昨日、ハローワークで書類の処理を待っていると、部下と思われるハローワークの職員が上司へ何やら報告しているのが聞こえてきました。
どうやら、会社を辞めた退職者が、離職票の退職理由と実際に辞めた理由が違うということでハローワークにやってきたようなのですが、それを証明するためにその退職者が持参した書類が明らかにおかしいらしい。
労働基準法第22条第1項に、労働者が請求した場合、会社は「退職の証明書」を交付することが義務付けられています。この証明があると、本当に前の会社を退職していることがわかるため、雇う側も安心してその労働者を雇うことができます。この交付義務はあくまで労働者の請求があった場合のみですが、会社によっては労働者の請求の有無にかかわらず交付するところもあるようです(その場合、労働者の請求しない事項を記入することは労働基準法違反になるので注意が必要です)。
件の労働者はおそらく、この退職証明書を持ってハローワークを訪れたのでしょうが、話を聞いているとこの証明書がどうもその退職者の手作りっぽい。
というのも、こうした会社から発行される書類というものには、会社印と、会社名や住所、その会社の代表者の名前が入ったゴム印が押されているのが普通です。しかし、その退職者が持ってきた証明書にはゴム印がまずない。会社名や住所の部分は手書きだったのです。それに印鑑も会社印ではなく会社の社長の苗字が入っただけの印鑑だったようです。これでは怪しまれて当然。
どうして、この労働者は退職理由を変更しようと思ったのでしょうか。
考えられるのは、失業手当です。
ハローワークで失業手当をもらう際、自己都合で辞めた場合と会社都合(解雇・倒産)で辞めたですと、失業手当の額は変わらないものの、もらえる日数が大きく変わります。
失業手当の日額 : 退職前6ヶ月の賃金総額 ÷ 180 × 50~80%
給付日数:一般の受給資格者の場合
給付日数:特定受給資格者・特定理由離職者の場合
※ 特定受給資格者とは、会社が倒産、もしくは会社に解雇された労働者のこと
※ 特定理由離職者とは、雇い止めにあった労働者、もしくは正当な理由のある自己都合退職者のこと
ご覧のとおりです。自己都合の場合、10年以上雇用保険の被保険者期間(厳密には算定基礎期間)がないと年齢にかかわらず90日と変わらない一方で、会社都合の場合は年齢によっては1年以上の被保険者期間でその倍の日数、失業手当がもらえます。
社会保険労務士が業務としている労働法や労災保険、雇用保険や社会保険というのは、殆どの場合、学校教育で習うことがありません。会社に入った時の各種公的保険の手続きは、殆どの場合、会社側がやってくれるのでまだいいのですが、会社を辞めると自分で行わなければならないことも増えます。その過程で退職理由によって失業手当の額が違うことに気づく、という例は珍しくありません。
アベノミクス効果か求人は増えているものの、正社員募集は必ずしも増えておらず、中高年の再就職に関して必ずしも状況が改善しているわけではありません。そのため、例の退職者も退職理由の変更を望んだのかもしれません。