唐突に、今さらながら、ベッキーの話をすると、人間っていうのは、自分が何を、誰に売っているのか、ということを忘れてはいけない、と思わされる事件でしたね。
ベッキーでいうなら「清廉潔白で元気なイメージ」という商品を、「テレビCMを行うような大企業」に向けてこれまで売ってきたわけですが、今回の不倫騒動で商品は傷だらけ、お客さんの信用を失ってしまいました。
で、実は、このベッキーやSMAPの件の影で、芸能界に関しておもしろい判決が出ています。
この記事の目次
0.1. アイドルの恋愛禁止規約に対する司法の判断
こちらの事件、アイドルグループの一員だった女性が、恋愛禁止の規約を破ってファンと交際していたことについて、アイドルグループのマネージメント会社が、その女性と交際相手に対し損害賠償を求めた、というもの(この手の事件にありがちな、契約解除の有効性等は、女性が自主的に辞めているので争われていません)。
女性アイドルの商品価値の1つとして、処女性というのは重要な要素なのは間違いありません。特に彼女らの最重要顧客である10代~20代の男性からしてみればそうです。
特に最近多い「身近にいそうな女の子」路線だと、「身近にいそうな女の子でやることもやってる」となったら、彼女らの顧客がわざわざそのアイドルを応援する意味がなくなりかねません。
よって、法律的な有効性はともかく、恋愛スキャンダルが発覚すれば、アイドルとしての商品価値が下がるのは避けられません。
裁判所も、その点をきちんと考慮しており、恋愛禁止の規約自体には一定の合理性があると判断する一方で、アイドルのにも憲法13条における「幸福追求権」があるとし、会社の請求を棄却しました。
0.2. 「社内恋愛禁止」法的に問題はないが…
前置きが長くなりましたが、では、会社内での恋愛となるとどうでしょうか。
わたしは自分の就業規則に入れたことはありませんが、世の中には社内恋愛禁止の会社もあります。けれども、そもそも恋愛とは社員のプライベートな事柄でもあるし、それこそ先ほどの話ではないですが、労働者にも「幸福追求権」があります。
そんな憲法にも認められている権利を、会社は制限することができるのでしょうか。
結論から言えば、社内恋愛を禁止する、というルールそのものは法的には問題ありません。
会社からすれば、職場の秩序を維持することは業務を行う上で大切なことであり、社内恋愛その他、労働者の私的な自由に関する事柄が、職場の秩序に影響があると考えられる場合には、ある程度の制限は免れないと考えられるからです。
恋愛のケースではないですが、社員の私的な自由と職場の秩序については、「企業の円滑な運営のために必要かつ合理的な範囲内であれば制約することができる」と裁判所が判断したこともあります。
0.3. 社内恋愛禁止違反への罰則は
では、社内恋愛禁止というルールに違反した労働者を解雇などの懲戒処分に処せるかというと、話は大きく変わってきます。労働契約法では以下のように、
(懲戒)
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
労働者の懲戒・解雇について定めているからです。
社内恋愛により、会社内の業務に重大な支障を及ぼしたのであればともかく、単なる社内恋愛禁止違反が、客観的に合理的で社会通念上相当と認められるかというと、普通は難しいと思います。
社内恋愛が単なる恋愛ではなく、不倫関係の場合も会社の業務に影響がないのであれば同様に判断せざるを得ないでしょう。
0.4. まとめ
まとめると、社内恋愛を就業規則で禁止できるか、という問いに対する答えは、
禁止はできるけど、破ったからといって処分することは難しい
ということになります。
信賞必罰の観点からいうと、なんともモヤモヤする結論ですが、法律というのはえてしてそういうものなので、もしも、こうしたルールを社内に取り入れようと思う企業の経営者や人事・労務の方は、(禁止規定は)威嚇ぐらいにはなるかな、くらいに思っておいた方が良さそうです。
今回のブログを書くに当たっては、こちらの神戸大学の大内先生の本を大いに参考にさせていただきました。「どこまでやったらクビになるか」というタイトルですが、使用者側として「どこまでやったらクビにできるか」という観点で読むこともできます。