労働基準監督署の監督官を主役に据えたドラマ「ダンダリン」が日本テレビ系列で始まりました。社労士という仕事は労働基準監督官とはなかなか切っても切れない関係ですし、社労士という職業が比較的ドラマの中心に近いところに登場するという前情報もあって、普段ほとんどドラマを観ない私ですが視聴してみました。
しかし、ドラマの冒頭で主役・段田凛役の竹内結子が、年齢および性別差別な求人を出していた飲食店の店主に対して、法律の条文を盾に詰め寄るシーンを見てすぐに見る気が失せてしまいました。
演出側の意図としては、法に違反していたとはいえ初対面の人間に対して延々とそれを責めるおかしな人、という形で段田凛の特異なキャラクターを印象付けたかったのでしょうが、私にはただのバカにしか見えませんでした。
主人公の段田凛が自分の言葉を何もしゃべっていないと思ったからです。
法律の条文というのは段田凛ではない他の誰かが作ったものなのだから当然ですよね。他人の言葉、それも法律という逃れようのない圧倒的な力でいきなり他人を淡々と糾弾する姿に嫌悪感を覚えたのは私だけではないでしょう。
それにその後の彼女の規格外の行動も、彼女なりの信念に基づく行動なのかもしれませんが、その信念があくまで労働法とイコールなので自分の信念があるようで全然ないように感じてしまう。本当に信念のある人間というのはそうした法律や既存のルールや慣例と衝突を繰り返すため、法律やルールを上手く使おうとしたり、自分でルールを変えたり作ろうとしますからね。
断っておきますが、労働法だろうとなんだろうと法律というのはもちろん守らなければなりません。今回、段田凛の餌食になったリフォーム会社のように、労働法違反といえども逮捕の可能性がまったくないとはいえませんし(まあ、現実にはほとんどありませんが)、なにより労使間という私人間では不法行為に基づく損害賠償請求などの民事訴訟リスクが常に付きまといます。
ただ、それでもいただけない、と思ってしまうのは、私が事前に原作の漫画を読んでしまっていたからでしょうか。原作の段田凛は正義感が強すぎて多少熱血過ぎるところはあれど、比較的まともというかきちんと喜怒哀楽もあるし様々なことで葛藤したりもしますからね。そうした人間味溢れるところに、ともすれば社労士と対立しがちな労働基準監督官に対して、社労士である私がきちんと感情移入することができたのだからなおさら。とはいえ、まだ第1話が終わったばかり。最終的な評価を下すには早すぎますが。
ちなみに、物語の主題だったリフォーム会社に関しては、私レベルの社労士ではとてもじゃないが擁護不能なブラックだったので、段田凛がその会社に何をしようと私の中での評価は物語の冒頭の印象から上にも下にも動きませんでした。
最後は余談になりますが、実はこのドラマの第1話のOAがあった日、愛知では愛知県社会保険労務会の研修があり、会のお偉いさんが研修前の挨拶でこのドラマのことを話題に上げ
「社労士制度が45周年を迎える年に、ついにドラマで社労士が取り上げられた」
といったニュアンスのことを仰っていられました。結局、第1話で社労士にスポットが当たることはありませんでしたが、正直、そんなことで喜んでいるヒマがあったら、社労士が誕生して45年も経っているのにドラマの主役も張れないことにもっと危機感を持った方がいいのでは、と思った次第でありました。