社労士、特にわたしが日々業務として行っているのは、労使の関係を取り持つためのルール作りがメインです。どうしてそういったことが重要かといえば、労使関係がこじれるとあらゆるリスクがあると考えているからです。
ただ、「リスク」「リスク」とは言うけれども、そして、実際、このサイトで「リスク」と入れて検索をすると、実に100近い記事が見つかりますが(この記事を書いてる段階の話)、では、そもそも「リスク」とは何なのかについて、今回は書いていこうと思います。
参考にしたのはこちらの書籍。
発行が2004年と少し古いですが(本音を言えば、30超えると10年前とか全然古く感じないんだけど)、ただ、著者の中西準子氏は、日本の反公害運動の草分けであり、リスク研究の第一人者ということもあり、本書を手にしました。
この記事の目次
1. リスクは日本語にない概念
そもそも、リスクには日本語訳となる言葉がありません。
これは何を意味しているかというと、日本人や日本語にはこれまでリスクという概念がなかったことを意味しています。そして、概念がないので、外来語としてそのまま使っている。
これが混乱というか、リスクという言葉の理解を阻んでいるように思えます。
リスクの訳は「危険」、というのは中学生でもわかる話ですが、しかし、「化学物質のリスク」とか「訴訟リスク」などという場合の「リスク」をそのまま「危険」と訳しても意味がわからなくなるだけです。
2. リスクとは確率
「リスクとは、どうしても避けたいことが起きる確率」というのが本書でのリスクの定義です。
「どうしても避けたいこと」というのは基本的には「危険なこと」と考えてかまいません。
ただ、ここでより重要なのはリスクとは「確率」である、という点です。
そう、リスクとは「危険の起こる確率」なのです。
確率なので、どんなに「リスクが高い」ことであっても、心配されることが起きない可能性もある。
その一方で、どんなにリスクが低くても、起きてしまうこともありうる、というのがリスクの悩ましい点です。
3. ハザード=そのもの固有の危険性
リスクを説明する上で外せないのがハザードです。
(著者はハザードとは別にエンドポイントという言葉を使い、両者を区別していますが、学術的にはともかく一般的にはハザードのほうがより使われていることから、ここではハザードで統一します)
ハザードとは、モノや事象が持っている固有の危険性のことです。
例えば、一部のサソリは人を殺すだけの毒を持った針を尻尾につけています。
サソリは海老や蟹といった甲殻類ではなく、どちらかというとクモの仲間だそうですが、日本にいるようなクモと比べると明らかにハザードレベルは高いといえます。
一方、人を殺すだけの毒がある、という意味ではスズメバチも同様です。
では、一部のサソリとスズメバチではどちらの方がよりハザードレベルは高いのでしょうか。
ハザードとは、モノや事象が持っている固有の危険性のことです。
両者の持っている固有の危険性は「人を殺すだけの毒がある」という点で同じです。
よって、厳密な毒性や致死量のことはともかく、「人を殺すだけの毒がある」という点でいえば、サソリもスズメバチもハザードレベルは同じということになります。
4. ハザード高≠リスク高
では、サソリとスズメバチ、両者のハザードレベルが一緒だとして、刺されて死ぬリスクまで同じなのでしょうか。
すでに述べたように、リスクとは危険性の起こる確率です。
言い換えれば、サソリが人を刺す確率と、スズメバチが人を刺す確率は同じでしょうか、という話です。
これは、日本に限れば圧倒的にスズメバチのほうが確率が高いといえます。
そもそも、日本に生息する野生のサソリは2種しかおらず、どちらも毒を軽微など串かもたず、生息域も沖縄と小笠原諸島に限られます。
一方のスズメバチは年間で10人から20人の人の命を奪っています。
5. リスク=ハザード×確率
つまり、ハザードレベルがどれほど高くても、それが起こる確率が低ければリスクは低くなるし、逆もまた然りということです。
ハザードとリスクの関係を公式風にまとめると
リスク=ハザード×確率
なので、ハザードの大きさばかりに目を奪われていると、意思決定時に致命的な失敗をしかねません。
例えば、サソリが怖いからといって、水際作戦で飛行機や船での輸入品や沖縄や小笠原諸島からのものをすべてを徹底的にチェックした結果、本州等へのサソリの侵入は防げたけど、結果、スズメバチ対策が疎かになって死亡事故が増えました、では意味が無いわけです。
参照:厚生労働省