労務管理

「リスク」はわかった。では、「労務管理上のリスク」をどう考える?

2016年8月24日

過去2回にわたって「リスク」について解説してきましたが、

今回はついに「労務管理上のリスク」について、解説していこうかと思います。

ただし、今回の記事は労務管理上のリスクとは何か、ではなありません。個別のの労務管理上のリスクについてはこのブログでもかなり書いてきましたので、そちらを参照してください。

今回は、労務管理上のリスクについて、どのようなスタンスで挑むのがいいか、という記事です。

また、過去2回読んでないと、かなり置いてけぼりの内容になるんで、そこのところもよろしくお願いします。

 

1. 多種多様な労務管理上のリスク

労務管理上のリスクと一口に言っても様々です。

労働条件が悪ければ、労働者が監督署に申告に行って調査に入られる、というリスクもあるし、裁判で訴えられるリスクや、合同労組やユニオンが団交に来るというリスクもあります。

上記のような場合、会社に非があるので仕方ないところもありますが、労働者がプライベートのSNS上で炎上させて、結果、会社にも被害がおよぶ、というようなリスクも最近ではあります。

また、中には因縁めいたモノをつけてくる労働者もいて、雇用された当初からそうしたことを狙っている場合もあります。こうなると、人を雇うことそれ自体がリスクと言えなくもありません。

 

2. 全体のリスクを効率よく許容範囲内まで下げる

前回、リスクとは、「全体のリスクを効率よく許容範囲内まで」下げることを目標に考えるべきものであると、述べました。

労務管理上のリスクも当然、考え方は同じです。

上にも上げたように、労務管理上には様々な種類のリスクがありますが、どれか1つに的を絞るのではなく、全体の中で突出して高いものを中心に、時間などの人的リソースやお金をなるべくかけないで行う、というのが大事になります。

人間なので、自分の気になるリスクを中心に対処してしまいがちですが、そのように視野狭窄的な対応を行うと、リソースを無駄にしたり、他のリスクに無防備になる可能性があります。

 

3. 労務管理上のリスクのエンドポイントは損害額

上記のような考えでリスクと向き合うには、エンドポイントを揃える必要があります。

エンドポイントを揃えなければ、全体のリスクを定量的に比較できないからです。

労務管理上のリスク、というよりも、会社にまつわる様々なリスクのエンドポイントとして適切なのは、やはり「損害額」なのではないかと思います。損害額が利益よりも多ければ、会社は潰れてしまうわけですからね。

例えば、監督署から調査のため調査官が来ると、対応しているあいだ、労働者や経営者の時間は利益を生みません。利益を逃しているという意味で、損害が出ているし、できなかった仕事分の帳尻合わせのために残業等を行えばその分も損失です。

これが裁判となれば、長期間での対応は必至で、判決の結果以前に、対応に費やされる時間や労力がそもそも損失となります。

 

4. 労務管理上のリスクをゼロにしたかったら人を雇うの止めるしかない

すでに述べたように、労務管理には様々なリスクがあります。しかし、すべての会社が、すべてのリスクに対応できるわけではありません。また、すべてのリスクをゼロにすることもできないし、そうすべきでもないでしょう。

どうしても、ゼロにしたいなら、人を雇うのを止めるしかありません。

(もちろん、人を雇うことには利益というか、いい事もたくさんあるのですが、今回はリスクの話をしているので、そのへん全部端折ってるだけ)

世の中にゼロリスクがなく、それを追求すると新たなリスクが生まれる可能性がある以上、ある程度のリスクは受容する必要があります。これは労務管理だろうと他のリスクだろうと一緒。

ただし、リスクの高い事象をそのまま放置しておくのは得策ではなく、少なくとも受容できる範囲内までは下げる必要があります。しかし、リスクを下げるには多くの場合、コストがかかり、1つのリスクに目を奪われては他のリスクにさらされる可能性があります。

 

5. 就業規則は「効率よく」「全体のリスク」を下げる

では、どうやって、労務管理上のリスクを「全体のリスクを効率よく許容範囲内まで」下げればいいのでしょうか。

この一助となるのは間違いなく就業規則です。

就業規則は社労士に作成を依頼すると、10万円以上はする、決して安い買い物ではないですが、その一方で、全体のリスクを網羅的に抑えることができます。

労働法の考えでは、就業規則の規定にどのように書かれていても実態のほうが大事、というのはあるものの、就業規則にキチンと書かれているかどうかが何より重要なこと、というのも現実と存在するのも確か。

もちろん、就業規則は周知徹底が原則なのでそれができないと「許容範囲内まで」下げることは難しいかもしれません。

ただ、就業規則がないのであれば作成する、就業規則が古いのであれば新しくする、それだけでも全体のリスクを下げられるのは確かだし、監督署の調査による是正勧告を少なくない数減らせるのは間違いないでしょう。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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