この記事の目次
1. 法改正により社会保険の加入条件が拡大
平成28年の10月より、以下のように社会保険の加入条件が拡大され、
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)
- 1年以上継続して雇用される見込みがある
- 従業員501人以上の企業(従業員の数に含めるのは現行の被保険者)
- 学生でない
以上の1.~5.のすべてを満たす場合、その労働者は社会保険に加入しなければなりません。
見ての通り従業員数501人以上の企業が対象ですので、基本的には大企業が対象となる制度です。
追記:令和2年の法改正で、令和4年10月より101人以上、令和7年10月より51人以上の企業が対象になります(関連記事:令和4年には101人以上、令和6年には51人以上の会社が特定適用事業所に)。
2. 交通費や残業代・賞与は含まない
2.1. 交通費は含まれないと年金機構のリーフレットで明示
主婦や学生の方など、社会保険に加入したくない人からすると「月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)」という条件が気になるかと思います。
特に「月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)」の中に「交通費」「残業代」「賞与」を入れるのか入れないのか、では働き方が大きく変わるため気になるところでしょう。
しかし、行政の方からは、以下のような資料で、「月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)」に交通費は含めないとはっきりと記載されているのでご安心を。
2.2. 断言
以前(改正法の施行前)、年金機構に問い合わせたときは「まだわからん」みたいなこと言われて、「もう1年切ってるのにふざけんな」と思っていましたが、このようにお知らせが来た以上、はっきり断言できますね。
106万円の壁の中に通勤費は入りません
(でも、本当に大事なのは年間106万円ではなく、月額賃金8.8万円の方なのでお間違えないように!)
2.3. 残業代・賞与
また、残業代・賞与についても含みません。
というのも、月額賃金88000円については、あらかじめ決まっている賃金(所定内賃金)で判断するからです。
残業代や賞与は、その人が実際にどのように働いたかよって支払われるかどうかが決まるので、含める必要はない、というわけです。
ただし、
3. 検索エンジンに残るデマ
ただ、検索エンジンで「106万円 交通費」とかで検索すると未だに、106万円の壁の中に通勤費は「入れる」というガセネタが検索結果で上がってくるんですよね…。しかも、このブログの記事よりも上に!
…って、いや、百歩譲って、それは良いとしましょう。
というか、百歩譲らなくても、それは別にいいんですよ。
単に間違った情報が流通するっていうのは良くないことだと思うので、今回、もう一度記事にしてみた次第なのです。
(追記:さすがに令和3年現在はこうした記事が検索エンジンに上がってくることは減りました)
4. 標準報酬月額の出し方(超簡易版)
4.1. 月額賃金88000円は標準報酬月額では見ない
繰り返しになりますが、106万円の壁(月額賃金8.8万円)の中には交通費や残業代等入れません。
一方で、注意が必要なのは、社会保険料の計算するための「標準報酬月額」には交通費や残業代なども入れます。
そして、月額賃金8.8万円は「標準報酬月額」では見ずに、実際の賃金が月額88000円を超えているかで見ます。
かなりややこしいですが、この2つの区別が付かないと色々と厄介なので、ここでは「標準報酬月額」についても見ていきます。
4.2. 標準報酬月額の出し方
標準報酬月額に関しては、以下の表を用いて決定します。
表の右の報酬月額、とあるのが実際に労働者が会社からもらっている賃金の額です(いろいろな理由で、厳密には4月、5月、6月の賃金額を平均したものであることが多い)。
この報酬月額によって標準報酬月額の等級が決まります。
例えば、報酬月額が29万5千円の人の場合、上の表の右側、29万円以上31万円未満のところに当てはまります。
つまり、この人は30万円の等級ということになり、この30万に社会保険料率をかけて社会保険料額を決めます。
どうして社会保険ではこのような取り扱いをするかというと、標準報酬月額は将来の年金額の計算でも使うからです。ようするに将来の年金額の計算を簡潔にするために、あらかじめ切りのいい数字で計算しているわけです。
5. 106万の壁(月額賃金8.8万円)創設後の社会保険料計算の注意点
5.1. 月額賃金8.8万円に交通費や残業代等は含めない
さて、106万円の壁(月額賃金8.8万円)の中には交通費や残業代等入れないけれど、社会保険料の計算するための標準報酬月額には交通費や残業代なども入れる、となるとどのようなことが起こるのでしょうか?
例えば、交通費、残業代等含めないで一月の賃金が88000円未満の方は社会保険に加入しなくて大丈夫です。これはいいでしょう。
一方、交通費、残業代等含めないで一月の賃金が88000円以上となり、ギリギリ106万の壁に到達してしまった人の場合、社会保険に加入することになります。
問題はこの人の社会保険料の額が「88000×社会保険料率」となるとは限らない店です。
5.2. 標準報酬月額には交通費や残業代等を含めないといけない
なぜなら、繰り返しになりますが、社会保険料の計算に使う標準報酬月額の等級を決める際には、交通費や残業代等を含めないといけないからです。
よって、交通費、残業代等含めないで一月の賃金が88000円以上で、これにさらに交通費や残業代等を含めると一月の賃金が、例えば12万円となる場合、114000円以上122000円未満、118000円の等級となります。
つまり、社会保険料の計算は「118000×社会保険料率」というふうに計算しないといけないわけです。
これを間違えると、社会保険料が大きく変わってきてしまうので、(しばらくは大企業限定ですが)給与計算等される方は注意が必要です。
6. まとめ
以下、まとめです。
平成28年10月から従業員501人以上の企業では、
- 社会保険加入時の報酬月額:精皆勤手当、通勤手当及び家族手当を含めないで、実際の賃金額を見る
- 社会保険料の報酬月額:精皆勤手当、通勤手当及び家族手当を含め、標準報酬月額で計算する
月額賃金8.8万円に交通費や残業代等は含めないというところまでは難しくないと思いますが、標準報酬月額との関連を詰めれば詰めるほど、難しい部分が出てくる点に注意ですね。
今日はこんなところです。これから社労士会の研修があるので短く終わるつもりだったのですが。以外に長文になってしまいました…。
あと、この件についても書きたかったのですが、マジで時間がない…。
社労士の不祥事が続きますねえ、迷惑この上ない。