労災保険制度

中小事業主や一人親方の特別加入は労働基準監督署に行けばできるのか?

2016年9月27日

わたくし、そこそこの頻度でヤフー知恵袋を見ます。

別にチエリアンになりたいわけではないので(笑)、解答はしませんが、一般の人が労働法や社会保険法のどんなところに疑問を持つのか、というのを知るのに割りと使えるから。

まあ、要は、ブログのネタ探しのために読んでるわけです。

で、そうやって意識的に見ることもあれば、検索エンジンでたまたま引っかかる、という場合もあります。

先週の中日新聞の記事のテーマは労災保険の特別加入だったわけですが、

この原稿を書く際に色々と調べていた時に引っかかってきたのがこちらの知恵袋でした。

自営業をしています。先日労働保険事務組合と…

2012年と質問された日付が古いですが、なぜか検索で引っかかってきました。

 

1. ベストアンサー…だと…?

この知恵袋、時空を超えて検索に引っかかってきた割には、ベストアンサーに選ばれてる解答がとにかくひどくて、

まず開口一番

結論から言えば、自営業者で、労災特別加入したければ、
そのまんま、近くの労働基準監督署にて、手続きすれば良いだけのことです。

(それでできるんだったら、うちの事務所だって愛知中◯SRなんて団体に加入してないって話)

 

それに続くのが、

絶対、社労士事務所とか労働保険事務組合に頼んではダメです。
なぜなら、この業者は、世の中のほとんどの事業主が、労働問題の知識が疎いことにつけ込んで、
高額の報酬を要求する、ボッタクリ業者ですから!

(たしかに君の労働問題の知識は疎いね。疎いのわきまえて、知恵袋に解答しないでくれる?)

 

しかも、事業主だって言ってるのに、参考資料としてリンクを張っているのは「一人親方の特別加入のしおり」。

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特別加入制度のしおり(リンク先PDF 参照:厚生労働省

こんな感じなので、ベストアンサーに選ばれなかった解答では、この解答への批判も噴出しています。

こんな感じがどんな感じなのかわからない人はこの記事の後半を読んで下さい。

 

2. 元社労士による犯行

わたしも自分のブログを汚したくないので、これ以上の引用は避けますが、このあとも、読むに堪えない社労士等へのうらみつらみが続くわけです。

で、なんやかんや気になったので、このアンサーをしたチエリアン(笑)のプロフィールを見ると、なんと救えないことに、この人「元社労士」

おまけにプロフィールにはご丁寧に自分のブログのURLが貼ってあって、そこに飛ぶと、自分の社労士試験の合格証書をぐちゃぐちゃに破いてる画像が出てきます。

このブログ、たぶん同業者の方は結構見たことあるんじゃないかなあ…。

わりと有名というか、おまえと一緒にすんな的な感じで、昔Facebookで批判されてた記憶があります。

ただ、ヤフー知恵袋はともかく、こんな元社労士のブログのアクセスに貢献する気はないので、リンクは張りません。

 

3. 3種類の特別加入

で、やっと本題。

この元社労士チエリアンが言うように、本当に労働保険事務組合や社労士を通さず特別加入できるのでしょうか。

結論の前に前提の話として、特別加入には3種類あるということを抑えておかないといけません。

  • 1つ目は中小企業の事業主等の特別加入
  • 2つ目は建設業の一人親方や個人タクシー運転手など特定業種の個人事業主のための特別加入
  • 3つ目は海外派遣労働者の特別加入

このうち、下2つは、たしかに労働保険事務組合は不要だし、社労士を通さなくても特別加入できます。

通したほうが手間が省けるので良いとは思いますけど(営業)。

ただし、2つ目の一人親方の特別加入については、社労士は最悪通さなくても良いにしろ、業種ごとに結成されている一人親方団体を通さないと加入できません。

 

4. 中小事業主の特別加入は必ず労働保険事務組合経由

で、この馬鹿丸出しの元社労士チエリアンが解答している今回の質問は、一人親方でも海外派遣でもなく、中小企業の事業主の特別加入のことを言っているわけです。

この時点で労働保険事務組合に頼まないなんて選択肢はゼロ。

労災保険法を見れば明確。

第三十三条  次の各号に掲げる者(第二号、第四号及び第五号に掲げる者にあつては、労働者である者を除く。)の業務災害及び通勤災害に関しては、この章に定めるところによる。
一  厚生労働省令で定める数以下の労働者を使用する事業(厚生労働省令で定める事業を除く。第七号において「特定事業」という。)の事業主で徴収法第三十三条第三項 の労働保険事務組合(以下「労働保険事務組合」という。)に同条第一項 の労働保険事務の処理を委託するものである者(事業主が法人その他の団体であるときは、代表者)

二~七は省略

第三十四条  前条第一号の事業主が、同号及び同条第二号に掲げる者を包括して当該事業について成立する保険関係に基づきこの保険による業務災害及び通勤災害に関する保険給付を受けることができる者とすることにつき申請をし、政府の承認があつたときは、第三章第一節から第三節まで及び第三章の二の規定の適用については、次に定めるところによる。

…いや、法律の書き方が複雑で全然明確じゃなかった。

全部抜粋すると長くてわけわからんし、一部抜粋するとそれはそれでわけかわらん条文になってる…。

まあ、でも、要するに、

「厚生労働省令で定める数以下の労働者を使用する事業の事業主」が特別加入して労働者と同様の給付を得たい場合は、「労働保険事務組合」に「労働保険事務の処理を委託するものである者」である必要がある、と書いてあるわけです。

法律に書いてあるのに、労働保険事務組合を通さずに特別加入できるって、あなた神ですか? って話。

 

以上です。

流石に4年半前の知恵袋なので書いた元社労士チエリアンも間違いに気づいてるのでは、と甘い期待をいだきつつ、でも、もうヤフー知恵袋に書いた答えは消せねえよとあざ笑いつつ、結局、今回の結論はヤフー知恵袋に質を求めちゃいけないよ、ということ、…じゃなかった!

えー、とりあえず、中小企業の事業主が特別加入したい場合は労働保険事務組合の加入はマストである、ということ。これが本当の結論。これだけきちんと覚えて帰っていただければと思います。なにせ、法律に書いてあるので。

ただ、労働保険事務組合はともかく、そこに社労士が絡んでくる理由が一般の人にはわかりづらいと思うで、次回はその辺についてちょっと解説したいと思います。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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