年金・健康保険制度

130万円も106万円も社会保険の壁は累計ではなく「見込み額」で見るという話

2015年12月10日

昨日、一昨日と社会保険の「年収の壁」の話をしているので、今日は社会保険ではこの「年収」をどう考えるかという話をしましょう。

この時期になると、税務上の扶養から外れないように年間の収入を103万円を超えないよう調整するパートタイマーやアルバイトの方が増えます。まあ、当月締め翌月払いの会社なんかだと、12月に調整してももう遅いのですが(支払い月で考えるので)。

いずれにせよ、こうした調整を行う必要がある理由は、税務の場合、1月から12月までの1年間の収入の合計が103万円を超えると「103万円の壁」に引っかかるからです。ただ、配偶者の場合は、配偶者特別控除があるので、103万円を超えたら急激に税額が増えるということはありません。

 

0.1. 社会保険は見込額で年収を見る

一方、社会保険には配偶者特別控除のような段階的な措置はありません。

現在の社会保険料率は本人分だけで約14%、130万円を超え、扶養を外れ、社会保険に入ることになると、手取りが大幅に減ることになります(労働時間が通常労働者の所定労働時間の4分の3未満なら、必ずしも社保に入る必要はありませんが、その場合、国民健康保険と国民年金に入らなければなりません)。

それが嫌で103万円は超えたけど世帯主の扶養から外れる130万円は超えないように、と、実際の年収を130万円以下に調整しても、実はほとんど意味がありません。

なぜなら、社会保険の年収は実際の年収ではなく、その時点での「見込み額」で見るからです。

例えば、これまでの月収が10万円ほどのパートタイマーの方がいたとします。この時点からみた1年の年収の見込額は

10万円×12ヶ月=120万円

ですので、扶養から外れる必要はありません。

しかし、時給のアップなどで月収が10万9千円まで増えたとします。この月収増が、残業が増えたなどの一時的なものならいいのですが、昇給のように今後も継続してとなると話は変わってきます。

なぜなら、この時点からみた1年の年収の見込額は

10万9千円×12ヶ月=130万800円

となり130万円を超えてしまうからです。

130万800円はあくまで将来の見込みの年収額なので、この方は実際に130万円を超える年収を得たわけではありません。しかし、社会保険の年収とは実際の年収ではなく、その見込みが立った時点での将来的な年収をみるので、この方は時給がアップした時点で扶養から外れる必要があります。

 

0.2. 社会保険の扶養だと失業保険がもらえない理由

結婚を機に働いていた会社をやめたり、定年退職してハローワークで失業保険をもらおうとしたことのある方ならご存知かもしれませんが、実は社会保険の扶養に入っていると失業保険(基本手当)をもらうことができません(ハローワークの職員からそう注意されます)。

失業保険の額は在職中の給与や、退職理由によって異なりますが、1日数千円(最大でも8千円はいかない)が90日分、というのがほとんどです。

よって、普通は失業保険だけで収入が130万円を超えることはありません。

しかし、社会保険の年収の考えはあくまで見込みです。失業保険をもらうというのは、将来的に就職する、少なくともその意志があることが前提です。つまり、失業保険の額だけでなく将来的に就職した際の収入というのも見込むわけです。

そのため、失業保険をもらうということは社会保険の扶養には入れない。ハローワークからすると違法な失業保険の支給を行うわけにはいかないから、社会保険の扶養に入っている人には、失業保険はもらえないとアナウンスするわけです。

余談ですが、引退した高齢者が退職金代わりに失業保険をもらう際に「今後はもう働かない」みたいなことを言うと失業保険はもらえなくなりますよー。繰り返しになりますが、働く意志がない人に失業保険は支払われないのです。

 

大企業のパートタイマーやアルバイトの方の中には、来年の10月から設けられる106万円の壁を気にして、今から調整しようと考えている人もいるかもしれませんが、重要なのは来年の10月時点での見込みの年収なので、現時点ではそれほど気にする必要はないでしょう。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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