健康診断の結果について、会社が知ることは、守秘義務等をきちんと履行していれば問題ないという話を以前の記事でしました。
コンプライアンスや労働者の安全に配慮すると、どうしても会社が知っておかないといけない部分があるわけです。
しかし、労働者の安全に配慮するためならば、会社は労働者の健康のことをなんでも知っていい、というわけではありません。
この記事の目次
1. 健康診断の法定外の項目
労働安全衛生法では、会社が健康診断を行う際、以下の項目について必ず検査するよう定めています。
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力及び聴力(千ヘルツ及び四千ヘルツの音に係る聴力をいう。次条第一項第三号において同じ。)の検査
- 胸部エックス線検査
- 血圧の測定
- 血色素量及び赤血球数の検査(次条第一項第六号において「貧血検査」という。)
- 血清グルタミックオキサロアセチックトランスアミナーゼ(GOT)、血清グルタミックピルビックトランスアミナーゼ(GPT)及びガンマ―グルタミルトランスペプチダーゼ(γ―GTP)の検査(次条第一項第七号において「肝機能検査」という。)
- 低比重リポ蛋白コレステロール(LDLコレステロール)、高比重リポ蛋白コレステロール(HDLコレステロール)及び血清トリグリセライドの量の検査(次条第一項第八号において「血中脂質検査」という。)
- 血糖検査
- 尿中の糖及び蛋白の有無の検査(次条第一項第十号において「尿検査」という。)
- 心電図検査
しかし、上記の法定の項目に加え、それ以外の健康診断を行う会社もあるでしょう。
これらの法定外の項目の検査については、労働安全衛生法とは関わり合いのない部分であり、会社がその内容を当然に知ることができるかというと、そうではなく、労働者の同意が必要となります。
そのため、健康診断で法定外の項目について検査する場合は、労働者にそのことをきちんと通知し、法定外の検査を選択制にしたり、あらかじめ同意をえておかないと、余計なトラブルを招く恐れがあります。
そもそも、法定外の項目の検査については、労働者側に受診義務があるのかどうかが問題になることもありますが、判例では基本的には受診義務はあるとされています(就業規則に記載があるとなおいい)。
2. 特定の病気の検診結果
健康診断のことを略して「健診」と言いますが、この健診と漢字違いの「検診」とは意味が全く異なります。
健康診断とは、診察や各種検査で健康状態を評価するものです。結果の数値等によって、自身の健康状態を評価したり、病気がないかを確認するわけです。
一方の「検診」とは特定の病気について、罹患していないかを調べるものです。
東京都知事選に立候補し見事に文春砲の餌食になって晩節を汚した鳥越俊太郎の唯一の公約「がん検診100%」なんかはまさにそれ。
こうした検診は法定外の健康診断の一種と言えます。特に女性従業員については、健康診断の際にマンモグラフィ検査を行っているところも少なくありません。(法定外の検診なので、会社が検査結果を知るには労働者の同意が必要です。)
3. HIVは例外
では、何でもかんでも検診で調べていいのか、それを受診命令として出していいのかといえばそうではありません。
その代表例がHIVです。
厚生労働省は平成7年2月20日の通達(平成22年4月30日改正)で、HIV感染の有無による労働衛生管理上の必要性が乏しいことや、日本でのHIVへの理解度が不十分であることを理由に、HIV検査を行わないよう会社に求めています。
このHIVの通達を準用するのであれば、「業務への影響が少ないもの」や「世間的な理解度が乏しく差別等を招く可能性がある」病気について、会社が検診を行うことは望ましくないといえるでしょう。
わたしの知識不足でHIV以外でこれらの条件に当てはまる病気が他に思いつきませんが、これらの条件に当てはまる検診・検査をお考えの場合は、検討しなおしたほうがいいかもしれません。
4. ストレスチェックの結果
体の健康から離れて、最後はメンタルの話。
昨年12月に制度が始まったストレスチェックですが、こちらの結果についても労働者の同意なく、会社が知ってはいけないことになっています。
こちらについては詳しくはこちらをどうぞ。
5. まとめ
今回のまとめです。
会社が労働者の健康管理で知ることができる情報は
- 健康診断の法定項目
のみ。それ以外の、
- 法定外の検査結果
- ストレスチェックの結果
については、労働者の同意が必要。
また、HIVのように
- 労働衛生管理上の必要性が乏しいもの
- 一般の理解度が不十分と考えれるもの
については検診・検査自体、会社が行うべきではないとされている。