注意:本記事は熊本地震に書かれたものではありません。2016年1月の愛知製鋼の爆発事故に端を発したトヨタのライン停止について書かれたものです。
熊本地震についての休業についてはこちらに書きました。
トヨタは愛知製鋼知多工場(愛知県東海市)で1月に起きた爆発事故の影響により、ラインを8日から14日まで休止すると発表しました。
トヨタ、国内工場で1週間の生産休止へ グループ会社爆発事故で部品供給滞る
これ、愛知県や名古屋市近辺以外の人にはちょっとイメージしづらいかもしれませんが、実は、トヨタ関連の企業が多い愛知県や名古屋の経済圏では非常に大きな影響があります。
というのも、かんばん方式で極力在庫を持たないことで有名なトヨタがラインを止めるということは、その下請けである部品メーカー等のラインも止まってしまうということだからです。
よって、この期間は、トヨタ本体の工場はもちろんのこと、下請け企業の工場もラインを止めざるをえないでしょう。当然、そこで働く人たちも休業させないといけません。
となると、悩ましいのが休業補償です。
この記事の目次
1. 取引先の都合も会社都合
休業補償とは、労働日に会社の都合で労働者を休業させた際に支払わなければならないもので、労働基準法では平均賃金の60%以上を支払わないといけないことになっています。
今回の件、下請けの立場に立つと、会社の都合ではなくトヨタの都合なのでは、と思われるかもしれませんが、通常、取引先の都合での休業であっても、それは会社都合の休業となります。
というか、会社都合でない休業と認められるものというと、基本的に天変地異くらいしかありません。
よって、会社側からすると、ラインを止めて利益を生み出していないにもかかわらず、労働者には一定の金銭を支払う必要が出てくるわけです。そこで働く労働者の数にもよりますが、大きな損失になるのは間違いありません。
2. 休業補償への助成金
実は、こうした休業補償による会社の負担を減らすための助成金に、雇用調整助成金というものがあります。昔は中小企業緊急雇用安定助成金、略して中安金と呼ばれていたものです。
この雇用調整助成金では、会社が実際に支払った休業補償の額に対して、一定の率(最大で休業補償の10分の9の金額)助成するというものです。
この中安金はリーマンショックによる世界的な大不況がきっかけに創設されたもので、派遣村が問題になるなど、製造業では工場を止めるところが続出した際に、この助成金によりずいぶん助けられた企業も多かったようです。
その頃と比べると、ずいぶん景気も上向きになり、雇用調整助成金(中安金)をもらわなくなってずいぶん経つという会社も少なくないでしょう。
そのような会社でも、今回のトヨタの件では、過去の記憶をたどり、労働者を休業させるのであれば、雇用調整助成金(中安金)をもらおうとお考えの企業も多いかもしれません。
ただ、基本的には難しい、というか、ほぼ無理と諦めておいた方が無難かもしれません。
3. 雇用調整助成金には経営悪化の要件がある
なぜなら、雇用調整助成金には、
売上高又は生産量などの事業活動を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少していること。
という、要件があるからです。
リーマン直後は世界的な大不況の影響もあり、どこの会社も売り上げを落としていました。よって、この要件に引っかかることなく受給できるところが多かったわけですが、ここ数年、トヨタの影響力の強い名古屋経済圏は、トヨタの好業績もあり、基本的には景気は上向きでした。
よって、今回、トヨタの休業のあおりを受ける下請け企業の多くでも、直近3ヶ月の売上高や生産量が前年の同じ時期と比べて10%以上も減少している会社というのは、あまり多くないはずです。
4. 支給要件が緩和されたこともあったが…
過去には、鳥インフルエンザの影響や火山噴火の影響により、この経営悪化の要件が一時的に緩和されたこともありますが、
新燃岳噴火と鳥インフル被害に伴う雇用調整助成金の支給要件が緩和
これらは、影響が1ヶ月以上の長期に及ぶことが予想でき、それも天災に近いような要因によるものです。
今回の場合は愛知製鋼知多工場という私企業の過失による事故が原因である上、期間も1週間と短いため、雇用調整助成金の支給要件が緩和される可能性は低いと考えておいた方が良さそうです。