労務管理

岡山大学や大王製紙の事件で話題の内部告発者を守る公益通報者保護法とは?

2016年1月18日

岡山大学や大王製紙と内部告発に関する話題が続いているので、今回は、この内部告発者を保護するための法律である、「公益通報者保護法」について解説したいと思います。

 

0.1. ① 保護が受けられるのは労働基準法上の労働者

この公益通報者保護法、保護と法律名に付いていますが、保護されるのは誰かというと労働基準法上の労働者がその対象となります。他にも、一般職の国家公務員などもその保護の対象となりますがメインは労働基準法上の労働者となります。

労働基準法上の労働者とは

労働基準法第九条  この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

つまり、使用者に雇用されている労働者が、雇用主にとって不利益な、しかし、公益に資する情報を監督官庁等に通報した際に、通報した労働者が解雇されたり、不利益な取り扱いをされないよう保護する、というのが公益通報者保護法なのです。

なので、外注として請負契約や委託契約を結ぶものが、告発しても保護の対象にはならないわけです(外注の時点で内部じゃないけど、内部みたいな外注も世の中にはいるので)。

 

0.2. ② 正当な内部告発と認められるための要件

正当な内部告発と認められるためには大まかに、以下の3つの要件を満たさねばなりません。

  1. 通報内容の真実性
  2. 目的
  3. 通報手段・方法の相当性

1:当然のことながら、嘘や事実誤認の内部告発は保護の対象になりません。

2:通報者の私利私欲のためや、相手先を加害する目的の内部告発は保護の対象とはなりません。あくまで、公益性があると認められる正当な目的でのみ、保護の対象となります。

3:内部告発の通報先として、真っ先に浮かぶのはマスコミや行政官庁かもしれませんが、果たしてそれがベストな手段なのか、会社内部への通報による自浄作用は期待できないのか、などを総合的に判断した上での通報でないと、保護の対象にはなりません。

また、通報先によって、正当な内部告発と認められるための要件が変わります(後述)。

 

0.3. ③ 正当な公益通報と認められる法律は7+α

公益通報となる情報にも法律で定めがあり、内部告発者なら誰でも保護する、という法律ではありません。

基本的には以下の法律違反について、告発したものを保護することになっています。

別表

一 刑法(明治四十年法律第四十五号)
二 食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)
三 金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)
四 農林物資の規格化等に関する法律(昭和二十五年法律第百七十五号)
五 大気汚染防止法(昭和四十三年法律第九十七号)
六 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号)
七 個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)
八 前各号に掲げるもののほか、個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として政令で定めるもの

明確に公益通報者保護法で内部告発と認められるのは、7つだけ。

それ以外の法律の違反の場合、八の要件に当てはまらないといけないわけですが、会社に非のある内部告発だと、たいていは「個人の生命」「身体の保護」「消費者の利益の擁護」「環境の保全」「公正な競争の確保」「その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護」のどれかに当てはまりそうな気はしないでもありません。

 

0.4. ④ 通報先で内部告発が正当と認められる条件が異なる

内部告発の通報先には下記の3つが考えられます。

  1. 会社への通報
  2. 監督官庁への通報
  3. マスコミや消費者団体への通報

1は会社に対して、これは違法なんじゃないの?と告発するもの。2は例えば、運送業や建設業なら国土交通省に通報することを言います。3はまあ、そのままですね。

で、実は、この3つ、下に行けば行くほど、正当な通報と認められる要件が厳しくなります。

例えば1なら、これは違法なんじゃないか、つまり、怪しい、と思った段階で通報してしまっていいのですが、2の場合だと「信ずるに足る相当な理由」、すなわち証拠が必要なわけです。3だと、2に加えて「内部通報すると証拠隠滅や偽造の恐れがある」場合にまで限られます。

あまり、内部告発の要件を簡単にすると、むやみやたらな脅迫まがいの内部告発が多発しかねないのでしょうがないですが、2や3はちょっと厳しすぎる印象です。

また、1の場合も、裁判になれば結局は「怪しいと思った証拠」が必要になるのではと思います。

 

0.5. ⑤ 労働者の内部告発に対して会社ができること

内部告発されるような違法な行為はしない、というのは大前提ですが、会社が大きくなると、会社の見えないところで違法な行為を行う輩がでてきます。

そのような場合に、会社に通報してもらえれば、会社内で問題を解決できますが、いきなり外へ持って行かれると騒ぎが大きくなって収拾が付かなくなる可能性があります。

よって、社内に公益通報窓口を設け、その窓口がきちんと機能するよう、従業員に対して周知する必要があります。

間違っても、通報した者を即日解雇のような真似だけは避けないといけません。

内部告発

内部告発

「内部告発」でいい画像ないかなあ、と探してたら、ものすごい目力でこちらを見ていたので載っけてみました。Hip-HopのCDらしいですが、曲を聴いたわけではないのであしからず。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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