賃金

労働基準法や社会保険のことをよく知らないと人件費を見誤るという話

2016年1月7日

今回は企業経営者、特に中小の経営者の方にはちょっと耳の痛い話かもしれません。

企業経営などの場面ではよく「数字」が大事だと言われます。ただ、こうした場合に言われる数字というのはたいていが決算書に記載されるような数字のことをいい、数字から自社の状況きちんと把握したり、数字に基づいた利益目標を立てたりすることがメインに言われています。

で、当然、自社の数字をきちんと把握するには入ってくるものばかりでなく、出ていくもの、つまり、コストにも気をかけないといけません。

そのコストの中でも、会社にとって無視できないコストが人件費です。在庫を持たないサービス業なんかは特にそうです。

人件費を単なるコストと見なすのに抵抗のある人もあるかもしれません。わたしだって、人件費が単なるコストでないことは百も承知ですよ。人件費には投資的な意味が含まれることもあれば、労働の対価としての意味も当然ある。

でも、今回の記事の趣旨はあくまで人件費のコストとして部分に的を絞った話なのでその辺は割愛。

 

0.1. 人件費は基本給だけではない

世の中には、残業代をさせたのに残業代を支払わないとか、労働者から有給の申し出をされても有給を与えない企業というのが少なからずあります。フルタイムで働かせているのに社会保険や雇用保険に入れなかったり、という会社もある。

いつからかそうした企業をブラック企業と呼ぶようになりましたが、残業代を払わないのも有給を与えないのも立派な労働基準法違反、加入基準を満たしているのに雇用保険や社会保険に入れないのも当然違法。なので、こうした企業はブラック企業なんて曖昧な言い方はせず「違法企業」と呼べばよろし。

でないと、「ブラック企業」という言葉の定義が曖昧なままどんどん範囲が広がって、って、あっ、話がずれた。

で、こうした残業代や有休消化、雇用保険や社会保険などの公的保険の保険料というのは、労働者を雇う上で当然に発生する人的コストなわけです。しかし、労働者を雇う際に、こうしたコストを意識しない、もしくは人を雇うことでこうしたコストが発生することを知らない経営者は意外に少なくありません。

 

0.2. 契約を結んだからには支払わないといけない

別にそういう経営者の方の意識が低いといいたいわけではありませんよ。

残業代の計算も有給も、社会保険も雇用保険も普通の人には難しいし、学校では教えてくれないことなので、知らないのはある意味しかたない。

そもそも、上記のようなコストって、携帯電話の契約なんかで言えば「機種代ゼロ円」とか「今なら月々○○円引き」に隠された、様々な条件や付けないといけないオプションと似ていて、意識しないと気づかない。

ただ、契約したからにはキャリアの言うとおりに支払わないわけにいかないのが携帯の通信料であり、これは残業代や有休消化、社会保険料や雇用保険料等々、その他諸々の人件費も同じなわけです。

 

0.3. 今までは大丈夫だった?

中には、今まで払ってこなくても大丈夫だったよ、というような会社もあるかもしれません。

しかし、それまで払ってこなかった残業代は、労働者と裁判になれば利子付きで払うことになるし、社会保険料や雇用保険料だって、年金機構や労働局の調査が入れば過去2年に遡って徴収されます。

つまり、今まで払ってこなくて大丈夫だった、というのは、別に払わなくても大丈夫だったのではなく、相手が泣き寝入りしてくれていたから大丈夫だっただけで、基本的には将来へ支払いを先延ばしにしているだけです。

なので、相手に法的な力を使われたら、まとめて払わないといけない。法律で決まっている、というのはそういうことです。

幸か不幸か、今までは行政側の網がガバガバで助かっていたりしたところも、法人番号(マイナンバーの法人版)が本格的に利用されるようになると網の目はどんどん細かくなるでしょう。労働者の側だってこれだけブラック企業という言葉が浸透しているのに、簡単に泣き寝入ってくれることもない。

なので、労働法とかよくわからないけど、時給○○円くらいでパートを雇いたい、みたいな軽い感じで人を雇い始めて、そのあたりの支払いをまったくしないまま会社が大きくなると、後で、ほぼ必ずしっぺ返しを食らいます。

 

0.4. 人を雇うコストをきちんと計算できているか

で、そんなの払ったら会社が立ち行かなくなる、というのであれば、そもそもその会社は人を雇ってはいけなかったわけです。財布の中に1000円しか入ってないのに、スーパーやコンビニで1200円の買い物しますか? という話なのです。

なので、人を雇う際にはもちろんどのような人を雇うかというのは当然大切なのですが、そもそも自分は人を雇うコストをきちんと計算できているか、という視点が必要なのです。

特に、会社として人を初めて雇うときにそうした視点がないとその後もずるずる行ってしまい、しっぺ返しが大きくなる可能性が高い。

で、そうした人を経営には数字が大事というなら、このあたりの計算はきちんとできてないとダメなはずですが、なぜかこういう事を言う人たちの記事には書かれていません(笑)。

 

ただ、雇うコストを計算する上では、労働基準法や雇用保険法、健康保険法や厚生年金法の知識が必要となるわけですが、そうした法律をスタートアップの企業の経営者が勉強するのは大変だと思います。

しかし、社会保険労務士なら上記の法律の専門家で当然、経営者に代わって概算を出すことも可能、ということで、最後はなんだか営業っぽくなりましたが、人件費のどんぶり勘定にはリスクが付きまとうのでご注意を。

破産

後で訴えられたり、調査に入られてガッポリやられてからでは遅いのです

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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