんにしてしまいます。
3. 名前と労務管理
凡人からすると山崎と川崎くらい覚えろって話ですが、いずれにせよ、利根川は自分の身勝手で人の名前に文句をつけ怒鳴り散らしたわけです。
この時点で立派なパワハラだと思いますが、パワハラは「帝愛グループ」では日常茶飯事なので(笑)、取り敢えず置いておきます。
今回取り上げたいのは、もっと広い意味での「名前」の問題です。
4. 採用前と名前
わたしの事務所でも手続き業務をしていると、なかなかに変わった名前、いわゆる「キラキラネーム」を最近ではよく見るようになりました。
しかし、会社や管理職はこうした名前によって、社員の扱い等を変えてもいいものなのでしょうか?
大前提として、それは採用前と採用後で大きく変わります。
採用前の場合、会社には採用の自由が大きく認められており、性別や年齢のように法律に制限がある場合を除き、誰を採用するかは会社の自由なわけです。
そもそもを言えば、「採用の過程」は求職者からすると完全なブラックボックスなことが多く、誰がどのような基準で選ばれ、落とされるのか、というのは外からでは全くわからないので、仮に「名前」を理由とした採用拒否があったとしても、それを証明することは難しいでしょう。
会社側がおおっぴらにしない限りは。
5. 採用後と名前
一方、採用後となると話は大きく変わってきます。
労働基準法では、
(均等待遇)
第三条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
との定めがあり、名前による差別は、その人の意思ではどうしようもないという意味で「社会的身分」に対する差別と考えられるからです。
名前というのはセンシティブな問題です。
わたしなんかも「川嶋」という字をよく「川島」と間違えられます。
慣れているので、別に嫌な気になったりはしませんが(相手にもよるけど)、心に引っかかるものがあるのも確か。
マンガ「トネガワ」では面白おかしく書いてるだけですが、現実の世界にも小学生ような言葉遊びで人の名前をバカにする大人がいますからね。
思わぬ問題に発展しないよう、くれぐれも気をつけましょう。
トネガワと帝愛グループについては今後もちょこちょこと取り扱っていこうかと思います。